第9話秘技!教わります!

「タロウさん、今日からは少しまともじゃない技を教えます」


ある日の訓練で、柔軟体操をしている俺にミルカさんがそう言ってきた。

俺はそれに首を傾げて聞き返す。


「まともじゃない技、ですか?」

「ええ、もはや今の時代、ウムルでは私以外使う人の居ない技です」


ミルカさんだけが使ってる技とか何か凄そう。でもそんな技を俺が使えんのかね。

この人の強さは一応解ってるつもりだから、俺じゃ全く使える気がしないんだけど。


「初めに言っておきます。これは使いどころを間違えるか、使い過ぎると自滅します」

「え、自滅?」


この人の戦い方の本質は虎視眈々と相手を仕留める一撃を狙う戦い方だ。

その技はそういう類の一撃を当てるかどうか、って技かな。

どっちにしろ使えるのかどうか解らない上に怖い。


「技というか、武術の一つなんですけどね」

「いつも使ってる物とはまた別の物なんですか?」

「ええ、この武術は、他の武術と併用して使うものです」


ほかの武術と併用する武術とか、凄い癖がありそうだ。

というか、普通混ぜられる物なのだろうか。それはもはや別の武術になってしまうのでは。


「この武術は自身の生命力を糧に身体性能を上げて戦う物で、昔は『ガウ・ヴァーフ』と昔は呼ばれていました。現代の言葉に直すなら、気功仙術ですね」

「それは魔術の身体強化とは違うんですか?」


気功仙術、ねぇ。魔術で出来る事を違う力でやってるだけなのかな?

でもそれならミルカさんが態々教えるわけがないか。


「強化としては似たような物ですが、少し違います。魔術強化の場合は身体補強もついてきますが、こちらの強化は肉体を鍛えずに使用すると体が耐えられない場合が多くあります」


おお、まさに闘士の為の技って感じだ。

てことは完全に魔術とは別物なのか。


「ただし習得難易度が高く、魔術と併用しにくい為に廃れました」

「え、一緒に使えないんですか?」

「使えない事はないです。難しいだけで」

「その、ミルカさんは出来るんですか?」

「はい、出来ますよ。併用する為に覚えた物ですし」


という事は、初めて会った時のリンさんとの喧嘩も、本当に本気じゃなかったのかな?


「でも、頑張れば併用出来るなら、廃れずに在りそうなものですけど」

「仙術は魔術を使えないとほぼ習得不可能なんです。その上魔術より有用性が低く使いにくい。そもそも習得に至るまでが魔術より難しく、使えても初期では魔術と併用出来ない。となると魔術を極めようとした方が効率が良い。何より仙術は全ての力を全て自分自身でひねり出し、世界の恩恵は一切ありません。その上使用用途は一部例外を除いてほぼ戦闘用。そういうわけで廃れる一方だったという事です」


成程、普通の人にはまず習得すら辛いのか。

つまり俺には習得が辛いという事ですね、解りました。

今日からどんなえげつない訓練が始まるのであろうか。怖い。


「実は黙ってましたが、それを使う為の下地を既に作らせてもらっています」

「へ?」

「セルねえがああいう手を使ってくれたので、私は私でそれを利用させてもらいました」


ああいう手って、魔術習得のあれの事だよな。

セルエスさんが俺にしてくれた魔術を使える様にする魔術。


「そうなんですか?」

「ええ。そして仙術を使える様になったら、次からセルねえの魔術授業はまた基礎に戻って、魔力操作の訓練が中心になると思います」

「もしかしてセルエスさんと協力してた感じですか?」

「はい」


ミルカさんは俺の問いに短く応えた後、俺の胸に手を当てる。

何するんだろうかと動かずに様子を見ていると、彼女はいつもの眠たい目を向けて口を開いた。


「セルねえの魔術ほどではないですが、痛いですよ」


そう言って、彼女が何かを俺の体に流し込んだのを感じた。

次の瞬間、体中に不思議な痛みが走った。

鋭いような鈍いような、よく解らない痛みが。


「いっつ!」


ただ言われた通り、セルエスさんの時程じゃなかった。

あの時は気絶したからな、俺。

体に魔力とはまた違う何かが流れる感覚がしたけど、今のが仙術ってやつかな。

そしてそれを打って貰ったおかげか、自分の気功とやらも何となく解る。


「これが気功仙術です。身体強化だけでなく外に向けても使える、魔術とは違う方向の力です」

「魔術が使えないと無理って理由が、何となく解りました。この力が見えないんですね」

「はい。世界の力、生命の力を認識できないと力の流れを認識できないんですよ」


だから魔術が使える前提だったんだな。しかし生命の力か。不思議な感じの感覚だったな。

確かに魔術の時ほど痛くは無かったけど、何とも言えない恐怖を感じた。

何だったんだろ、あれ。


「この力は魔力と違い、通常流れは一定です。これを無理やり流れを早めたり、一点に集中したりする事で身体強化や対象破壊に使います。治療も出来ない事はないのですが、治療をかけられる側の生命力に頼るところが大きく、大怪我に使うには魔術の方が上です」


世界の補助なしで治すから、本人達の力のみになるって事かな。

内臓とかいっちゃったのに自己治癒のみで治療とかは、そりゃ無理よね。


「何より魔力と大きく違うのは、魔力を使い切っても強い倦怠感を覚える程度で済みますが、こちらは使い切れば死に至ります。これが一番廃れた原因でしょうね」


うおお、こええ! 何だそれ!

ちょっと待って、そんな怖い物俺に教えるつもりなんですかミルカさん。

死ぬのは嫌ですよ。


「使いどころを間違えるとただ消費し、倒れて終わります。その代わり強化魔術より戦闘時の応用は効きます。最終的には魔術と併用して使ってもらおうと思っています」


サラっと言いましたが、確かそれ難しいっていてましたよね?

ミルカさんが難しいっていう事を、俺が出来る気がしないんですけど。


「あのー、出来る気がしないんですけど」

「できます」


ア、ハイ。

拒否権は認められないわけですね。ありがとうございました。


そしてこの後からミルカさんの訓練は仙術の訓練になった。

というわけではなく、今までの訓練もやって仙術の訓練もやるという事になった。


だが時間は今まで通りの時間でやるために、訓練の密度が上がっている。

セルエスさんは基礎訓練に戻るとミルカさんは言ったが、こっちも更に密度が増えて基礎訓練と高位魔術の習得を同時進行とかさせられた。

容赦なくボコボコにしてくれるセルエスさん、マジ怖いっす。


そして肝心の仙術だけど、使って解ったけどあれ危ないわ。

何あれ、ちょっと使ったら体中に激痛が走って倒れたんですけど。

痛みで動けないわ、魔術で治そうとすると更に激痛が走るわ、意味解んない。

ミルカさんはそんな俺を強制的に立たせ、もう一度、と冷たく言い放たれる様な感じでした。



なんか、みんな、だんだん容赦がなくなってきてね?

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