DL.00.01.0006 明けない夜 

 DL.00.01.0005


 強ばった顔で少年は低い声で言う。

「5週目・・・だ・・・。」

 世界線01から02までの道のりが果てしなく遠く感じる。

 航は懐中時計の01の部分のみを受け入れられない真実かのようにまじまじと見つめることしかできなかった。

 航が持っている懐中時計をホイップ・クレープもまじまじと覗き込む。

「あーホントだーまじかー! 頑張れ!頑張れ!」

 落胆したかのようにうなだれた後に、励ますように可愛く応援するクレープ。

(こいつは今自分が死ぬことが確定している世界で、諦め。空元気に応援してるんだな…まるで死刑宣告だ…)

「ほら!何をもたもたしている!行くぞ!」

 元気よくはしゃぐクレープは先に鏡の中に消えていった。航も何も言えずにペタペタペタと無言で後を追う。


 ドゴン!と爆発音が聞こえた、ホイップ・クレープの家が爆破された音だ。クレープは「はあ、ついに私も家無き子かー」っとうなだれてしまった。あたり上空を偵察していた騎竜はホイップ・クレープの家の方へ方向転換し、行ってしまった。「はぁ~」っと一息つく時間が出来た。相手は今も自分たち二人を捜しているのだと思うと、眠ることは出来ないがさっきの死線があった修羅場よりかはましだ。立っていた状態を家に寄りかかりながらずるずると二人は座り込む。

「ねえ、これからどうするの?」

「・・・、それがわかれば苦労はしねえよ。さて、ここで選択肢だ。1:何もわからず走りまくって逃げる。 2:死ぬの覚悟で情報整理をする。」

「私は死ぬの覚悟してるから2ね、全部話せたら結果的にデイライフを使う回数減らせるわよ」

「俺も2だと言うと思ったかバカたれ、俺は『今』のお前を助けたいんだ」

「助けてもらわなくていいわ」

「知ってる、土下座したって駄目だ」

「え?」

 座り込んだクレープの手を無理やり引っ張り強引に選択肢1に進む。手と手を繋ぐとデートっぽいなと航も少しは思ったが何もしなければこの子は土下座する、仕方なかった。なので全速力でどこへ行くとも知らずに走る。

「ちょっと待ってどういうこと?」

「スナイパーだ!4週目であそこで座ってたら死んだ!」

「だから死ぬの覚悟してるって…!」

「世界線のことか?」

「…!?…そりゃ知ってるか…懐中時計持ってたもんね…」

 次々に予言や予知夢のようにやりたいことを先回りして回答してゆく航に、内心バケモノじみた何かを感じるがそれをやらせてるのは自分か…っとどんどん遠くに行ってしまうような彼の顔を観る事が出来ない。

「だから同じことをやる必要があった!何が絡んでるかわからない!一字一句仕草も変えずにここまで来た!大丈夫!記憶力には自信がある!」

「え!?じゃあもしかしてオメガアンサーの答えもわかってて使わせたの!?くぎゅうって…」

「ああ!」

「バカ言わないで!?」

 クレープは共に走っていた手を振りほどき航に大事なことを伝えようとするため止まった。やる行動やる行動大事な事のような気がするがクレープが次に言おうとしている事は。DL.00.01.0005の意味を知らせるのと同等くらいに大事な事だった。

「良い!耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい!『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』は基本無意識で発動する、それ以外の意識的に発動できるのは一日3回まで!理想は午前で1回、午後で1回、緊急用に1回が理想!わかった!?時間はまだ始まって10分よ!こんな所で使って良い代物じゃない!」

「ほ…ほむう…」

 仰天の内容を聞いた航、だがこの情報を聞き出すためには死なせるわけにはいかなかった。実質航には選択肢なんて無かった。

「それと忘れないで! 前の私が何を言ったか知らないけど…私は味方よ!!」

 瞬間クレープの胸を貫通するものが一つ、血しぶきを吹き航の全身に血が染まる。止まっていたため格好の的になってしまったのだろう。

 航の足は全てを同じにするために裸足だった、足からは全力で走った跡の血が大量に滲んでいた…。無慈悲な骸を横目に観ながら寂しそうに、しかし新たな決意と共に闘志を燃やした。蒼い炎がボオっと燃えたような気がした。

