第10話中間報告です!

鬼を倒す試験から半年程経ちました。

あれからまだ、体術訓練、魔術訓練、技工、錬金の勉強とそれぞれ頑張ってます。

今特にやっているのは、また違う事です。


「出来ましたよー」


俺はそういって、鍋をテーブルに移す。

今日はざっくりと鍋だけど、最近は料理も色々教えて貰っている。

勿論、講師はイナイさん。家事やってるの彼女だからね。


「おー、美味そう」


リンさんがヨダレを垂らしそうな顔で待っている。

この人欲望に忠実だなぁ。裏表がないのは好きだけどさ。

ただいきなり突拍子もない事言い出すのは止めて欲しいけどね。


「しっかし、覚えがはえーわ。元々やってたってのが理由だろうけどよ」

「先生もいいですしね」

「世辞はいらねえよ」


イナイさんは褒めるとだいたいこうやって否定する。本当なのにな。

料理も覚える様になったのは、単純な理由だ。

一人で生きて行く術を覚えるという事なら、自分で作れたほうが良いだろうという事だ。


元々家事はやる方だったので、覚えるのは楽だった。調味料がちょっと大変だったけど。

似たような物は向うと同じ名前で覚えてしまったので、咄嗟に名前が出ないのはご愛嬌。

偶にこっちにしかない物とか有るけど、大半は向こうと似たような物だ。


「いやー、しかし、タロウは異常なまでに物覚えが良いな」


食事の最中に、アロネスさんがそんな事を言いだした。

そうなのかね。その辺りは教えて貰ってる身としては、さっぱり解らない。

大体何を覚えても更にその先が有るから、どこまでやればいいのかも解らん。


「偏見が無いというか、思考の柔軟性が良いわよねー。魔術でもその傾向は現れてるわねー」

「うん。教えた事を、どんどん吸収しようとする」

「もぐもぐ」


それにセルエスさんとミルカさんも続く。

ただみんながのんびり世間話をする中、リンさんだけは黙々と食い続けている。

この人最初からそうだけど、自分のやりたいことに素直すぎる。

いや、良いんだけどさ、誰も気にしてないし。


「そうですかね? 自分では良く解らないんですけど」

「そうだな、まるで元々知ってたのかって思うぐらい、あっさりこなす時もあるしな」


俺の疑問には、イナイさんが答えてくれた

けど、イナイさんがそんな事を言うのには少し理由がある。

技工や錬金術で教えられる事は、向こうとは制作の過程で使われる道具や技術が違うものの、似たような物がある。

なので、そのへんの知識がある程度役に立っている気がする。


特に錬金術に関しては魔術に寄っているので、イメージの強さもある程度影響が出る。

だから、ゲームやアニメの知識もなんか微妙に役に立ってるっぽい。

普通の薬とか混ぜ物とかには一切役にたたないけど。


「しっかし、もう一人で生活するには十分な実力になっちまったんじゃねえか?」

「そうねぇー、物凄い詰め込み式で色々教えたのに、投げずに全部覚えちゃったものねー」

「皆が教えた内、どれかが肌に合えばと思ってたけど、全部覚えようとするとは思わなかった」


アロネスさんの言葉に、またもセルエスさんとミルカさんが続く。

この二人が言ってくれるって事は、本当にそこそこにはなれてるのかな。

勿論二人には一切敵わないけど。


「そうだな、技工はホントは教える気、無かったんだけどな・・・」

「いや、まあ、俺も元々はそうだったんだけどな・・・」

「もぐもぐ」


イナイさんとアロネスさんが、どこかイタズラがバレた感じな雰囲気を出している。

イナイさんは特に勢いだったもんなぁ。


「でも、楽しいですよ」

「そう言ってもらえると幸いだ。教えてるもんの、結構心配だったんだよ」

「俺への対抗心で教え始めたしな」

「てめえだって似たようなもんじゃねえか」


ニヤリと笑いながらイナイさんを見るアロネスさんだが、イナイさんはジト目で返す。

ぶっちゃけどっちもどっちだよな。


「そいやよ、タロウの技工の技はどれぐらいの事が出来る様になったんだ?」


アロネスさんの言葉に、イナイさんが一瞬ビクッっとした気がした。

なんか固まってる気がするけど気のせいかな?


「この間、技工剣作りましたよ。完成サイズはナイフサイズのです」

「おお、すげえな! あんな面倒な物、良く作ろうとか思うな」

「凄い、私すぐに投げた」

「手先が器用なのねー」

「・・・・・・」

「もぐもぐ」


あれ?

