第28話衝撃の告白です!
ひゅっ、ぽちゃん。
自作の簡易釣竿を投げて、それをぼーっと眺める。
・・・・・・・・・・はっ、今の短時間で寝てた。
うーむ、流石に最近訓練がハード過ぎたのではなかろうか。
イナイさんに止められて良かった。
ぼーっと釣竿垂らしてる時間が心地良いなぁ。全然釣れてねーけど。
・・・・・・・・・・・・・はっ、また寝てた。
いかん、これは駄目かもしれん。このままだと、気がついたら釣竿が魚に食われてしまうかも。
冗談だと思うだろう? 冗談じゃないのですよ。
今釣りをしているこの川で、2メートルぐらいのでかいの見たから本気でありえる。
川に2mってワニかよ。
んー、食いつかないなぁ。何だかんだ2時間はウトウトしながらやってる筈なんだけどなぁ。
ちょっとお腹減ってきたな・・・一旦帰るか?
「釣れてねえな」
その声に振り向くと、イナイさんが立っていた。
今日も可愛いフリルのついたスカートと、可愛らしい花柄の上着を着ている。
全く気がつかなかった。ぼーっとしすぎかな?
「釣れないですねぇ」
俺はにこやかに答える。別に釣れなくても良いのです。
のんびり釣竿垂らしていたいだけなので。でも寝そうなのは頂けないなー。
「お前、何回か寝かけてるだろ」
「あははー、解ります?」
イナイさんは笑いながら持ってきたカバンの中からハンカチを取り出し、俺の口元を拭く。
「よだれ」
なんつー恥ずかしい証拠だ。
「イナイさんも釣りに来たんですか?」
照れ隠しに話題を変える。多分違うと思うけど。
「んーにゃ、これ持ってきた。食うだろ?」
そう言って、カバンの中からサンドイッチを取り出すイナイさん。
「ありがとうございます。ちょうどお腹減ってきたところでした」
「そっか、そりゃよかった」
そう言ってイナイさんは、俺の口元にサンドイットを持ってくる。
「え、あの」
「釣竿持ってんだろ。食え」
「あ、はい」
両手で持ってるけど、別に片手でも大丈夫とは言えない何かがそこにあった。
なので大人しく彼女が差し出す手から食べる。
「もぐもぐ、美味しい」
「そっか、そりゃよかった」
川の方を眺めながら微笑むイナイさん。
咀嚼して飲み込むと、また口元にサンドイッチが来る。なのでまた食べる。
それを一つ食べ切るまでやると、イナイさんは水筒を出してお茶を入れた。
「ほれ、冷たいぞ」
「あ、ありがとうございます」
お茶もさっきの様にイナイさんが持つコップから飲む。
何か、ちょっと恥ずかしい。誰かに見られてるってわけでもないんだけど、何か、ね。
ただ、凄いなと思った。イナイさんのその行動は押しつけに感じないんだ。
自分が食べたい、飲みたいと思うタイミングで差し出してくれる。
なので恥ずかしくはあるが、まったりした気分はそのままだ。良いな、こういうの。
そうやってサンドイッチを二人で食べきると、彼女は俺の後ろに回って座る。
背中に軽い体の体温が伝わってきた。
「イナイさん?」
「ちょっとこのままでいろ。今日は良い陽気だ。あたしも偶には外でぼけっとしたい日がある」
確かにイナイさんは洗濯と買い物以外では、外に出る事は余りない。
基本、家の中で過ごしてる事が多い人だ。
いつもありがとうございます、という気持ちをのせつつ。
「どうぞ、こんな背中でよければ」
と言っておいた。釣竿は相変わらず、何も引っかからない。
「なあ、タロウ」
結構な時間ぼーっとしてると、イナイさんが話しかけてきた。
「なんですか?」
「タロウのその喋り方、地の喋りじゃないよな?」
「そう、ですね」
ここの人たちにはお世話になってるし、みんな年上だ。
基本は丁寧に喋りたいからだけど、尊敬を払う彼女達に丁寧に喋りたいって理由もあった。
だから年下の子には油断すると崩れるんだけど。
「あたしは気にしねーからよ。喋りやすい喋り方で良いぜ。他の連中も多分気にしねえだろ。それにいつまでも固い喋りだと、何だか距離感じるしな」
「うーん・・・崩した方が、良いですか?」
「あたしはな」
「そう、ですか」
んー、こないだの馬鹿みたいなのならともかく、年上の人に敬語使わないのは少し抵抗あるんだけど、イナイさんはそっちのが良いのか。
「そっか、解った。とりあえずイナイさんにはそうする」
「ん、イナイで良い」
「解った、イナイ。今後はそれで」
「おう」
後ろに居るので表情は見えないが、声からは嬉しそうに感じる。
気のせいでないなら良いんだけどな。
その後は暫く会話も無くぼーっとしてると、背中に預けられていた重みが少し増えた気がした。
・・・・・もしかして寝ちゃった?
