第29話まさかの法律です!
「と、いうわけなんです。ごめん」
「そう・・・なんだ・・・」
今日はまた王都に来ている。目的はシガルちゃんに会い、イナイの事を話す為だ。
お昼頃にシガルちゃんを捜索したら即見つけたので、彼女が出来た事を素直に話す。
因みにイナイに告白を受ける話をしたら、大きく目を見開いて凄く嬉しそうにボロ泣きした。
そこに偶々通りかかったミルカさんが一瞬で俺をボコボコにして、勘違いだとイナイに怒られ、俺とイナイに平謝りするという珍場面などもあった。
あの時のミルカさんは滅茶苦茶怖かった。
イナイも平静に戻って、ミルカさんも許して貰えた後にボソっと言った一言。
「イナイ泣かせたら、許さない」
もしそうなったら、絶対今回の比ではない目に遭うのは確実であろう。
イナイとはその後、すぐに結婚も視野に入れてるのかどうかをストレートに聞いてみた。
だが彼女は男女の付き合いという事自体に慣れておらず、夫婦として、という思考に行っていなかったらしい。
いやまあ、俺も経験無いんですけどね。
「あ、あたしさ、言った通り、そういうの無かったから、ちょ、ちょっと覚悟が、な?」
その時の彼女の答えに、覚悟ってなんの覚悟だろうかと思っていると。
「あたし、処女だし、ちょっと、怖い」
と、ボソッと言われて、言葉を脳が理解するのに数秒かかった。
「そ、そっか、そういうの気にしなくて良いから。のんびり行こう」
俺にはそう応えるのが精一杯だった。
いやだって、俺だって童貞っすよ。彼女居なかったんだし。
そういう意味では俺も覚悟が要りそうだ。ほら、初めてって上手くいかないって聞くし。
いやまあ、それは措いておくとしてだ。
そういう生々しい部分は抜きにして、イナイとの事を話した訳です。
「そっか、お兄ちゃん、おめでとう」
にっこり笑って祝福してくれるシガルちゃん。
あれ? 意外にあっさり。もう俺以外にいい人見つけちゃったとか?
「じゃあ、そのお姉ちゃんが1番目のお嫁さんだね! 他には居ないよね? 居ないならあたしが2番目のお嫁さんだね!」
「は?」
何を言っとるんですかこの子。二番目のお嫁さん?
何それ、どういう事? この国一夫多妻制なの?
確認の為にシガルちゃんに聞いてみる。
「違うよー?」
じゃあなんで2人目とか言ったの? 愛人枠なの?
止めようそういうの。怖い未来が見えるから。
主に俺がミルカさんにボコボコにされる意味で。
「ウムルは、多夫多妻制だよ。お互いの同意さえあれば、別に問題ないよー。同意がとれない場合は色々問題になるって、一人のおうちが多いけど」
衝撃の真実! すげえなこの国!
俺の疑問の意味を察したらしく、必要な説明まで付ける。
この子前に少し思ってたんだけど、半端に大人じみてね?
「だから、いつかそのお姉ちゃんにも会わせてね! お話したい!」
にこやかにそう言うシガルちゃん。
イナイにはシガルちゃんの話をしてるので、ここに来た理由は知ってる。
だから彼女がこう言う以上、イナイに引き合わせるのは吝かではない。
ミルカさんの目がちょっと怖いけど、そこは致し方ない。俺が悪いし。
「そのお姉ちゃん、お名前はなんていうの?」
お、しまった。彼女が出来たって事だけで、名前言ってなかったか。
「イナイっていう人ですよ」
イナイの名を告げると、シガルちゃんがびたっと止まった。
「ねえ、お兄ちゃん、その人、イナイ・ウルズエス・ステルっていう名前?」
「え・・・そういえば俺、イナイの名前しか知らないですね・・・ウルズエス・ステル?」
何だろう、洗礼名的な物も有るのかな?
