DL.00.01.0005 チュートリアル 

 賢者少女はすぅっと一呼吸おいてから持っていたメモ帳を手に取り。まるでテストの答え合わせをするかのように質問する。

「さて…私は初めてだけど、一応聞いておく。あなたは今何週目?」

 すると航はペタペタペタと歩を進めクレープにパチンっと平手打ちする。

「4週目だよバカ野郎!無茶ばっかしやがって少しはこっちの事も考えやがれ!」

 『今』の状況を4週目なので理解してるとは理解できるもののぶたれる覚えがないクレープ、だが自分が決意していたことを見透かされているような気がしてしまった。

「わ…悪かったよ…、私だってこうなることは覚悟していたさ。っていうか4週目って…はぁ…」

 うるうるな瞳で目が泳いだあとに再び肩透かしを食らったようながっかりした面持ちになってしまった。

「とりあえずここで話すのは危険すぎる、さっさとここを出よう!今なら3手先ぐらいで行動できる!」

 そう言って航はそそくさと鏡の中へ入っていった。

「あ、ちょっと待ってよ!」

 置いていかないでーっと言わんばかりの手を出しながら、クレープも後に続く。

「問題はあの騎竜だ、アレじゃ空中からすぐ見つかっちまう」

「え、何あいつら騎竜まで持ち出してるの?」

 早歩きで出口まで歩く航とクレープ、既に一度クレープが道を通ってくれていたので案内が無くても一人で先頭を切って歩ける。そういう記憶力はあるのだ。

「そこでお前は前回死んだ…何とか出来ないか?」

「んーそうね…その為には騎竜を一度見てから。『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』を使わないと…今じゃ解らないわ…」

 歩きながら黄色い瞳が赤く彩られるが何の答えも出してくれないようである。

「ってことは見つかるリスクがあるって事か…」

「じゃあ一度アンサーを使って答えを聞いたら速攻で飛んで…」

「それが嫌だって言ってるんだ!そのあとのお前はどうなる!死ぬんだぞ!」

「知ってるわよ!だからこうやって覚悟してるんじゃない!」

「この先も死ぬかもしれないんだぞ!・・・そうだ・・・っとその前に」

「?」

 3手先で騎竜が川の出口を偵察する前に出口へ出れた、すかさず川の流れる逆方向、上流方向に向かい。右側ではなく左側を曲がる、右側はクレープが前回死んだ方向。無理に行く必要はない。

 川から上れる階段を見つけてそれを上り、隠れるのにうってつけの家の端に身を隠して空を観て騎竜を探す。

 騎竜は上空を飛んでいるのが見えるがこちらに気づいている様子はない。

「クレープ、今がチャンスだ。あいつを観てくれ」

 文脈を察するに『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』を使えという事を理解したクレープは目を赤くし確認する。その結果は・・・。

「くぎゅう」

「・・・くぎゅう?」

 瞬間ぽかんという間の抜けた空間が広がり精一杯理解しようと思っているが一向に答えが出てこない。その間に赤い目は元の黄色い目に戻ってしまった。どうやら予言にも似たヒントはこれしか無いらしい。

「ふざけてんのか?」

「私がふざけてると思う?」

「・・・ちなみにどうしてくぎゅうになったと思う?」

「・・・・・・わからない」

 その時、ドゴン!と爆発音が聞こえた、ホイップ・クレープの家が爆破された音だ。クレープは「はあ、ついに私も家無き子かー」っとうなだれてしまった。あたり上空を偵察していた騎竜はホイップ・クレープの家の方へ方向転換し、行ってしまった。「はぁ~」っと一息つく時間が出来た。相手は今も自分たち二人を捜しているのだと思うと、眠ることは出来ないがさっきの死線があった修羅場よりかはましだ。立っていた状態を家に寄りかかりながらずるずると二人は座り込む。