「イナイ?」
小声で呼びかけてみるが、返事はない。
「寝ちゃった、のかな」
なら、俺はこのままじっとしてよう。
タイミング悪く釣竿に反応があるがすぐに手を離す。ぐっばい釣竿。
俺が作った簡易釣竿で良かった。
捕食される釣竿に別れを告げて、背中にある暖かい感触を、ぼーっと空を見ながら楽しむ。
人が傍に居るっていうのは、心地良いものだ。
どれだけの時間かそうしていたら、ビクッと背中で動く感触がした。
俺も寝かけていたのでそれで目が覚めた。
「わ、わりい、寝てた」
やっぱり寝ていた様だ。焦る声がちょっと可愛い。
「良いよ、気にしなくて。いつも頑張ってるの知ってるから。ありがとう」
本当に心から思ってる感謝を伝える。
いつも良くして貰ってるし、あの家の管理は彼女が居なかったら誰が出来るんだってレベルだ。
あの人達の面倒見ながらやってるんだもん。凄いよ。
「・・・じゃあ、もう少し、このままで良いか?」
「勿論」
「・・・・・・・あんがとな」
お礼を言うのはこちらなんだけどなー。
まあ、背中を借りてるお礼だろうけどさ。
「な、なあタロウ」
「ん、なに?」
イナイの声が少し上ずってるように感じる。
どうしたのかな?
「タロウは、どんなタイプの女が好きなんだ?」
「ブフォッ!」
思わず吹き出した。いきなり何を言い出すんだこの人。
「な、なにいっへんお?」
いかん、ちゃんと喋れてない。焦りすぎだろ。
「あたしは、好きな男とか、居なかったんだ。タイプとかもよく解んなかった。良い男は周りに何人か居たのは理解してるんだが、そいつらと一緒に居たいとか、そいつらの子供を産みたいとかは思えなかった」
あれ? 思ったより物凄く真面目な話っぽい。
「ツレが恋人見つけたり、結婚も間近だったり、結婚してる奴も居たり、気がついたらそういう話は避けられねぇ年になってた」
そういえばイナイは見た目が若いから忘れそうになるけど、そこそこの年なんだっけ?
周りで結婚話が出だすって、今25~7ぐらいなのかな? 解らんけど。
「それでも良いと思ってたんだ。今まで。気の合うツレと馬鹿言って、世話焼いて、色んな道具作ってさ。そういう毎日で、きっとあたしは楽しいと思ってた。事実ここの生活はそんな感じで毎日が楽しかった」
そう、だね。イナイは毎日本当に楽しそうだ。
毎日毎日家事をやって、見てないとこで仕事もしてるらしいのに、凄く楽しそうにやってる。
皆を、ここの皆を大好きっていうのが、解る。
ただ、気がついた。今、イナイは、全部過去形で言ってる。
「タロウ、もしかしたら気が付いてるかもしれねえが、あたし達の樹海での生活はもうすぐ終わる。ミルカやセルが張り切ってるのはそのせいもあるんだ。悪く思わないでやってくれ。今後も同じ様に鍛えれるとは限らない。だから出来るだけをやっておこうとしてる」
あれ? 何か話題がいきなり変わった気がする。
過去形で言ってたのは、そっちの意味でなの?
