第22話やっと目的を果たします!

「おはよう少年!昨日は良く眠れたか?」


俺の寝ている部屋のドアを開け放ったおじさんは、いきなりそう言い放った。

無理やり叩き起こされた俺は、現状が把握しきれていない。

外を見るとまだ夜明け直後だ。つーか鍵かかってたはずなんですけど。


「どうしたどうした! いい若者がそんなゆっくりと起きてどうする! 人生は時間が限られているんだぞ!」


いや、そんなに生き急ぐ気はないです。というか、この世界で生き急いだら即死ぬ未来が見えるので、なるべく一人でどうにかなるまではゆっくり鍛えたいです。

その為にあの人たちにお世話になってるんだしね。

でなきゃ何も返せないのにお世話になってるこの状況は、自分自身あんまり許容できない。

イナイさんも一人旅の為の知識や技術を教える以外の事は、家の事やらせてくれないし。


「ふむ、寝ぼけておるのか?」


すみません、頭は起きてます。でも寝起きで気持ちがついていけてないです。

そもそも何しに来たんですかウッブルネさん。


「おはようございます。こんな夜明けからどうしたんですか・・・ていうか、鍵どうやって開けたんですか」

「鍵は店主が渡してくれたぞ?」


なんでだよ。どうなってんだよここのセキリュティは。

いや、この人偉いらしいから、信用は有るのか。

でも信用よりも客のプライベートを優先して欲しかった。


「そんな事はどうでもいいではないか、ほれ、早く朝食を済まして行くぞ」

「いくって、どこにですか?」


一体こんな夜明け前から何処に行くつもりだろうか。

ていうか、そのつもりなら昨日のうちに言って欲しかった。


「うむ、少年は買い物を頼まれているだろう。昨日は時間を取らせてしまったから案内をしようと思ってな。そのほうがすぐ終わって他に時間も取れるだろう?」


それは願ってもない事なんだけど、仕事はいいのだろうか。

俺一人に関わってお仕事サボリとか笑えないんだが。


「お仕事はいいんですか?」

「今日は非番だ。ほれ、剣も鎧もないだろう?」


そう言って彼は腰に手を当て、仁王立ちをする。

確かにこの街に来てよく見るおじさんたちのスタイルに見える。

いつでも騎士甲冑を着込んでいるわけではないらしい。そりゃそうか。

でも剣を持ってないのは意外だ。騎士の命! とか言いそうなイメージだった。


「騎士さんて常に剣は持ってるイメージでした」

「一応剣なら持ってはいるんだがな。昨日の剣は仕事用の剣だ」

「え? どこにですか?」

「君はその腕に何をつけている?」


なるほど、腕輪の中に入っているのか。いやいや、なんだこの高性能腕輪。

道具をサイズ関係なく入れられる。遠距離でも設定した道具は入れられる。転移も座標決まってるけど出来る。あとなんか持ち主に対する保護と、腕輪自体に強化もかかってる。


今更だけどこの腕輪の仕掛けの作り、なんとなく解るけど俺には作れないんだよな。

錬金系の魔術付与と、技工の回路がごちゃまぜになってる。

仕掛けそのものは理解できるけど、これでちゃんと動く理由が解らない。

多分俺が作ったら入れた物が中で消滅するか、腕輪が製作途中で吹き飛ぶ未来が見える。


「さて、では軽く食べて、すぐに行こうではないか」


そう言って、朝食もおすすめの所に連れて行かれた。

だが彼が注文した量は間違いなく『軽く』ではなかったと言っておきたい。

腹が苦しい。








「まずはここだな。技工で使う工具や部品類の店だ。イナイの奴は子供の頃からここの店主と懇意にしている」


まず、最初にイナイさんの頼まれ事をこなす為に、店の名前を伝えて連れてきてもらった。

でもこれ閉まってるっぽいんだけど。

こんな朝っぱらから店は普通開けないよな、うん。


「店主よ! 居るか!」


彼はそんな事は全くお構いなしに、スタッフオンリーっぽい部屋にずかずかと入っていく。

そこに躊躇という言葉は全く見えない。

すげえなこの人。


「おやおや、ボウドルの坊主。ここに来るのは珍しいねぇ、どうしたんだい?」