「クソッ…デイライフ!」

 ゴーン、っと除夜の鐘が鳴る…。


 DL.00.01.0006


 川から上れる階段を見つけてそれを上り、隠れるのにうってつけの家の端に身を隠して空を観て騎竜を探す。

 騎竜は上空を飛んでいるのが見えるがこちらに気づいている様子はない。

「クレープ、今がチャンスだ。あいつを観なくていい」

「おっけい…は? ちょっと待って文面おかしくない?」

 赤い目を使って観ようと思った矢先に突然の否定に面食らった。手と手を繋ぐとデートっぽいなと航も少しは思ったが何もしなければこの子は…なので全速力でどこへ行くとも知らずに走る。

「5週目のお前が言ったんだ、ここで使う必要は無いって…」

「あっそ…、ねえ…足に血が…」

「止まるな!」

「え!?」

 ズキュンと音が遅れて空を斬り地面へ弾丸がめり込む。走りつづける二人を容赦なくスナイパーは視線を追い続ける。チュンチュンチュン!っと3発撃った後に大きな建物の死角に二人は入ってしまったので狙撃をする事が不可能になってしまった。スナイパーは狙撃を諦めたが無線機を使って騎竜に二人の座標を伝える、クレープの家周辺を回っていた騎竜は方向転換して始まりの街ルミネの象徴、大時計台の付近に進行した。

 先を進むとYの字に曲がった分かれ道が現れた。右側には人気のありそうな明るい王城へと続く道、左側は暗闇の薄暗い貧困街。

 足の皮がめくれて血だらけになっていて上手く走れない航。懐中時計っぽいものを再確認してもその表示は[DL.00.01.0006]っとなっている。

「はぁ…はぁ…! 畜生、これだけじゃ世界線は動かねえってことかよ…!」

「D時計ね、世界線は相当強い意志が関係してる時があるからそれを何とかしないと…」

「D時計?」

「デイライフクロックでもDクロックでも何でもいいから私が言いやすいように作った略称、そんな事も知らなかったの?」

「てんめぇ…今わかったぞ…、お前俺がお前の事全部知ってること前提で話を進める気だな…! 俺はこんなに頑張ってるのに…」

「知らないお前が悪い。で、次は何? 世界線の動かし方? ってか足の血大丈夫? 確か私の家のあの部屋に靴だってあったはずだわよ」

「なにィ………」

「勉強机の所に、もう家ごと吹き飛んでるけど」

 がっかりとうなだれる航、自分のこの努力は何だったのかと思ってしまう。

「まあ…次に飛んだ時に靴は履くとして…」

「お! ようやく今の状況に慣れてきたね」

「で…!本題の世界線の動かし方だ!どうやるんだ!」

「ん~理論上は説明できるけど…でも私は飛んだことないから結論が出ない、どう?『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』使う?」

「さっき劇的に使わない別れ方したからな…!まず普通に聴く、それでもわからなければ使ってもらおう。まだくぎゅうの答えも観えないからな…!」

「くぎゅう?」

「いいから普通に教えてくれ」

「へいへい、えーっと。世界線の動かし方だったね、例えば今わかる範囲だと【私が絶対に生きようとする力】と【私の事を絶対に殺そうとしてる力】が強い意志だね。私の場合は0時00分にスタンバってて必ず質問するでしょ? あれは航の状況を速攻で聞いて速攻で答えをあげるためだよ。逆に殺そうとする方もヤバイ、仕事で強い意志は無いかもしれないけどそれでも歩兵数十名、スナイパーに騎竜だもん」

「つまり、その二つのことを知れば世界線が動くと…!」

「まぁ第三の強い意志とかあったらそれこそお手上げだけどね、それでもまだ30分なんだ夜明けは遠いよ。頑張れ!頑張れ!」

「おおっし!頑張る!」

 あはははは!っと今いる状況を笑い飛ばす。

 楽しい時間はあっという間ですよっと言わんばかりに騎竜はダイナマイトばりの火炎放射を発射する。結果、クレープは全身爆発四散した。クレープが被っていた賢者っぽい帽子が地面に落ちる。

「は………」

 航の楽しかった笑みはゆっくりと怒りへと変わった。そして騎竜にむかってこう叫ぶ。

「畜生ー! くぎゅうって何なんだよォぉー!」

 するとY字に曲がった分かれ道、左側の暗闇の薄暗い貧困街から。まるで遠吠えを返すかのように幼女っぽい声のやまびこが帰ってきて…しかしやまびこも負けず劣らず変だった。

「くぎゅーーーーーーーう!」

「デイライフ!ってえ?!」

 ゴーン、っと除夜の鐘がなり世界が静止する。

 怒りと共に飛ぼうと思っていたためそのまま勢いに任せてデイライフを発動させてしまいブツンっとテレビの画面が消えたように漆黒が訪れた。

 

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