てっきり好きな人でも出来たのかと思った。
「そう、か。イナイは寂しいんだ」
「寂しい、か。そうだな。寂しい。もう暫くしたら、きっと皆バラバラだ」
イナイは皆が、今後どうなるかの予想を語る。
リンさんは騎士として勤務に戻るか、もしくは求婚されてる相手に答えて嫁入りするか、どっちかをそれまでに決めるそうだ。
求婚されてたのか・・・。
ミルカさんは帰ったら結婚するつもりらしい。
ただ、国勤めは辞めるつもりは無いらしく、旦那さんになる人も承知との事だ。
あのぽややんとした感じの人とするのかな。
セルエスさんも帰ったら結婚するらしい。
8年待ってくれたら嫁入りすると言ったら本当に待ってくれた、気の長い相手だそうだ。
とはいえ8年間全く会わなかった訳ではなく、そこそこに会っている相手なので、セルエスさんも満更ではないとの事。
アロネスさんは故郷の、旧王都に帰るそうだ。
ただ国勤めを辞める訳ではなく、仕事は受けるけど本拠地はそこに構えるという形らしい。
薬屋をやりながら、国の仕事もという感じだと言っているそうだ。
アルネさんは王都に工房を用意されているらしく、そこで働く事に決まっているらしい。
弟子も作る約束をしているそうだけど、あの人教え方独特だと思うけど大丈夫かな。
「・・・イナイは?」
イナイからの返事がない。
ただ体がちょっと動いては固まり、という感じを何回かしている。
言いにくいのかな、自分の事は。イナイが言えるまで待とうと思い、空を眺める。
「あ、あたしは」
暫くして、イナイが話し出した。
「ここに、残ろうと思ってたんだ。ここなら設備は整ってるし、あたしにはこの腕輪があるから、距離はそんなに問題じゃない。それに、あいつらが遊びに来れるようにしてやろうとも思ってたんだ」
思ってた。つまり、今は違うという事かな。
「でも、出来なくなった」
出来ない?
「出来ないって、何か問題が起きたの?」
「いや、違う。あ、いや、ある意味合ってるのかな」
ん? どういうことだろ?
「あたしにも、好きな奴が、出来たんだ。でも多分そいつは、この国から離れる可能性がある。あたしは、ここでそいつを待つのが寂しいと、思っちまうようになった」
ああ、成程。
それまでそういう事を考えてなかったイナイには、トラブルの様なものか。
「あたしは最初、この話を誰にもするつもりはなかった。ミルカやアロネスには絶対バレてるとは思ったけど、それでも言い出せなかった。年がさ、離れてんだよ」
年上なのかな?