「店主、そろそろその坊主はやめて頂けぬか。もう私は50をこえているし、娘もいる身だ」

「こんな早朝からずかずか入ってくる礼儀知らずは坊主で十分だよ。それにちゃんとボウドルと言っているじゃないか」


カカッという感じに笑うお婆さん。こういう所の店主って、てっきり男性だと思った。

店主とウッブルネさんは知り合いだったのか。

だからあんなにナチュラルに入っていったんだな。

ボウドルってファミリーネームかな。ウッブルネ・ボウドルとかかな?


「ところで坊主、後ろの子はなんだい。私服で連れて歩くなんて隠し子かい。こりゃあ奥さんに言っておいたほうがいいかねぇ」


お婆さんは、俺とウッブルネさんにお茶を用意しながらそんな事を言った。

それに対しウッブルネさんは慌てて口を開いた。


「ち、ちがう、この少年は少し縁があって道案内をしているだけだ! 断じてそのようなものではないぞ!」


本気でめっちゃ焦ってる。恐妻家なのかな。

まあ、誤解だと言っておかないと俺にも被害が来そうなので、それで助かるけど。


「えっと、俺はイナイさんの使いで、えーと、これらを頼まれたんですけど」


店主のお婆さんにそう言ってメモを見せる。

どうせ店主がいるなら、口で言うより見せたほうが早いと思ったからだ。

ふむふむとメモを一通り見た店主は俺にメモを返した。


「なるほど、イナイちゃんのとこのかね。あんたイナイちゃんの男かい?」


メモを返しながら爆弾発言を言われたせいで、飲んでいたお茶を吹き出してむせた。

鼻にも逆流してきてめっちゃ痛い。何てこと言うのかなこの人。


「げほっ、げほっ、な、何言ってるんですか!」

「おや違うのかい。あの子はオススメだよ。言動はちょっとどうかと思うが、家庭的でいい子だし、いつまでも若々しいし、良い物件だと思うがねぇ」

「あれも、もうさん・・・」


お婆さんの言葉に続き、ウッブルネさんが何かを言いかけた瞬間固まって周囲を見回す。

その様子は先程の隠し子と言われた時と同じぐらい焦っている。


「ど、どうしたんですか?」

「い、いや、なに、なにか悪寒を感じたのでな。気のせいならいいのだ」


そう言いつつも冷や汗をかいている。本当にどうしたんだろう。

ていうか、何を言いかけたんだろうか。気になる。


「とりあえず頼まれたものはスグ揃わないから、5日後に全部揃えるとイナイちゃんに伝えておいてくれるかい?」

「はい、わかりました」


五日か、忘れないようにメモに書き加えておこう。

追加を書いていると、おばあさんが「ん?」と疑問の声を上げた。


「・・・その剣、イナイちゃんが作ったものかい?」

「あ、はいそうですけど」


逆螺旋剣の柄尻を指さしながら聞いてきたお婆さんに答える。

もしかしてこの猫のマークってイナイさんの作った物全部つけてるとかなのかな?

世に出てる物にもついてるなら、これ見ただけでイナイさん作と気づく感じなのかも知れない。


「ふ~ん、イナイちゃんがねぇ・・・」


なにか含みのある言い方をしたが、おばあさんはそれ以上は何も言わなかった。

俺も聞く気はない。もしかしたらイナイさんが言いたくなくて言ってないだけかもしれないし。


おばあさんは他にもこんな早朝から来た客に呼ばれ、その場を離れていった。

なので軽く店を見て回ったあとで、次の店に向かう。

また来る機会があったらゆっくり見てまわろうかな。工具コーナー楽しい。







「店主! いるか!」


あれー、ナンカ既視感あるなー? ついさっき同じ事してるの見た気がするなー?

次に案内してもらった店は、ちょっと怪しげな雰囲気の感じる店だ。

何やら鉱物類だったり、何か漢方っぽい物だったり、いろんな薬草毒草だったり、いかにも錬金術師が来そうな物の売ってる店だった。


「んだよ、朝っぱらからうっせえなぁ」


ウッブルネさんの呼びかけに悪態を吐きながら、ちゃらい感じの男前の兄ちゃんが出てきた。

なんなの、錬金術に関わる人ってみんな男前なの?


