第17話おつかいです!

「・・・でけえ」


今俺の前にはとんでもなくでかい壁がそびえ立っている。塗り壁がいるわけではない。

俺は今、王都にきている。これは王都の外壁です。

なぜ俺がここにいるか? それはお使いである。


事の発端は、アロネスさんにこの国の通貨と金銭感覚を教えて欲しいと相談した事だ。

結果、自分で見てこいとイナイさんの作った腕輪を渡され、王都の前までいきなり転移させられ、これ買ってくるようにとメモ紙を渡され置いて帰られたのであった。


財布も渡されたので中を確認すると、なんと紙幣があった。

てっきり銅貨とか銀貨とか金貨が入ってると思った。

いや、なんか銅貨は入ってるんだけど、日本と同じく小銭と紙幣って感じのようだ。

この世界割と当たり前に紙があるな。あんまり貴重な気配はなさそうだ。家にもメモ紙有るし。


あ、中にもメモ紙が入ってる。

ふむふむ? あ、金額の説明がある。やっぱさっきの感覚であってた。

でもこの紙幣、国内でしか使えないそうだ。

国外用の両替機関もあるらしいから、そこに持ってくと替えてくれるみたいだ。


さて、お使いの方のメモ見てみよう。

なになに・・・ナニコレ?

なんかよく解らない物が沢山あるけど・・・あ、一段落目の下の方にイナイって書いてある。

イナイさんってことは職人さんの材料なのか?


んで次は・・・次もよく解らん。これはアロネスって書いてあるからアロネスさんだな。

その下は日用品がいくつかと・・・好きなもの買ってこいって書いてる。

完全に小学生がお使いに行く状態だ。


一番下に、この腕輪のボタンの左から3つ目を押すと印章が出てくるので、それを店主に見せればイナイさんとアロネスさんの分の支払いは大丈夫と書いていた。

戻す時も押せば勝手に入るそうだ。どうなってんだこの腕輪。

あ、店の名前も書いてた。


ん、もう一枚あった。なになに?

今日は街を見学して、払える値段の宿に泊まって、明日買い物して帰ってこい?

はあ、とりあえず今日は好きに街を見て歩けっってことか。

まあ、折角の機会だし楽しませてもらおうかね。






ところでコレいつになったら壁から門に辿り着けるの?

かれこれ1時間は歩いてるのにずっと壁である。

なんで門の前とか王都内とかに転移させてくれなかったんだろう。


しょうがないのでちょっと強化をかけて走る。流石に1時間歩いて辿り着けないのは辛い。

しかし片側はずっと壁だが、片側は素晴らしく広い農地になってる。遥か彼方まで畑だ。

門の外に畑って、魔物の被害とか大丈夫なのかな? ちゃんと対策済みなのかもしれないけど。

人の気配もしないし、どうやって管理してるのか謎だ。


強化状態で20分ほど走ってやっと門が見えてきた。

いやいや、遠すぎるだろ。これ普通に歩いてたらそれだけで日が暮れてた可能性あるぞ。

え、てことはこれ、王都内もそれだけ広いってこと?

まじかー、山で迷子になった俺には難易度高い。広いって時点で高難易度だ。


俺は自分が元々住んでた所もそこそこ田舎だ。

コンビニも原付で10分走らせないと無い様な所に住んでた。

東京とか行ったらきっと迷子になれる自信がある。行った事ないけど。


さて、門の前に兵士さんが居る。いかにも兵士! って感じの鎧と槍だ。

みんな素通り・・・じゃないや、なんか兵士さんに見せてる。

板? をぱっと見せて通過してる。じっくり見ずに流れ作業だが大丈夫なのかそれ。

ていうか、俺どうやって入ろうか。何にも持って無いんだが。


・・・もし何か言われたらイナイさんのハンコみせてみよ。

とりあえず兵士さんに話しかけてみる。


「あのーすみません」

「はい、どうされました?」


おお、おじさんの兵士さんだけど、ニッコリ笑ってすごい丁寧な返事。

てっきり兵士ってのから「なんだ?」って言い方で返されると思ってた。

偏見と思い込みは良くないね。


「俺、お使いでここに来たんですけど、来るの初めてで皆が入る時に見せてる様な物持ってないんですけど、どうしたらいいですか?」

「え、身分証を持ってない?」


ニッコリ笑っていた兵士さんから笑顔が消えた。

あれ? 心なしか気配が怖い。


「申し訳ありませんが、どこの国からこられたか、もしくはその使いに出された方から預けられた物など有りませんか?」


さっきのニッコリ加減が無い上に、声がちょっと怖い。

いやまあ、そっか、怪しいよな。普通に考えたら身分証がないっておかしいか。

日本の感覚で慣れてるからそのへん馴染みがないなぁ。

いや、そんな事のんびり考えてる場合じゃなくて。どうしたものかね。


「えっと、そうだこれ」


とりあえず、イナイさんのハンコを見せてみる。

すると兵士さんはまたニッコリ笑顔に戻った。よかった、大丈夫だった。


「ああ、成程、解りました。大変ですねぇ」


ん? 大変?

