第9話・鬼ごっこ

 パルとタケルは必死で走りました。少なくとも、ロボット兵につながっているコードの長さ分だけは走りつづけなければならないのです。計算上では、の話です。

「はあ、はあ・・・タケルくん。私、もう走れなくなってきたわ・・・」

「がんばるんだ、パルさん!ほら、あの後ろのロボットたちを見てごらんよ」

 ふたりは振り向いて、後ろから追ってくるロボット兵の大群を見ました。どうしたわけか、追跡者たちの足取りは、広場に殺到してきたときの勢いを失い、明らかにスピードをにぶらせていました。

「ね、やつら、もうへばってきてるよ。だらしないの」

「本当ね・・・でもなぜ?彼らは疲れ知らずなはずのロボットなのに・・・」

 たしかにふたりを追うロボット兵たちのからだは、なまりのように重そうでした。いや、その表現は間違っています。なぜなら彼らは、鉄なのですから。しかしそれをさし引いても、彼らのからだはいかにも重そうでした。まるでなにか重いものでも引きずっているかのように。

「そうか、わかったわ!重いものを引きずっているからよ!」

「重いものって?」

「ほら、エネルギー源よ。コードのはるか先に巨大なエネルギー源をぶら下げたまま、彼らはそれに気づかずに走ってるのよ」

 そうです。ロボットたちはあまりにも多くの人数・・・いえ、ロボット数でコードを引っぱったばかりに、その根っこのエネルギー源を引っこ抜いてしまったのです。今やロボット軍は、全員で重いエネルギー源を引きずりながら、人間ふたりを追いかけているというわけです。

「そうだったのか!」

「だからあんなに動きがにぶいのね。そうとわかったら、もう一度元気を出して走らなくっちゃ」

 まったく、自分が考えた作戦だというのに、それに気づかないとは、なんというそそっかしさでしょう。パルはおかしくて、疲れも忘れてふき出してしまいました。

 ロボット兵たちの調子は、ますますおかしくなりつつありました。今にもオーバーヒートを起こして、煙を吐き出さんばかりのぎこちない足の運びです。それもそのはずです。みんなも想像してみるといいでしょう。綱引きをしながら駆けっこをするのが、どれだけくたびれるかを。

「ようし、もうひと息よ。計算によれば、あと1マイルのはずだわ」

 パル博士はそう言うと、最後の力を振りしぼって荒野を駆けました。タケルも元気いっぱいに走りました。

「ま、まてえ~、人間どもめ~・・・」

 ロボット兵たちはなおも、よろよろと重い足取りでふたりを追いつづけました。

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