「聖騎士の旦那か。俺は何にもやってねーぞ」

「問う前からその発言は更に怪しまれるぞ」

「だから俺はいつだって何にもやってねーって」

「それは私の知る由ではない。弁明ならばしかるべき場所でやるのだな」


なんか、連行する前の会話みたいになってるんですけど。

今そういう話はしに来たわけじゃないと思うんだけどなー。


「あのー」


このままだと置いてきぼりになりそうだったので、とりあえず声をかける。

ちゃらい兄ちゃんはそれにちゃんと応え、此方を向いてくれた。


「ん、なんだ?」

「すみません、使いを頼まれて、えーと、こういう物をお願いしたいんですけど」


そう言って先と同じようにメモを渡す。

だってどう考えてもそのほうが早んだもの!

もうちょっと勉強頑張らないと駄目だな、これ。戻ったらもう少し教えてもらお。


「んー、ちょっと待ってろ。聖騎士の旦那も客が先だ。少し待ってろ」

「構わん。元々私はここに用はない」

「はあ? じゃあ何で来たんだよ」

「この少年の案内だ」

「ふーん、まあいいや」


そう言って奥に消える兄ちゃん。その間に店に並んでいるものを見る。

ここに並んでる物どれも桁が多い気がするんだけど、これはもしかして高いの?

それともこれが普通で昨日の屋台の値段が安いのかな。

これは市場に行って確認するしかないな。


そう大きくない店だったのですぐに一通り見終り、その頃に店主の兄ちゃんが戻って来た。


「わりい、少し物がなかったから10日後には入れとくって伝えといてくんねぇか?」

「あ、はい、わかりました」


どうやらここにも無い商品が有った様だ。

どっちの店でもこの答えって、もしかして元から俺に持って帰らせるつもり無かったのかな。

とりあえず兄ちゃんの言葉に頷いて、メモを返してもらう。


「ふむ、後は市場に行くか?」


返してもらったところでウッブルネさんが俺にそう聞いてきた。

待ってました。ある意味大本命です。一番行きたい場所だ。


「よろしくお願いします!」








「早朝に出たかいがあったな」


そう言ってウッブルネさんは周りを見回す。

市場は中々の賑わいがあり、人の数もそこそこ多い。

けどイモ洗いって程じゃないかな?


「この時間は一般の買い物客の時間だ。もう少し早いと料理店や、寄宿舎などの料理人が大量に買い付けに来ているな。その場合は料理人の許可証がないと買い物ができぬので、今ほどが丁度いい時間であろう。あまり遅くても何もなかったりするらしいのでな」


成程、その為にこんな早朝から連れ出したのかな?

それならのんびり寝てたのを起こされたのは感謝だ。

俺一人で探していたら最悪辿り着けなかった可能性も有った。

そう考えると案内は本当に助かった。


ウッブルネさんはそこで「ではな、娘と約束があるのでこのへんで失礼する」と去っていった。

あの人台風みたいな人だな。

とりあえず去り際にお礼だけは言っておいた。大分助かったからね。


市場にはイナイさんが料理に使っていた肉や野菜や果物が、所狭しと並んでいた。

日本にもあったような物も、見たことない物も色々あって楽しい。

一角には虫を販売しているところもあった。

佃煮っぽい感じの物もあれば、素揚げの物とかもあった。


とりあえずメモにある物を優先して先に買う。

日用品の類も売っていたので、その辺りもちゃんと捜しておく。

やっぱりなんというか、雑貨類のレベルが低くない。ボールペンみたいな物も普通に有るし。


その後ゆっくりと見て回り、やはり先ほどのお店の値段の桁がおかしいというのを確認した。

錬金術ってお金かかるんだな・・・・。

一通り市場を歩き居まわると結構な時間が経っていたので、ちょっと早いがお昼にするべく食事処を探して歩くことにした。

荷物はもちろん腕輪の中だ。どんだけはいんだこれ。

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