第14話詳しい話を聞きます!
「ただ今帰りましたー・・・」
「おー、おかえり・・・・どうした?」
少々落ち込んだ気分で玄関の戸を開け、帰りを告げる。
そんな俺を明るく迎えてくれたのはアロネスさんだった。
他には誰も居ない様だ。
「あれ、アロネスさんだけですか?」
「そうだな、リンとセルは一緒に行ったし、ミルカとアルネはまだ帰ってきてない」
二人とは玄関で会わなかったから、転移で行ったのだろう。
ミルカさんはイナイさんと話してた筈なのに、家には居なかったのか。
「んで、どうしたんだ。えらく気落ちしてるが上手くいかなかったのか?」
「いえ、そっちは大丈夫です。ただ自分の自惚れ加減と未熟さに、ちょっとへこでんます」
本当の『力の差』を見せつけられてしまった。
鍛えるのを辞める気はないし、追いつけるなら追いつきたい気持ちはあるが、とりあえず今日は情けなくて辛い。
今更だけど俺は強化魔術と仙術の気功強化なしでは、ミルカさんとリンさんのシゴキのおかげで一般人よりはマシ程度なんだ。
自惚れ過ぎだったな。
「あー、イナイの『アレ』か」
アレ、とは多分あの外装の事だろう。
あれは流石にびっくりした。多分他にも色々あるんだろうなぁ。
あれ自体にギミックも有りそうだったし。
「はい」
「アレはちょっと特別だ。気に病むなって」
アロネスさんが励ましてくれるけど、こればっかりはちょっと立ち直りに時間がいる。
別に勝てると思ってた訳じゃないけど、何というか、自惚れてた自分が恥ずかしいのも有る。
「しゃーねえなぁ・・・」
アロネスさんは頬をポリポリとかきながらタオルを取りに行き、俺に投げつける。
そして少し呆れたように口を開く。
「とりあえず、ゆっくり風呂入って来い。上がったらちょっと面白い話聞かせてやる」
「面白い話ですか?」
「おう」
「はぁ・・」
面白い話ってなんだろう。気になる。
こういう、何かしてきたら言うっていうタイプの話は変に気になってしまう。
「ホラ、顔に気になるって出てんぞ。聞きたいならとっとと入って来い」
「ハ、ハイ」
言われた通り風呂に入りに行く。上がったら話すって言われたんだし、素直に従おう。
風呂に入って体を洗うと、体に小さな痛みが走った。
「いてっ・・・あー、すりキズが出来てたのか。隠れた時、かな」
これはイナイさんに気がつかれる前で良かった。あの人ちょっと気にしそうだからな。
今のうちに治しておこう。
「上がりましたー」
アロネスさんにそう伝えると、冷蔵庫から飲み物を出して用意してくれる。
ありがたくそれを受け取り、ソファに腰を下ろす。
「冷たい物用意しといたから、まあ飲みながら話そうか」
俺はお茶を渡されたが、アロネスさんはお酒の様だ。
アルコール独特の匂いがする。
「えーと、まず、だ。置き手紙にあった錬金術師の話なんだが」
「あ、そうか、アロネスさん錬金術師ですし、同業の有名人なら知ってますよね」
「あー、いや、それ俺なんだわ」
「え?」
「アロネス・ネーレス。それが俺のフルネーム」
ファミリーネームあったのか。
なんかよくあるファンタジー物みたいに、名乗らない人は無いのかと思ってた。
てことは他の皆も有るのかな?
「てことはあの人が聞いた噂って」
「ホントの事だな。ただ隠居してるってのとは違うんだが」
「もしかして、イナイさんが何か言ってたのと関係あるんですか?」
「正解」
もしかして、ここの人達が樹海に住んでる理由を教えてもらえるのかな?
疑問に思った事がないわけじゃないけど、聞いていいものか悩んでた。
「俺達は、実は国に仕える人間でな。仕事でここに住んでんだわ」
国に仕えるとな。みんな公務員だったんだ。
え、まさかのリンさんも公務員なの?
