第23話亜人さんとの出会いです!
お昼を食べるのに良い所を探しながら歩いていると、そこかしこの道具に猫のマークが在る事に今更気がついた。
特に街灯についてるのをよく見かける。まさかこれ、全部イナイさん作なんだろうか・・・。
それに気がついて街中を見ながら歩くと、街は猫のマークだらけだという事に気がついた。
けど一人でこの量を作れるものなのだろうか?
流石に個人で作るには多すぎる。なにせ街中のそこかしこで見つけられてしまうからだ。
もしかすると発案イナイさんで、制作を任せているところがあるのかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていたせいで、気が散っていたのだろう。人にぶつかってしまった。
「きゃっ」
「わっ」
声からすると女性だ。うん、そのはずだ。
けどなんていうか、ぶつかった感触は『壁』って感じだった。
事実尻餅をついているのは俺で、向こうは普通に立っている。
「ご、ごめんなさい、大丈夫?」
そう言って手を伸ばしてくる女性。俺、情けない。
「だ、大丈夫です。こちらこそよそ見をしていました。すみません」
その手を甘んじて受ける。ちょっと恥ずかしいけど指し伸ばした手を取らないのは失礼だ。
俺の言葉を聞いた彼女は俺を引き上げながら、納得した表情で口を開いた。
「そっか、よそ見してたのか。なるほど、だから私のそばまで来たんだね」
ん? どういうことだろう?
彼女に言われた意味が理解できなくて首を傾げる。
「えっと?」
俺が困惑の表情をしていると女性は楽しそうに笑いだした。
「あはは、気がついてないの? ほら」
そう言ってスカートの中から何かを出してきた。
・・・しっぽ? 爬虫類っぽい感じのしっぽだ。
「はあ、立派な尻尾ですねぇ」
そのしっぽは、俺の足の2倍ぐらいの太さがあった。
女性自身の体つきは割と普通に見えるだけにやたらでかく見える。
「あはは! なにそれ! そんなこと言う人族初めて見た!」
さっきより楽しそうに笑う女性。笑顔が可愛いな。
あ、そういえば前にアロネスさんが亜人がどうこう言ってたな。
あれ? 王都にも亜人さんいるの?
「王都にも亜人の方が住んでたんですね」
「む、亜人って一括りな呼び方は好きじゃないな。私達は鱗尾族って名があるの。人族が多いからといって、私達を『亜人』と一括りはして欲しくないよ。私も人族って言ってるでしょう?」
そう言いいながら笑う女性。
あれ? 亜人は怖いものってなんかアロネスさん言ってたけど、普通に話せる人じゃないか。
「すみません、以後気をつけます。」
女性はそれを見てぱちくりと目を瞬かせたあと、すごくニンマリと笑った。
「君は珍しい人ね?私が怖くないの?」
怖い? どこが? 普通に可愛い女性じゃないか。しっぽ大きいけど。
それに話してる感じいい人っぽい気がするし。俺は何とも思えないなぁ。
「むしろどこが怖いのか教えて欲しいのです。俺としては普通に可愛らしい女性にしか見えないですよ」
そう言うと、女性は照れながら頬をかいた。
「なんか、調子狂うね君。普通ならこの通りの反応なんだけどね」
そう言って周囲に視線を促す。
さっきはよそ見をしながら歩いていたので気がつかなかったが、この人の周りは人がいない。
完全にこの人を避けている。
「・・・なんで?」
「君は私達の様な、人族以外の種族についての話を知らないの?」
「えーと、なんか人とちょっと違う人種、ですか?」
「ぷ、あははははは! なにそれ! 君は本当に面白いね!」
思いっきり笑われてしまった。どこだ、どこがツボだったんだ。
「そーか、そーか君は私たちに偏見がないんだ」
ひとしきり笑うと、彼女は楽しそうにそう言った。うーん、偏見ねぇ。
そう言われても噂しか聞いてない様なレベルの知識なので、偏見すら持ち様が無いというのが正しい。
「初めて会いましたから。俺は実際に見てから判断する性質なんです」
「そっかそっか。うん、嬉しいな。君みたいな人もいるんだね」
その言葉通り、彼女は凄く嬉しそうだ。