なんかイナイさんが下向いて黙ってるし、手も止まってる。

どうしたのかな。


「どんなん作ったんだ?」


気になったけど、アロネスさんに話の続きを促されたので意識を彼に向ける。

そして作った物を思い出しながら説明を続けた。


「えっとですね、ギミックとしては、サイズの可変式なんです。通常はナイフサイズで、起動すると、自分の使いやすいサイズに変形させられるんです」


あんまり難しい物作ってもと思って、なるべく解り易い物にしようとした。

まあ結果としてたいした物にはならなかったから、結局解り易いってなんだよって感じだけど。


「こっちの技術は凄いですね。魔力を通す前提で作ると金属自体の変形も可能になる上、接続部を魔術で埋め込んで中の空間に収められますし、色々な事が出来て面白いですね。魔力を通して離れた相手に届く様に作りたかったんですけど、刃を強化するしか出来ませんでした」


俺がそう言った瞬間、リンさん以外がビタァ! と止まった。

あれ、俺時間止めた?


「・・・イナイよ」

「イナイちゃん?」

「イナイ、何してんの」

「いや、うん、お前らの言いたい事は良く解る」

「もぐもぐ」


皆がイナイさんの名を呼び、イナイさんは皆を制すように手を伸ばしている。

どうしたのこれ。どういう空気なの。なんか珍しく、イナイさんが目を泳がせているし。

ただリンさんだけは我関せずでずっと食ってるけど。


「お前、魔導技工剣作らしてんじゃねーか!」

「いや、だって、コイツものスゲー勢いで作ってくんだって! どこまで出来んのかやらせてみたら、こう、やりすぎたんだよ!」


アロネスさんの言葉に、イナイさんが若干逆ギレ気味に返事してる。

え、なに、技工剣って作っちゃまずいの?

どうしたらいいのか困っていると、アロネスさんが話しかけてきた。


「はぁ・・・タロウ、お前自分が作ってる物が、どれだけ危ない物かの理解はしてるか?」

「えっと、まあ、刃物ですから」


刃物も扱うので危ないとは思っているけど、それは最初からそうだしなぁ。

それを言い出したら、リンさんの最初の訓練の方がよっぽど危ない。

いや、あれは危ないとかそういうレベルじゃない。


「これは解ってないわねー」

「だね、多分、セルねえの魔力制御術を学んだところが大きいのかも」


俺の答えにセルエスさんとミルカさんがそう言ってきた。

確かに魔術系の部品作る際の制御は、セルエスさんの授業がなければ無理だった。

でもあれがあったおかげで、技工も錬金術も魔術に繋ぐ部分の機構がとてもスムーズに出来た。

そのせいで余計に楽しかった。


「タロウ、技工の動力になってる魔力水晶、あるだろ?」

「ええ、はい」

「あれな、通常の技工道具なら、ただの動力源の貯蔵機になるだろ?」

「そうですね」


アロネスさんがひとつず確認するように聞いて来る。

聞かれた事は全部イナイさんに教えて貰ったので、全て頷く。

俺が頷いたのを見て、アロネスさんは続ける。


「でもな、魔導技工剣みたいな出力を用途によって変動させる様な物に使う為には、その使用時の変動に耐えられない様な作りにすると、爆発する可能性もあるんだよ」

「ば、爆発?」


何それ聞いてない。

あの水晶、爆発する事有るの?


「イナイー?」

「そんな目で見るなミルカ」


ミルカさんが咎める様にイナイさんの名前を呼ぶ。

珍しくイナイさんがミルカさんに弱い。

それを眺めていると、イナイさんが申し訳なさそうな顔を向けて口を開いた。


「すまん、タロウ、危険なのは知ってたけど、あたしが傍にいれば、最悪な可能性はないかと思って・・・それでも、言うべきだったな。わりぃ」


そう言ってイナイさんは頭を下げた。

いや、下げられても困ってしまう。むしろ世話になってる割合の方が大きいんだし。


「い、いや、良いんですよ! 謝らないでください! もしもの事も考えて、作るときはちゃんと言う様にって言ってたんでしょう?」


実際、技工剣を作り始めた時に「それはあたしの管理下でしか作るな」って言ってたし。

危機意識はチャント在ったんだと思う。

それの意思を伝えると、イナイさんは顔を上げてくれた。


「そっか、ありがとう」


彼女はそう言ってふわりと笑う。可愛い。ロリコンの世界に落ちてしまいそうです。

あ、でも実年齢は俺より上だった。この場合どうなるんだろう。


「しっかし、とんでもねえな。その短期間で魔導技工剣に手を出しちまうなんて」

「出来上がった物は、下手をすると普通の剣の方が頑丈でしたけどね」


ギミックは出来たものの、その完成品はかなりお粗末だった。

多分一回切りつけたら、もう使い物にならなくなるんじゃないかな?

