第3話お勉強の時間です!
「■■■■■■■■だから■■■■で■■■■■■■は?」
「えっと・・・■■■■■■■■■■■■?」
「おー、正解正解。■■■■■■■■■■■■■■■でもいけるぞ」
「はーなるほど」
あれから1ヶ月ほどたった。
俺は今、目の前の茶色い短髪に白衣でモノクルメガネが似合う、イケメンのアロネスさんに居間で言葉を教えて貰っている。
翻訳の魔術がある世界で言葉なんて学ばなくて良いだろ、って思ってたんだけどなぁ。
なにせ俺の英語の点数は常に赤点ギリギリだったから期待したさ。
でもね、世の中そう上手くいかないんですよ。
ここに来てから2週間ほど経った頃。
あ、2週間もここでは少し違い、1日が27時間ぐらいあるので元の世界の2週間ではない。
そして1週間という数え方はなく、1ヶ月を36日として18日を境に上半日、下半日というまたややこしい感じの呼び方になっている。
因みに時間の違いは腕時計が防水だから生きてたので気が付いた。
まあそんなある日、王都に用事があるとセルエスさんが王都に行き、リンさんもついて行ったのでその間ミルカさんに色々と稽古をつけて貰った。
ミルカさんの稽古は実にまともだった。
基礎訓練をした後にミルカさんの使っている武術の型を教えて貰い、約束組手、また基礎訓練と実に普通だった。正直ほっとしたのは言うまでもない。
だが、驚いた事もある。
ミルカさんは本気で動いても、傍から見ている分には自分の目で追える速度だった事だ。
最初に出会った時の速度は魔術強化も付けた上でだったらしい。
いや、それでもとんでもなく速いんですけどね。前に立つと反応は全く出来ませんでした。
しょうがないね! 傍から見てなんとか何やってるか判る速度なんだし!
セルエスさんには魔術の才能自体はある程度は有ると言われたので、ミルカさんレベルになるというのは無理でも、ミルカさんの本気の稽古に付き合える程度までは強くなれるかも知れないと希望が湧いた。
まあ、魔術が使えればだけど。
その時に有る事に気がついたんだ。
当たり前だがその時はミルカさんが翻訳の魔術を使っている。
ただある日、聞こえた言葉と伝わってくる意味が何かが違う事に気がついた。
前に聞いた言葉と同じ言葉の筈なのに意味が違うと。
これはどうしたんだろうと思い、セルエスさんが帰ってきた後に二人に訪ねてみた。
するとミルカさんは何時もの眠たそうな目を思いっきり開けて驚いた後、見るからに眉尻を下げて肩を落としてしまった。
それを見たセルエスさんが。
「ミルカちゃん、まだまだ精進が足りないね~」
と言ったら更に落ち込んでいた。
それを見て「か~わいい~」と言い抱きつくセルエスさん。
フォローは一切なかった。可哀そう。
二人の反応と言葉に理解が追いつかない俺に、セルエスさんが説明を始める。
「えっとね~」
と言いながら指をくるくる回すセルエスさん。
暫くしてポンと手を叩き、首をちょっと曲げながら。
「解んないところがあったら、その時聞いてねー?」
と、告げた。
仕草があざといです。でも可愛いです。
ただ中身が怖いです。そんな事絶対言えないけど。
「前に魔法と魔術があるって事は話したよねー?」
「は、はい」
「その魔法と魔術の大きな違いはね、自分の力のみで行使できるかどうかなんだー」
「え? 自分の力?」
魔術も自分でやってるんじゃないの?
セルエスさんとか、特に人に力借りてる風な感じしないけど。
ていうかその話、今回の事に何か関係あるの?