「仕事、だったんですね」
「そ、んで空いた時間に自分のやりたい事やって、たまに来る他の仕事やったりして暮らしてるんだが、そこは見ての通りだな」
アロネスさんがよくリビングで何か作ってるあれか。
そういえば軍からどうこうとか言ってた事も有ったっけ。あれも国からの依頼だったんだ。
「ちょこちょこセルとミルカが王都に行ってただろ。あれも報告とか、何か仕事頼まれたりとかで居なかったんだよ。まあ、ミルカはデートも結構あったけど」
あ、それ皆知ってるんだ。ミルカさん結構そういうの堂々としてるんだな。
相手の人、どんな人なのかなぁ。
「その仕事ってのが、この樹海に関してだな」
アロネスさんは窓を見ながら言う。
その先には真っ暗な樹海が有る。夜中に見ると若干不気味だなぁ。
「樹海・・・開拓とかですか?」
「むしろ逆だな、誰も入れない様に、魔物が出てこれない様にしてるんだ。ここの魔物は、結構強くてな。街に降りてきたら大被害だ。だからって開拓も出来ない。広すぎるし、人手を入れるには魔物が多すぎる」
あ、やっぱり強いんだ、ここの魔物。
弱い方って言われていたあの鬼が強いって認識されてる辺りで、何となく予想してたけど。
ていうか、素直に教えてくれるんだ。今まで何で言われなかったんだろうか。
「何より北に有る国がウムルに攻めてこないのは、この樹海が在るからってのも理由でな。だから陛下は、樹海から国の方に魔物が降りてこない様に結界を作れと言った。最近それがほぼ終わりかけてて、山を下りる魔物はだいぶいなくなった筈、だったんだが」
樹海の北って別の国なんだ。戦争とか有ったのかな。
それにしてもあんな広大な土地に張り巡らす結界ってとんでもないな。
「今日タロウが倒したのが、はなから結界の外に居たはぐれならまだいい。けど結界から出てきたなら、不備があってまだまだ出ていく可能性がある。今回イナイはそれを調べに行ったんだ。結界の装置は俺とイナイとセルの3人で作った物で、結構自信作なだけに不備があったんならちょっと落ち込みそうだ」
そう言って苦笑するアロネスさん。結界の装置すらアロネスさん達作なのか。
ていうかそういう事なら、イナイさん凄い重要ポジションだな。
装置って事は、技工具系の感じだろうし。
「ま、その結界で樹海を完全に分断できるまで設置していくのが、今の俺達の仕事だ」
「あれ? じゃあミルカさんとリンさん、それにアルネさんはなんで一緒に?」
その話なら3人でもいいはずだ。
少なくともリンさんは、そういう事に役に立てるとは思えない。
「それが、なぁ。まあ、隠れ住んでるってのはあながち間違いじゃないのかもな」
「どういうことですか?」
「この仕事をするもっと前に、俺達ちょっと戦場で張り切りすぎちゃってな。国では結構有名人になって、めんどくさい事が多かったんだよ。だからこの仕事で、ほとぼりが冷めるまでのんびり養生してくれ、って陛下が気をきかせてくれたんだよな」
戦場か。やっぱり、戦争が有ったのかな。アロネスさんも戦ったんだろうか?
他の人たちと違って戦闘系の雰囲気がないから解らないな。
しかし、いい王様だなぁ。
「それが気がついたらもう8年だ。セルとイナイ、俺も転移が使えるせいで普通に家にしちまってる。ミルカもイナイに道具を貸して貰って普通に王都に行けるから、こののんびりした生活が当たり前になって、離れられなくなっちまったんだよな。勿論樹海が広すぎて、設置した結界装置の整備をちょこちょこやらないとってのも理由なんだがな」
なるほど、設置して、はい終わりにはできなかったのか。
今もまだ終わってないから皆ここに居ると、そういう事かな。
「今は大分改良出来て、おそらく40年に一回整備すればいい程度にはなった。と思いたい」
「思いたい、ですか」
「今日の事があるからなぁ、ちょっと不安なんだよ」
そうか、イナイさんの報告しだいでは、どうなるか解らないのか。
もし不備が有ったらどうなるんだろうか。
「あと、あいつらがここにいる最大の理由は、俺たちが居ない時の緊急要員って扱いでもある」
「え、でもイナイさんやアロネスさんに直せないものは無理なんじゃ・・・」
リンさんに何か直せるとは到底思えない。
いや、絶対無理だよな。
「そりゃ無理だ。だけどあいつらの強さは知ってんだろ。抜けてきた魔物がいた場合の退治、そして状況維持の為の面子さ。国でここの魔物を単独で倒せるのは、おそらく今は50人いれば良いほうじゃねーかな。亜竜に関してはもっと少ないだろう」
この国の人口がどれぐらいか知らないけど、俺、その50人に入っちゃったのか。
いや、自惚れるな、さっきのイナイさんを思い出せ。
・・・よし、落ち込んだ。続き聞こう。
ん、ちょっと待って、アルネさんもあれ一人で余裕なのか。
あの全身筋肉は伊達じゃないんだな・・・・。
「国から何か要請があればすぐ行ける様になってるから、こんな所でのんびり暮らせてるんだけどな」
「王都との緊急連絡とかが出来る様になってるんですか?」
「あれ、見てみ」
そう言ってアロネスさんは玄関にある石を指差す。