「ちょっと覗きに来てやな気分で帰るところだったけど、君に逢えて良かった。良ければ名前を教えてくれる?」
そうか、世間ではこの反応が普通なのか。
こちらを遠巻きに見てヒソヒソ何かを言っているのが聞こえる。
周囲全部がこの感じだと、そりゃ嫌な気分にもなるよな。
「俺は――――」
「あー! 魔術師のお兄ちゃんだ!」
名乗ろうとすると、聞き覚えのある声が聞こえた。
そうかそういえばこの辺りだっけ、昨日のあの子がいた。
「ああ、君か、あの後体は大丈夫でしたか?」
「うん! お兄ちゃんも怒られなかった?」
「今度から気をつけるようにって、軽く注意されただけですよ」
「そっか! よかっ――」
その子は女性を見て、固まってしまった。顔は明らかに恐怖の色が出てる。
女性は女の子の様子を見て、何だか寂しそうな顔をしている気がする。
「お兄ちゃん、この人と、しり、あい、なの?」
「えーと」
知り合い? どうなんだろ。今初めて顔を合わせた人だ。
けど名前を教えようとしていたぐらいだ。知り合いでおかしくなないだろう。
「そうですよ。いい人なので怖がらないで欲しいな」
俺がそう言うと、女の子はこくんと頷いて女性の方へ向いた。
「こ、怖がってごめんなさい。私シガルって言います。初めまして」
そしてそう言って若干震えながらペコリと頭を下げた。
そういえば俺も今初めて名前を知ったな。名乗ってなかったや。
シガルちゃんの行動を見て女性は本当に嬉しそうに、優しい笑顔で跪いて目線を合わせる。
「丁寧にありがとう。私の名前はギーナ。ギーナ・ブレグレウズ」
ギーナさんの優しい挨拶を見て、シガルちゃんは少し笑顔になった。
うん、やっぱ意思疎通ができれば問題ないと思う。
人だとかそうじゃないとかが問題じゃなくて、その個体の資質だよね。
そう思っていると「君は?」と言われた。そういえばまだ彼女にも名乗ってない。
「太郎です。田中太郎」
「タナカ、か。珍しい発音だね」
「あ、すいません、タロウが名前なんです」
「へえ、私たちとは名乗りが逆なんだね。面白いね、どこからきたの?」
「もう帰れないぐらい遠いところなんですよ」
「あはは何それ! 君はほんとに変な人だね!」
うん、やっぱりこの人は明るいいい人だ。
これならアロネスさんが言ってたように、きちんと意思疎通できると思うんだけどな。
「お、お姉ちゃん!」
「ん? なに?」
シガルちゃんがなにやら声を大きくして、ギーナさんを呼ぶ。
あれ? さっきまで笑顔だったのに、なんか複雑な顔してる。
「あ、あのね、お姉ちゃん、ほんとにギーナって名前なの?」
「え?うん、ほんとだよ?」
「そう、なんだ・・・」
どうしたんだろう、シガルちゃんの発言の意図が読めない。
「ギーナさまー!」
二人の様子を伺っていると、遠くに彼女の名を呼びながら走ってくる女性がいた。
ギーナ『様』ってことは、その部族では貴族的な立場なひと?
「あ、ごめんね、ツレが見つけてくれたみたい。実は私、迷子だったんだ」
何だ仲間か。
親近感が沸いた。すごく沸いた。
「じゃあね。ありがとう、少しの時間だけど楽しかった。また、会えるといいね」
「ええ、機会があればまた。その時はゆっくりお茶でも」
「あはは! それはいいね! じゃあね!」
そう言って彼女は手を振って去っていった。
しっぽが横にゆんゆん揺れてるのがお尻が揺れてるみたいに思える俺は、もしかしたらそういう属性があったのかもしれない。新しい世界に目覚めてしまったのか!
・・・脳内ボケはツッコミがいないのでさみしい。言っても引かれるから言わないけど。
そんな下らない思考をしながらギーナさんを見送っていると、ぽそりとシガルちゃんが爆弾発言をした。
「・・・フドゥナドル、ギーナ・ブレグレウズ? ・・・ちがうよね?」
・・・・あれ?
俺の記憶が間違ってなかったら、それ魔王って意味だったと思うんですけど。
・・え? 違うよね? ほんとに違うよね?
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