「でもこないだミルカに言われたんだ。そんな事関係ないって。あたしがどうしたいんだって。
いっつも世話焼いて、それこそガキの頃から面倒見てた妹分にさ。何か、置いてかれた気分になったよ」
そうか、この人達、子供の頃から友達だって言ってたっけ。
ミルカさんから見たら、きっともどかしかったんだろうな。
あの人すごいストレートだし。
「だから覚悟を決めた」
つまり、その相手に告白しに行くという事かな。
多分そうだろう。
「聞いてるか?」
少し不安そうな声が聞こえる。しまった、相槌もうってなかった。
「きいてるよ。大丈夫」
「そ、そっか、なら良いんだ。正直こんな話、二回も出来る自信が無い」
そんなに気合のいる話を俺にしたのか。
何か、嬉しいな。俺は彼女に、彼女達にそんなに近いところに思って貰えてるのか。
凄く、嬉しい。
「頑張って。イナイなら大丈夫だよ。こんな美少女に告白されて嫌な男なんて、そうそう居ないって。もし居たらそいつはきっと男の趣味があるね」
イナイの気を少しでも軽くしようと、少し冗談を言う。
「・・・本当に、そう思うか?」
「うん、可愛いよ。イナイは間違いなく可愛い」
「あたしは、歳はもう35過ぎてるぞ?」
「・・・え?」
うっそ、もっと若いと思ってた。
そもそも子供みたいな見た目だから年齢不詳感すごかったけど、年齢不詳にも程があるだろ。
いやでも、だから何だと言うんだろう。年齢なんて関係ないんじゃないだろうか。
更に言えば、見た目も俺にとってはあんまり関係ない。
勿論、イナイが美少女だっていうのを言い直す気はない。
けど、彼女はそんな物より素敵な物を持ってる。
彼女の傍は心地良いんだ。それはもの凄く素敵な物だ。
俺はその考えを、素直に伝えた。
「・・・そう、か」
何か、あんま嬉しそうな感じじゃないな。
・・・こういうのは他人に言われても、そうそう自信が持てる話でもないか。
「タロウ、一回しか言わない。というか、二回も言える気がしないから、よく聞いてくれ」
聞いたことがないぐらい弱々しい声でイナイがそう言った。震えてる様に感じる。
「解った、しっかり聞く」
そう言って、静かに、一言一句聞き逃さない様に耳を澄ます。
「多分きっかけ自体は、女として見れるって言葉を聞いたせいだ。理性ではそうじゃないって実は解ってる。けど嬉しかったんだ。こんな見た目なせいか、そういう風に言ってくれる奴は居なかったから」
震えながらイナイは続ける。声がもっと擦れてきている。
「だから正直、いつからこんなにはっきり想いを自覚したのかはわかんねぇ。けど、そうだって気づいたのは確かなんだ。あたしは、そいつが好きなんだって。好きになっちまったんだって」
そこで区切って、はっきりと、よく通る声でイナイは言った。
「あたしは、お前が好きだ。お前が旅に出るならついて行きたいと思ってる。ここに残るのでも構わねえ。生活基盤の芽が出るまで面倒見てやる」
そう、衝撃の告白をされた。
「へ、返事は別に今じゃなくて良い! あたしは先に帰る!」
そう言って、いきなり離れ、凄まじい速度で走っていった。
あれ? イナイの速度、あの外装無しで俺より早くね?
いや、それよりも何て? 俺を好き? イナイが?
きっと美味しくなかったんだろう、釣竿の破片が俺の傍まで流れて来るのを眺めながら、どう返事をしたものか悩む。
好きじゃないか? と聞かれたら、それは好きだろう。
でもそれが男女の好きか? と聞かれれば、正直解らない。
ただ、イナイの傍が心地いいというのは間違いない。
・・・辺に誤魔化したり、無理やり結論づけたりせず、それを話してみようか。
そしてそれでも、俺の傍に居てくれるのか聞いてみよう。
卑怯かな? 卑怯かもなぁ。うーん。でも良い考えが思い浮かばない。
ああ、そうか、そもそも女性を好きになるっていうのが、よく解らなかったんだな。
イナイのおかげでそれが解った。俺のどこが良いのかも良く解らんけど。
特にこの世界では、良いとこ無しだと思うんだけどな、俺。
・・・あ、気がついた。
イナイの言葉を、良い方向で受け止める方で考えてるじゃないか。
なんだ、じゃ、決まりじゃんか。軽いって怒られそうだけど、こういうのは心に素直に行こう。
シガルちゃんに会えたら謝りに行かないとな。今度ちょっと王都に行かせて貰おう。
釣竿の破片を回収しつつ、そこを狙って飛びついてきた巨大魚をグーパンで殴り倒してお土産にして帰るのであった。
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