「えっとね、魔術は自分の力じゃなくて世界に力を貸してねーって言って、世界の力の一部を使って結果だけを導く物なのー」
「結果ですか?」
「そう結果ー。そして魔術を使うには自分の中にある回線みたいな物、って言っても回線は入ってないよー。そんな感じのを世界の回線と繋ぐのー」
「回線、ですか」
「その回線を繋ぐのがどれだけ綺麗に出来るかっていうのが、魔術における技量かなー」
よく解らないです、先生。
いや、マジ意味が解らん。
けどまあ、結果だけって部分だけは何となく解る。
「えーと、結果だけを導くってとこだけは、なんとなく解ります。今までの事で」
「良かったー」
「要は、火を起こすのに藁束燃やしたりの準備をすっとばして、魔術を使って起こすっていう感じですよね?」
「だいたいそんな感じー。なんにせよ、世界で行使出来る範囲しかできないのー」
「ただ回線を繋ぐっていうのがよく解んないです。後それが綺麗だとどう違うんですか?」
そこが判らない。
回線って、何か見えているのだろうか。
「回線って言ったのがダメだったかなー。世界とどれだけ親和性があるか、その世界にどれだけ流れを任せられた上で自我を保てるかって感じかなー」
「はぁ、解るような、解らないような」
ぶっちゃけ解らん。
でもこれ解らないと魔術使えないのかな。それだと困る。
「世界から力を貸してねーっていう交渉を上手くできるかどうかー、かなぁー?」
「ああ、成程」
それの方が解り易い。
完全に理解したわけじゃないけど、さっきのよりは解り易い。
「えっと、後はそれが上手くいった場合だねー」
「はい」
「それが上手いかどうかで、結果が変わってくるのー」
「結果が変わる?」
そこで何故か、リンさんが口を出してきた。
「大岩砕けって言われて、大岩だけ砕くか大岩ごと周囲を砕くかってことさ」
と言われ、またも「?」となってしまった。
「リンちゃんは解る人にしか解らない説明しか出来ないんだから黙っててー」
だがセルエスさんにそう言われ、隅っこで拗ねるリンさん。
「いいもんいいもん」と言いながら度数の高そうな酒を煽り始めた。大丈夫かしら。
「例えば毒袋があるような動物がいたとして、毒袋まで攻撃したらどうなるー?」
「袋から毒が飛び散ったり、ですかね?」
というか、それ以外思いつかん。
セルエスさんは笑顔で頷いてくれたので、どうやら正解みたいだ。
「そういう敵を魔術で倒す際に回線の繋ぎ方が下手な魔術師が攻撃すると、範囲がずれたり威力が想定と違ったりするの。すると毒袋にまで攻撃があたっちゃって、被害が出たりするのよー」
「ふむ?」
「繋ぎ方が上手ければ思った通りの威力、位置に打てる。そうすれば致命の一撃を与えて被害はなく望む結果が得られる。自分の意思をそのまま綺麗に世界に反映させられるかが魔術師としての技量なのよー」
「つまり、コントロールが良くなると?」
「んー、ざっくり言うと結局そうなるのかなー。ただ、技量があればある程効率よく力を回せるから、その分威力も上げれるよー?」
なんとなく解る様な解らん様な。
でもとりあえずコントロールが良くなるというのでだいたい正解みたいだ。
ただそのあとに小声で「残りカスも残らない様に消し飛ばしちゃえば関係ないけどね」と言ったのは聞き逃していない。やっぱこの人怖い。
そしてやっと翻訳の魔術の説明に入る様だ。
「翻訳魔術はそれが顕著に表れるのー。どれだけ世界と上手く繋げられてるかで、この世界を通して相手に伝える意思が変わってくるのよー」
「この翻訳って、世界を通してるんですか?」
「そうよー。だから世界が認識してる存在を君が解る様に変換して伝えてるのよー?」
「変換・・・」
「だから繋ぎ方が甘いと、意思は伝わるけど細かい所は伝わらないって事が起こるのー」
この説明を聞いて俺は、ちょっと怖いと思った。
その意思疎通の齟齬で自分が騙されたり、大事な事に気がつかなかったりするのではないかと思ったんだ。
「つまり、ミルカさんはその技術がちょっと甘いと言われて落ち込んだと」
「そうねー、でも技量に関してだけならミルカちゃんはけして低くないのよー?」
この言葉の意味もその場で説明を受けた。
ここの人達がリンさん以外全員あの魔術を使えるので普遍的なものだと思っていたら、結構な高等魔術だったそうだ。
その魔術だけで食ってく人が居るぐらいだというのだから相当だろう。
世界に自分の意思を正確に通して維持する。そう言われると何か難しい気がする。
コレ、ミルカさん目指すのも辛くね? という絶望を抱いたのは言うまでもない。
ちなみにミルカさんはこの魔術の発動に詠唱がいる。
初めて会った時も俺の叫びを聞いて、聞かない発音だと思い駆けつける前に使っていたらしい。
以前戦ったギガオークとか言うのも、実際の発音はそういう名称ではなかった。
グオスドゥエルト。そいうのが本来の呼び名。
一応こっちで全く使われなくなった古い言葉で、でかい豚顔という意味らしい。
だったらビッグオークでいいんじゃねと思って聞いたのだが、それは世界が君に伝えた形なので何とも言えないかなぁと返された。
そんなわけでこのイケメンさん、もといアロネスさんにこの国の公用語を教えて貰ってる。
この人この魔術を微細にオンオフし、かつ無詠唱という芸当をやってのけている。
あれー、この魔術高位魔術って聞いたのになー?
ここの人おかしい人ばっかりだなー?
そんな思いもあったが、そのおかげで勉強がしやすい。その上この人の教え方凄く解り易い!
必死なのもあるが、この人が教え上手なおかげで日常会話ならもう出来る様になってきたという上達っぷり。
アロネスさん曰く「後3月もすれば公用語で会話できるだろう」との事です。
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