今度一回試しに使ってみるかな。本気で振ったら壊れそうで止めておいたんだよな。


「それでも、凄い。普通は、作る事自体、無理」

「そうねー」


それでも褒めてくれるミルカさんと、それに同意するセルエスさん。

そうなのか。やってた感じ、魔力制御さえどうにか出来れば何とかなりそうだけどなー。

作るだけなら、だけど。良い物が作れるかどうかはまた別だ。


「そいや、あたしは兎も角、アロネスの錬金術はどんなもんなんだ?」

「錬金術ですか? この間、精霊石を教えてもー」

「あ、バカ!」


イナイさんに応えると、今度はアロネスさんが俺の発言を止めようとした。

そして皆の冷たい視線が、俺を抑えている彼に向いている。


「おい、アロネス」

「人の事言えないわねー」

「アロにい、さっき良くイナイにあんな事言えたね」

「もぐもぐ」


さっきイナイさんを責めた時の様な、皆が咎めるようにアロネスさんの名前を呼ぶ。

この流れはもしかして、そういう事かな。


「あたしをあれだけ責めておいて、お前の方もシャレにならねえもん作らしてんじゃねえか!」

「あー、あはははは」

「あははじゃねえ! 精霊石の威力なら魔力水晶の爆発力なんざ可愛いもんじゃねえか!」


イナイさんがアロネスさんに怒鳴りつけ、彼は目を逸らしながら乾いた笑いをする。

だがそれで誤魔化されるイナイさんでは無く、更に問い詰めた。

ああ、やっぱりこういう流れですか。つーか、あの石も危ないものだったのね。


「いや、タロウさ、魔術制御すげー上手くなったじゃん? もしかしたらいけるかなって」

「いけるかなー? じゃねえ! あれこそ暴発したらこの辺吹き飛ぶんだぞ!」


アロネスさんの気楽な返事に、イナイさんが思いきり怒鳴る。

うっわなにそれ、水晶よりえげつないじゃないか。

精霊石は基本、単品で使う物じゃないってアロネスさんは言ってたのに。


「タロウ、あれはぶん投げて中に詰められた力開放するだけでも、とんでもねー威力なんだよ。普通は作るコストと見合わないから、最後の手段で使う様なもんだけどな」


イナイさんが今ここで、その危険性を教えてくれた。

アロネスさん、そういうの先に教えてください。本気でやばい物じゃないですか。


「たく、んで、タロウそれは上手く出来たのか?」

「アロネスさんには上出来って言われました」

「かなり質は良かったぜ。こっちの才能あるんじゃねえかな?」


イナイさんに問われたので、先ほどと同じように作った時の事を話す。

アロネスさんはその時と同じように褒めてくれたけど、イメージの補正のおかげだと思います。

あと確実に、セルエスさんが鍛えてくれたおかげです。容赦ないからね、あの人!


「本当に多才ねー」

「凄い」

「もぐもぐ」


さっきからセルエスさんとミルカさんが手放しで褒めてくれるのがこそばがゆい。

俺としては、技工と錬金術は完全に楽しくてやってるだけだからなぁ。


「全く、セルはどうなんだ?」

「私は相変わらずよー。基本を省略したおかげとはいえタロウ君物覚えいいから、結構な高位魔術は使える様になったし、一部の魔術はミルカちゃんと同じくらいの質で無詠唱出来る様になったしねー。もしかしたらあの省略が成功したのもタロウ君の素質があったおかげなのかもねー」