何の話だろうか。


「帰りのお荷物は貴方が一人で持っていかれるのですか? もし良ければ何人かよこしますが」


首を傾げる俺に、続けてそう言ってくる兵士さん。


「どういうことですか?」

「いえ、ご本人が来られるならば問題ないでしょうが、貴方一人でこられたのでしょう?」

「え、ええ一人です」

「あの方が街にこられる際の買い物の量は、通常一人で持って帰れる量じゃないと記憶しているのですが、今日は少量なのですか?」


どうなんだろう、このメモに書いてある物の大半が解らないんだけど、多いのかな?

ていうかイナイさん、入口の兵士さんに顔覚えられる程の凄い量の買い物してるのか。


「とりあえず、店主にこれ見せれば良いって言われてきたんですけど・・」

「それなら既に話は通っているのかもしれません。いや、注文だけなのかもしれませんね」


兵士さんが一人で納得している。俺良く解らない。

今回は発注だけって事かね。


「そうだ、せっかくですし身分証作っていかれてはどうですか? そこの詰所でも作れますよ。あの方が印章を持たせているなら問題ないでしょうし」


兵士さんにそう言われたので、素直に身分証を作る。有ったほうが便利そうだもんね。

渡された俺の身分証は、名前と国とこの詰所の名前が記載されてるだけの簡素な物だった。

国に仕えてたり、特殊な仕事だったりすると職業も入るらしい。

鉄みたいなもので出来ているが、専用の技工具で加工するらしく短時間で出来る様だ。


「この身分証は王都の管轄で作りましたので、貴方の身分は国内において王都の管理局が保証する物となります。無くさない様に気をつけて下さいね」


最初の時の様にニッコリと笑いながら渡してくれた。

管理局ってなんだろ。聞いてみよ。


「管理局って何ですか?」

「各街における人口や人種、男女年齢の把握をしている部署です。それらを参考に街の税を決めたりもしています。ただ、この身分証は単純にあなたの身分を保証するだけのものですので、この街の人口には含まれません。この街に住民登録をされて初めて街の人間として扱われます。その場合はその身分証に住んでる街も書かれますよ」


なるほど、住民登録あるのか。なんかファンタジーっぽくない。

でもそんなもんか。普通に文明が進めばそういう事は在るよな。


「丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、初めての王都でしょう。楽しんでいって下さいね」


とても親切な兵士さんに手を振って、開かれている門をくぐっていく。

王都を囲む壁は物凄い分厚かった。10mぐらいあるんじゃなかろうか。


街に入ると建物がひしめき合っていた。

家の裏に出ると田んぼだらけだった我が家を考えると、とんでもなく都会だ。

でも流石にビルとかは無い様だ。

かなり遠くにお大きい城のてっぺんぽい物が見えるけど、それ以外は大きくても4,5階建ての様だ。

イナイさんの技工具を見てる限り、高層ビルがあってもおかしくない気もするんだけどなー。


さて、どうしよう。

元々が田舎者なせいで、これだけ広いと何から見ればいいのやら解らない。

と、とりあえずお店っぽい並びを歩き回ってみよう。

住宅街っぽい方向に行ってもしょうがないし。







もぐもぐ。美味い。

あの後歩き回って屋台街のような所を見つけ、ご飯食べてなかった事を思い出して屋台の焼き魚を食べている。

噴水広場みたいなとこに椅子があったので、そこでこれまた屋台で買ったお茶を飲みつつご飯にした。


屋台がいくつも並んでたおかげで、なんとなくこの街の平均的な値段は解った。

この国、日本みたいに値段が最初から表記されてるおかげで凄く解り易い。

よく聞くファンタジーみたいに、聞いてから値段を言われるという感じはむしろ珍しい様だ。

材料を買う場合の値段も見ておきたいな。市場はどこだろう。


和やかなお昼を堪能していると「キャッ」「うおっ」っという声が聞こえた。

気になって、何となくそちらに視線を向ける。

すると男の服にアイスっぽいものがべったり付いて、女の子が尻餅をついていた。

女の子はすぐに立ち上がって謝っている。


平和だなぁ。俺はその光景をただそう思っていた。

女の子がその男に胸を思い切り蹴られるまでは。

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