「ウルズエスは最高の技工士の称号だよ!」
最高の『技工士』か、あの人ならありえるな。
しかし名字聞いてないとか、何してんの俺。
イナイに話をしてからまた後日という事に決まり、少しシガルちゃんと遊んでから帰宅した。
帰ると夕食までまだ時間が有るという事で、ミルカさんとセルエスさんに扱かれてしまう。
そのせいでイナイに話すのが翌日になってしまったが、イナイは快く引き受けてくれた。
その際にシガルちゃんから聞いた名前を聞いてみたら、普通にそれは自分だと答えてくれた。
俺は最高の技工士に技工教えて貰った上に、剣貰ったのか。
だが、そこでふと気になった。
「ねえ、イナイ」
「ん? どした?」
イナイに膝枕をされながら話す。
こういう関係になる前から、イナイはこうして頭を撫でたりしてた。
以前はこういう事が好きなのかと思ってたけど、今思うとそういう意味だったんだなと気づく。
だって完全に子供扱いされてる時もあったし、判りにくいっすよ。
場所は部屋です。居間では無理です。はずい。
いや、意識する前は居間だったけどさ! だったけどさ!
まあ、それは措いておいて、話を続ける。
「剣の名前のステルって、イナイの名前からだよね?」
「うっ」
「まだ、教えてくれないのかな?」
「・・・はぁ・・・良いよ教える」
どうやらやっと剣の名前の由来的な物を教えて貰える様だ。
「その代わりお前の付けた名前の意味も教えろよ?」
と言われたので頷く。
「言う通りステルはあたしの名前だ。家名だな。あたしの血族作という意味を持たせる事になる。んで、ベドルゥクは旅人や兵士に加護を与えた神話の女神の名前だ」
ふむ? 何も変なところはない、よね?
「何で教えてくれなかったのさ? 変なとこ何もないと思うんだけど」
「・・・この女神、他の意味も有ってな、愛情の女神でもあるんだよ。付けた当初は忘れてたんだけど、アロネスに後から突っ込まれて気がついた。ステル・ベドルゥクと続けたって事は、持ち主に、あたしから最大の愛を贈るものっていう意味にもなるって」
なるほど、そりゃ言えんわ。意図して無かったら恥ずかしいわ。
「だから言えなかった。そういう気持ちが少し芽生えてただけに、余計にな」
え、もうあの頃から意識されてたの? マジで?
「・・・そっか、イナイ、ありがとう」
「な、何だいきなり」
「イナイがあの剣を作って渡してくれたから、きっと今の俺は在ると思う」
あの頃にあれを倒せたのは、確かな自信になった。
そして何より、そこで止まる気にならなくなった。ありがとう。
「・・・そっか」
嬉しそうに目を細めて俺の頭を撫でるイナイ。
「さて、次はお前の番だぞ? 『ギャクラセンケン』の意味」
「あー、ね」
俺はそのまんま意味を語った。見たままの名前だと。
剣の螺旋の方向が手元に向いてるからそう口にしただけだと。
「本気で見たまんまの名前だな」
笑われるかなと思ったら、意外と普通の反応だった。
「ま、異界の言葉だから傍からは意味は解んねーし、良いんじゃねーの?」
「そんなもん?」
「そんなもんだ。意味ある名前を付けるにしても、現存する組み合わせで付けるのも珍しくないしな」
「そっか、あんまり安直すぎるって笑われると思った」
「馬鹿だねー」
あっはっはと笑いながら、頭をグリグリされる。
「イナイだって、似た様なものじゃないか」
少しふてくされながら返すと、彼女は少し照れくさそうに「それもそうだ」と返す。
そのあとは他愛もない雑談をしつつ気が付いたら俺は寝てしまっていた。
朝になって、イナイがすぐ傍で寝ていた事には焦った。
翌日はミルカさんが何か言いたそうにニヤついていたが知らないです。
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