そう、ミルカさんは自分の得意な魔術に関しては無詠唱だった。

イメージしにくいものは詠唱込みという感じで、俺もそれを真似してみたら何とか一つ出来た。

そこからコツを掴んできて、ちょっとずつ他の物も無詠唱で行ける様に頑張ってる感じだ。


「まあ、セルの授業は普通に魔術訓練だからな。ただそれがきついんだけど」

「あたしはコイツの教えについていく自身はねえぞ・・・」

「セルねえの本気の訓練は過酷・・・」

「そうー?」

「もぐもぐ」


アロネスさんの言葉にイナイさんとミルカさんも続く。

当の本人はニコニコ笑顔で首を傾げるだけだ。

リンさんは相変わらず食ってるだけだけど。


みんなもセルエスさんの授業を受けた事があるのかな。

この人時々、無茶苦茶言うからなぁ。

そのせいで全身大やけどとか、穴だらけとかにも何度かなった。

治癒魔術なんて物が無かったら、間違いなく死んでいる。

勿論治してくれたのはセルエスさんで、自力じゃ無理だけど。


「出来としては、その気になれば広域破壊系の魔術も使えると思うわよー。それよりも制御に重きを置いてやってるけどねー」

「まあ、魔術はどれだけ細い制御が出来るかの方が肝心だからな」

「ん、効率大事」

「あたしは、その辺道具に頼ってるところがあるからなぁ」


セルエスさんの言葉にうんうんと頷くアロネスさんとミルカさん。

イナイさんは道具に頼ってるのか。魔術使ってる所ほぼ見た事無いからよく解んないけど。


「錬金術は魔力の制御が一番重要だから、それが役には立ってんだろうな」


アロネスさんの言う通り、そのおかげでやれてる所は大きいと思う。

普通はそうやって住み分けというか、得意分野ができる感じかぁ。

しかしそうなると、セルエスさんはその気になれば錬金術も出来るのかな。


「ミルカちゃんはー?」

「私も普通。基礎鍛錬と、私の技を教えてるだけ」

「問題児はあたし達だけか・・・」

「そうだな・・・」


セルエスさんがミルカさんに聞くと、彼女はシンプルに返す。

それを聞いてがくりと肩を落とすイナイさんとアロネスさん。


「まあ、危ないものの場合はちゃんと見ててあげてるなら良いんじゃないー?」

「そうですよ、新しい事覚えるの楽しいんで感謝してます」


二人を慰めるセルエスさんに、俺も乗っかっておく。

実際、本音だからね。


「そっか、あんがとなタロウ」

「タロウはいい男だなー。惚れるぜ」


イナイさんはただ可愛いだけだからいいですが、アロネスさんは冗談でもやめてください。

貴方イケメンなので本当にそっちの気が有りそうで怖いです。


「もぐもぐ」


さっきからリンさんずっと食ってるだけだな!

別に良いけどさ!


「私は皆に比べて普通だから、ちょっと羨ましい。牙心がしん流とガウ・ヴァーフの、技と奥義を教えてるだけだし」


ミルカさんが何気なく言うと、アロネスさんとイナイさんが勢いよく立ち上がった。


「「お前が一番大馬鹿じゃねえか!」」


二人は声をそろえて、ミルカさんに迫る。

セルエスさんもリンさんも一切動じていないので、驚いているのは俺だけだ。

あ、迫られてるミルカさんもか。


「なんなの? お前タロウ殺す気なの? 俺でもあれには手を出さなかったんだぞ」

「おまえ、仙術とか、あんなくっそ使いにくい上死ぬ様な技なんで教えるかな!」


あれ、何かミルカさんに聞いてたより、二人の反応が凄いんですけど。

確かにあれ使った時凄いきつかったけど、ミルカさんは当然の様な顔で教えてきたし、そういう物だと思ってたんだけどな。


「し、死なないもん、私つかえてるもん」

「お前はな! 普通はあんなもん習得できねーんだよ! 俺は早々に諦めたわ!」

「セ、セルねえも協力してくれて、大丈夫って言ってくれたもん」

「おい、セル! お前さっき知ってて黙ってたな!」

「わたししーらなーい」


セルエスさんが黙っていた事にイナイさんが怒鳴るが、当の本人は涼しい顔である。


「その無駄にでかい胸引きちぎんぞ! あー、もう、誰もまともじゃねえじゃねえか」

「・・・リンは?」

「もぐもぐ・・・ん? アロネス呼んだ?」


リンさんが名前を呼ばれて顔を上げる。これ絶対ここまでの話し全く聞いてない。

それを見て、俺以外の全員がため息を吐いた。


「え、何? 何で!?」


その返事に応える者は無く、困惑するリンさんを放置して食事は再開される。


「だから何なのさ!?」

「リンさん、良いんです。気にしないで食事して下さい」


俺はそんなリンさんに優しい目をして食事を進めるのであった。

だって、リンさんだし。

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