DL.00.01.0007 くぎゅう 

 DL.00.01.0007 B.100.04.10.00:00


 賢者少女はすぅっと一呼吸おいてから持っていたメモ帳を手に取り。まるでテストの答え合わせをするかのように質問する。

「さて…私は初めてだけど、一応聞いておく。あなたは今何週目?」

 その答えに対して航は先程の情報整理をする必要があった、ありのままを説明すると「くぎゅう」っと言ったら山彦のように「くぎゅう」っと帰って来た…っと。

「なあクレープ、お前って釘宮病患者って信じる?」

「…あの…、ちゃんと答えてくれないと私もどう反応していいのか困るんだけど…」

 メモ帳を手にひらひらさせながら困惑するクレープであった。

 靴下は無かったが靴がないよりは全然ましだ、開幕で速攻靴をクレープの勉強机から物色する。登山用のゴツいブーツだった、これなら多少動いても大丈夫。


 DL.00.01.0007 B.100.04.10.00:30


 先に進むとYの字に曲がった分かれ道が現れた。右側には人気のありそうな明るい王城へと続く道、左側は暗闇の薄暗い貧困街。

 D時計を再確認してもその表示は[DL.00.01.0007]っとなっている。世界線は動いていない。

「じゃあ4週目で「くぎゅう」って答えを知って、6週目でそれっぽいのを聞いたってことね」

「わかってることは、その「くぎゅう」が騎竜を倒す答えだってことだ。どうイコールになるのかさっぱりわからんがな」

「まぁ、私は頭の回転が速い知恵。あなたは記憶力が良い知識。どっちも頭脳派じゃあ戦いたくても戦えなかったからこうして逃げてるわけだけどね」

「騎竜を倒すには少なくとも肉体派が欲しい所…なのだが声がなんかロリっぽかったぞ」

「論より証拠、もう一回叫んでみて。見つかるリスクはあるけどそれしかない」

「おっけい…すう…くぎゅうーーーーーー!」

 くぎゅーうくぎゅーうくぎゅーうっと街中に山彦が反響する、どんどん小さくなっていって音が聞こえなくなったところで「くぎゅーう!」っと返って来た。左側の暗闇の薄暗い貧困街からやはり響いてくる。

「やっぱりこっちっだ、行くぞ」

「うん」

 そういってYの字の左側へと歩を進めた。動物園とも呼べず、サーカスの小屋という名称も似つかわしくない。どちらも似つかわしくないとなるとその間を取るしかない。ズバリ、少し古ぼけた大きめのペットショップだ。大きめの檻があり、まるで仲間を捜すかのように航はくぎゅうと連呼してその返ってきたロリっぽい声に引き寄せられる。月が綺麗な満月に照らされるかのようにその子は居た。

「!?」

 航は少女のその見た目に少し驚いた、今までは夜で人影が無く会う人会う人人間だったがこの子は違う。もふもふができそうな白い毛並み、頭の左右に丸い耳、四肢は人間なのだが手と足は肉球たっぷりの獣の手足。航のヘソあたりまでの身長で、両手にはその子と同じ大きさぐらいの大きな鉄球。

 ・・・が、まるで凶悪な小熊でも閉じこめてるかのように檻がしっかりとかかっている。色々思考することはできるがやはりここは本人に聞くのが一番である。

「えっと、ちんちくりんな幼児ちゃんよ。お名前と職業を教えてくれないかな?」

「あのね、えっとね、お名前はエリ、あのね、えっとね、職業はね、んっとねー、奴隷くぎゅ!」

 一部始終を観ていたクレープが割ってはいる。

「語尾にくぎゅうか・・・きみはいつもその語尾なの」

「そうくぎゅよ!くぎゅうはねー癒しの合い言葉なの!くぎゅくぎゅ~!」

 航とクレープは顔を見合わせる、しばらく沈黙の後二人は別々の答えを導きだし同時に小熊に話す。

「可愛い」

「といっても檻あるわよ、鍵どうするのよ」

 そんなことどうでも良いかのように白い小熊エリはハッピーな笑顔で航を観る。

「くぎゅうは幸せの合い言葉なの!エリはついに王子様を見つけたの!幸せなの!」

 パアーっと笑顔を振りまいて両手をパタパタしているが檻の中である。なんだこの可愛い生き物はと思うが今はそんな場合ではない。赤ん坊のだっこだっこと似たようなポーズを取っているがやはり檻の中なので出すことはできない。仕舞いには重そうな鉄球が両手についているので出れたとしてもすぐに追いつかれる可能性がある。

 まっすぐ一直線でここまで来たので、歩兵なら10手、騎竜なら5手ぐらいの余裕はあると目測で感じる航。だがスナイパーは位置も解らないのでなぜ攻撃が止んだのか解らない。

 最初のスタート地点と途中の死ぬの覚悟の中間地点よりかは大分余裕はある。

「さて、ここで選択肢だ。1:檻の鍵はどこか。2:鉄球の鍵はどこか。」

 クレープがつっこみを入れる。

「助けないって選択肢はないのね」

「助けないのか、こんなに可愛いのに?」

「それ私情挟んでるでしょ、とはいえこの子本当に強いの?」

 エリはお口をぷくーっとしながらこう言う。

「くぎゅう!くぎゅうはすっごく強いよ!くぎゅうインパクトなんか石のお家くらいはどっかーん!だくぎゅう!」

 文面から察するに石の家一軒ぐらいを破壊できるらしい、二人は瓦1枚を割れるぐらいの力を想像していたがどうやら家が割れるらしい。

 二人は再び顔を見合わせて間をおいた後。まるで共同戦線をはる戦友のように息を合わせる。

「助けよう、答えは目の前にある」

「助けましょう、私には今日を生き抜く力がいる」

 二人の息がぴったりなので負けじとエリも息を合わせる。

「力が欲しいか・・・くぎゅう!」


 月明かりが優しく見守る夜空の中、作戦会議が始まった。

「前から言おうと思っていたが、俺の特技は神経衰弱だ。その意味が後々で解ってくるだろう、その時に恐れおののくが良い」

「話をまとめると、鍵は奴隷商人が持っていて。あの明かりのある小屋に居ると」

「そうだくぎゅう!」

 檻の中に入っている白い小熊の正面反対側には明かりのついた小屋があった。中はどうなっているかは検討もつかない。

「ここで選択肢だ。1:俺が入る。2:クレープが入る。」

「何?あんた入らない気なの?」

「そうじゃない、もし家の中か外のどっちかで即死系の何かがあったらデイライフが使えずジ・エンドだ」

「あんたよっぽどあのスナイパーが怖いのね」

「逆に聞く、怖くない奴なんているのか」

「だったら私は第3の選択肢を選ぶわ」

「何?」

 クレープは指を3にして続ける。

「3:一緒に行動する。」

 一人より二人の方が襲われにくい&相手が殺す気でもターゲットが分散されるので確率が2分の1になる。ミステリー小説だと一人で行動した人間が真っ先に死ぬ。だから1:1より2になることをクレープは選んだ。

 

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