精霊石・・・・じゃない。なんだったっけ。
「あれはまだ教えてなかったな。魔導結晶石っていう物だ」
まだ教えて貰ってなかった。
知らない物か。そりゃ解らないや。
「精霊石よりも魔力を圧縮して結晶化した物だ。あれを媒体に王都と直接話せる回線を繋いでる感じだな。魔力の通りがかなり良いから、魔術が下手でも通し易いんだよ。有事にはあれで連絡を取れる様になってる。イナイの腕輪にも連絡が行くから、誰にも伝わらないって事はない」
成程。魔力って便利だなぁ。
しかしそうなると、遠距離通信って割と一般的なのかな。
「でも、8年って、そんなに離れてていいんですか? 王様的にはどうなのか知らないですけど、職場的にはずっと休んでると思われるんじゃ」
「俺達はあれを大した驚異と思ってないし転移が使えるから良いけど、弱くて転移使えなかったらかなりの苦行だぜ?」
「あ、そうか」
こんな山奥で、かなり危険な魔物がいて、しかもそこで寝泊り。確かに普通なら無理だ。
一般人の視点なら、長年かけて大変な作業をしているっていうふうになるのか。
「知ってんのは国の上層部だけで、結界が完全に出来てから初めて、俺達がやったって公表するつもりらしい。だからその連中の誰かがポロっと口滑らしたのが噂になったんじゃねえかなぁ」
噂の出処はそういう事なのかもしれない。
でもそれって洩らしちゃいけない事なのでは。大丈夫なのかな・・・。
「その作業の一環と、確認中にタロウを拾った、ってわけだな」
「その節は本当にありがとうございます」
「拾ったのはリンとミルカだけどな」
そう言って笑うアロネスさん。
でもこの人にもいっぱいお世話になってる。感謝は同じぐらいしてますよ。
「これが俺達がここに暮らしてる理由なんだが、今まで一回も聞いてこなかったな?」
「いやー、聞いて良いのかどうか悩んでて」
「あっはっは、なんだそりゃ」
カラカラと笑うアロネスさん。特に隠してたわけではなかったのか。
説明を全部聞いて、ふと、一つ疑問に思った事がある。
さらっと流されたけど、北の国の話だ。
「そうだ、さっき樹海のむこうの国が攻めてこない様に樹海を残してる感じの話でしたけど、危ない国なんですか?」
「ああ、あぶねーな。あそこは危険だ。俺達も全員揃ってないと喧嘩売りたくないなぁ」
「全員?」
「ああ、あと2人いるんだよ、俺達と肩並べてた奴が」
「まだ二人も凄い人いるんですか・・・」
「一人はセルの弟グルドウル。もう一人は王の護衛として常に王城に勤めてるウームロウって騎士だ」
ここの人たち以外にも、まだ規格外の人がいたようです。なにそれ怖い。
しかしセルエスの弟さんか。
「ロウはともかく、グルドのやつは行方不明なんだよなぁ。よっぽどセルに負けたのが悔しかったんだろう」
「あ、もしかして、セルエスさんが前に言ってた弟って」
「ん? 聞いてたのか。それはグルドの事だな」
「殺し合いしたって言ってましたけど・・・」
「それも聞いてんのか。そうそう、あいつらお互いに本気で殺す気でやりやがってよ。一歩間違えたら本当に死んでたな。勝負した場所が荒野じゃなかったら街が更地になってただろうな」
何ですかその世紀末な戦闘。
でもセルエスさんニコニコしながら容赦ない攻撃出来る人だからなぁ。
「そ、そんな人達が恐れる国なんですね」
「まあ、リンだけは喜々として突っ込んで行きそうだけどな」
あ、解る。凄い目に浮かぶ。あの人剣振ってる時、楽しそうだもん。
倒す事自体は特に楽しいわけじゃないみたいだけど、戦うのは好きっぽいんだよな。
「フドゥナドル」
「え?」
「そこの王を皆そう呼ぶんだ。そう言われるに相応しい奴がいる」
「ど、どういう意味なんですか?」
「魔物の名と一緒で、古い悪魔の名前だ。今の意味でいうなら『魔王』だな」
魔王。いるのか、この世界は。
何となく、勝手にそういう存在は居ない世界だと思ってた。
「とはいえ、魔物を従えてるってわけじゃない。ただ人間と違う種族ってだけだ。人間にとっちゃ害意ある人間以外の者は『魔物』と思いたいんだろうな」
思ってたのと違った。それに、それは何か、さみしい気がする。
その考え方で魔王と呼んでいるなら、とても悲しい話だ。
でもアロネスさんの言い方が、何となく否定的に感じる。
「アロネスさんのその言い方だと、アロネスさんはそう思ってないんですか?」
「あの国のやり方はちっとこえーが、種族に関してはそうだな。意思疎通が出来るなら、仲良くやれんじゃねーかなって思う」
「良いと思います。そういう考え方、好きです」
「そっか、ありがとな。はは、酒が回ってきたせいか、ちょと暑いわ」
そう言って照れくさそうに笑う。男前は何しても男前だなー。
俺じゃこうはいかない。
「さて、少しは気が紛れたか?」
「はい、ありがとうございます」
全部気にならなくなったわけじゃないが、いい話を聞けた。
いつかその国へ行ってみたいという、少し危険な気持ちが芽生えてしまったけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます