第13話うぬぼれてました!

迷った。


しまった、カッコつけて颯爽と去るんじゃなかった。

うわー、真っ暗だー。どっち向いても真っ暗だー。山だー。そして疲れたー。

明かりがないからか、月と星が綺麗だなー。


・・・俺方向音痴だったのかな。ちょっとショックだ。

魔力使いすぎたし、少し休憩しようっと。


しかし、今回の事で少し新事実が判明してしまった。

やっぱあの化物とんでもない奴だったんじゃないか。

リンさん、樹海で弱いとか言ってたけど・・・あ、そうか樹海では一番弱い、のか。

嘘はつかれてないのか。すっげー騙された気分だけど。


でも、嘘でも良かったのかもしれない。

もし、リンさん達以外の普通の強さを見ていたら、俺はこのレベルになれなかった気がする。

俺は心の強い人間じゃない。この程度の強さは必要だと信じてたからここまでになれたんだ。

普通の強さを見ていたら、そのくらいあれば普通に強いんだと、そう思って枷を作っただろう。


今でも追いつける気はしないけど、今は師を目指したいっていう気持ちがある。感謝しなきゃ。

でもこれなら、ある程度は出来ると思っていいのかな?

勿論世間の事を知らないで出るのはどうかなと思うけど。


しかし、今回だいぶ余裕があった。

前回からどれだけ成長したかを試す為の真正面からの打ち合い、相手の攻撃をいなしての仙術、魔術、そして攻撃に力を込めての技工剣の魔力開放。

それでもまだ走れるし、魔力もある。だいぶ強くなった、かな。

ぐっと手を握り、今日の出来を噛み締めて息を吐く。少し、この気分に浸っていよう。


「っ、なんだ?」


とんでもない魔力の何かが近づいてくる。何なんだこれ。尋常じゃない魔力量だぞ。

さっきの鬼なんて話にならない化物が近づいてくる。

これと戦ったら死ぬしかない。そんな風に思えるぐらいの何かがこっちに向かってきてる。

恐怖で体がうまく動かない。怖い怖い怖い。


月明かりの影になる様に、息を潜めて隠れる。これに見つかったらきっと死ぬ。

頑張って戦えば善戦出来るとか、そんな次元じゃない。

今ここから感じる魔力だけで、俺の全力全開の魔力開放より大きい。


リンさん、ミルカさん、セルエスさんとの訓練が教えてくれる。

コイツは絶対戦っちゃダメだ。絶対勝てない。


甘かった。自惚れてしまった。こんな奴がいるのか。こんな奴にどうやって人間が勝つんだ。

リンさんなら勝てるのか? セルエスさんなら対処できるのか?

どんどんこっちに近づいてくる。頼む、こっちに来ないでくれ。

震える体の音でバレないかという気持ちが、さらに恐怖を誘う。怖い、怖い怖い。


怯えて隠れていると、ドォンと、凄い衝撃音と振動が響いた。

空から降ってきた。近い。すぐそこにいる。


なんでこんなにまっすぐこっちに? 狙いは俺? 嘘だろ?

頼む、頼む、頼む、向こうに行ってくれ・・・!


「―――――――」


怯える俺の耳に、何か喋っているのが聞こえた気がした。魔物が喋ってる?

息をひそめてその音を聞くと、やはり誰かが喋っている。


「おーい、タロウー。この辺にいねえのかー?」


イナイ、さん?

今の、イナイさんの声だ。


「っかしいな、この辺なんだけどな。おい、ミルカ見えるか?」


ミルカさんも来てる? え?

困惑のおかげで少しだけ恐怖がマヒしてくれた。


「そっか、あんがと。それはあり得る。タロウー、あたしだー。イナイだぞー」


確かに俺を呼ぶ声に、今もまだ震えている体をどうにか動かし、やってきた物を見る。


「お、居た居た、お前何やってたんだよー」


そこにはロボットの様な外装を身に纏い、尋常じゃない魔力を溢れさせてるイナイさんがいた。

ロボットには、両手首、両足首、背中、頭、胴に縦に二つ、合計8つの魔力水晶が光っている。

なんだ、あの機械。


「うん、見つけた。おう、すぐ帰る」


イナイさんが誰かと話しながら腕輪を触ると、ロボットが消えて彼女は地面に降り立った。

今のロボット、どこにいったんだろう。


「わりーな、もしかして怖がらせちまったか?」

「イ、イナイさん、だったんですね」

「おう、探しに来るのに一番早いと思ってな。あたしの一番の魔導技工外装で走ってきた」


外装。あれが、イナイさんの、実力。

勝てない。今の俺がどうあがいても勝てないと思える、絶望的な隔絶した実力差があった。

あれがリンさんと渡り合う力。つまりリンさんもあれクラス。そしてきっとセルエスさんも。


「魔力抑えらんねーから、魔物と勘違いして怖がらせたんじゃないかって言われちまったよ」

「そ、そうですね、すみません、怖かったです」

「あ~、ごめんな」


そう言って頭をポリポリかきながら謝るイナイさん。

いつものイナイさんがそこにいる。それでやっと、バクバク煩かった心臓が落ち着いてきた。


「あ、あの、ミルカさんは、どこに?」

「ん? ああ、通信機で話してたんだ」


通信機もあったのか。やっぱこの世界普通に道具が多いな。

山奥だから解らないだけで、街にはビルとかも有るのかな。

今日行った村は、物凄く田舎の村って感じだったけど。


「つーか、なんでお前はこんな所にいるんだ」

「すみません、迷子になりました」

「・・・手のかかるやつだな。んで、うまくいったのか?」


これは、さっきの人助けの件だろう。

テーブルに書置きを残しておいたので、それを読んだんだと思う。


「ええ、なんとか」

「そっか、そりゃ良かった」

「そうそう、あの鬼その村に出てきましたよ。一応退治しましたけど」

「何!? タロウ、すまん、ちょっと待っててくれ」


イイナイさんは焦ったように腕輪を動かして、耳に何かをはめる。無線イヤホンかな?


「セル、すまん、近くの村に樹海の魔物が現れたらしい。そいつはタロウが倒したらしいが、あれが村に降りたってことは、どっかに不備があったのかもしんねぇ。わりいけど、ちょっと確認してきてくれ。あたしもすぐ行く」


ん? 今のはどういう事だろう?

不備って何の話なんだろうか。


「イナイさん、今のって」

「タロウ、腕に掴まれ」

「え、あ、はい」


イナイさんに捕まると彼女はまた腕輪を触り、気がついたらもう家の前だった。

え? 何これ、転移?


「イナイさんも転移魔術使えたんですか?」

「やろうと思えば出来るが、面倒だから普段は道具頼りだ」


そう言って、彼女は腕輪を見せつける様に翳す。

この腕輪を使ったって事かな。


「技工具だったんですね、それ」


多分これもイナイさんが作ったんだろう。猫のマークがついてる。

本当に猫好きだな、この人。


「おう! 便利だぜ! アロネスに手伝って貰って錬金術の技術も組んでるけどな」


楽しそうにそう言った後、彼女は真剣な表情で樹海に目を向けた。


「わりいな、聞きたい事あるとは思うが仕事が先だ。終わったらちゃんと話すから」


イナイさんは俺にそういうと、樹海の方に走り出す。


「ちゃんと家にいろよー!」


そして手を振って、樹海の闇に消えていった。完全に子供扱いだな。

いや、実際そうなんだな。

さっきので思い知った。俺はあの魔物を倒せた事で彼女達に近づけているつもりだった。

けどそれは間違いだ。彼女達は、その本当の実力を一度も見せていなかったんだ。

本当に、子供と大人なんだ。


まだ、俺はここで頑張らないと。少しでもあの領域に手をかけないと。

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