「ねえ、これからどうするの?」

「・・・、それがわかれば苦労はしねえよ。さて、ここで選択肢だ。1:何もわからず走りまくって逃げる。 2:死ぬの覚悟で情報整理をする。」

「私は死ぬの覚悟してるから2ね、全部話せたら結果的にデイライフを使う回数減らせるわよ」

「俺も2だと言うと思ったかバカたれ、俺は「今」のお前を助けたいんだ」

「助けてもらわなくていいわ」

「何で?」

「それを教えるためにも私は死ぬの覚悟で教える、あんた私のこの覚悟無駄にする気?」

 ホイップ・クレープは正座をした。

「ダメだ」

 すると今度は赤い目になり航が話を聴いてくれる答えを導き出す。

 日本人がノーと言えない。高確率でイエスと言ってくれる最終秘奥義、土下座だ。正座の状態で頭を地面にこすりつけ、慈悲をこう。目は笑っていない。

「・・・、お願い」

「な・・・!ぁー・・・もう!いいぜ。さっさと話してくれ」

 土下座の状態から上体を起こしにこやかな表情で言う。今度は赤目ではない。

「ありがとう」

 まずクレープは「あなたのどこかに時計みたいなのない?」っと言う、自身の身なりなんて気にしてる暇はなかった。髪はボサボサ、裸足、パジャマ姿ではあるがポケットに何かが入っている。懐中時計だ・・・っと思ったが懐中時計のようなものをみつけた。時計はデジタル時計のような横文字で現在は[DL.00.01.0004]と[B.100.04.10.00:10]っと書かれている。

「結論だけ言うね。まずこっちは勇者歴100年の4月10日の0時10分という意味。」

「ふむふむ、この異世界の暦ね」

 航は相づちを打つ。

「次にこっちは。デイライフ.神界線00.世界線01.んで最後のはデイライフを使って飛んだ回数よ」

「んっと・・・デイライフの暦?」

「まあそういうことになるわね。何回も飛んでわからなくならないようにって指標、道しるべ」

「えっと・・・、デイライフの回数はわかるが。その神界線と世界線ってなんだ?」

「神界線は・・・まあ簡単に言うとハーピーエンドの回数ね。小説1冊分みたいな感じで、勇者歴の暦が通用しないもの凄ーく遅い歯車。私達はここの0が1になることが最終目標」

 あまりの摩訶不思議さに眉毛を八の字にする航。

「んで今話してるのがこの世界線、簡単に言うとルート分岐の回数ね。私は体験したこと無いけど、たぶん中くらいの歯車、デイライフが小さい高速回転する歯車ね」

「航ちゃんルート、クレープちゃんルート、くぎゅうちゃんルートみたいな感じか?」

「っくう!突っ込まないわよ!」

 顔を赤らめて下を向くクレープ。しかしすぐにまじめな顔で時計を指さす

「この世界線01は簡単に言うとクレープ死亡ルートってことよ、死ぬのが確定している世界。それが運命」

「はあ!?そんなので納得しろって言うのか!バカにすんな!運命は俺が変える!」

「あんたが結構頼りにしてると思う私の赤い目あるでしょ?」

「お・・・おう何故わかった」

「感」

「ほ・・・ほむう」

「昔ね・・・観ちゃったのよ自分の寿命を。どんな過程を辿ろうと結果的にクレープは今日4月10日に死ぬって」

「4月10日・・・時間は・・・!」

「残念ながらそれの答えは出なかった。でもこれは予言ではない、答えよ。この世界では私は死ぬ、だから飛ばなきゃいけない」

「飛ぶって・・・どこに?」

「・・・、世界線を。私が生存しているルートに飛んで。だからチュートリアル第一関門は・・・」

 航とクレープの間に緊張が走る。

「・・・ごくり」

「私の二つ名、『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』を超えること」

 ドクンと重苦しい音が心に鳴ったような気がした。これは気のせいなのだが音もなくクレープの頭になにかが貫通した。脳から綺麗に紅い物が出ているはずなのだが、目が色彩を認知する事を拒否し白黒のモノクロ、シルエットでしか彼女を認知することしかできない。ゆっくりドサンと倒れ

 魂のない骸と化した彼女を悲しむ暇もな無く。ズキュン!っと銃声が遅れて届いた。小さな穴、脳天直撃のヘッドショット、遅れてくる銃声、さっきの兵隊達が拳銃を持っていたことからも察することができた。

「野郎・・・ここは剣と魔法のファンタジー世界だろ!? スナイパーとか冗談じゃねえぞ!」

 あたりを見渡したが人影らしい人影は見あたらない。既に物陰に隠れた後のようだ。ギャオオっと雄叫びが聞こえる、騎竜に気づかれたようだ、こちらに向かって高速で移動してくる。せめてスナイパーがどこにいたのか確認してからデイライフで飛びたいが確認できないのならどうしようもない、そうしている間に敵兵は来るし自分が知らない間に即死になってしまったら全てが水の泡だ。

「ちっくしょう! 必ず助けるからな! 最後に俺にキスしてくれるようなアップル姫のように待っててくれよ!」

 スナイパーがトリガーに指をそえる。

「デイライフ!」

 瞬間、少年航の姿はまるでテレポートしたかのように消えて。家の壁には脳天直撃の弾痕だけが残った。


 賢者少女はすぅっと一呼吸おいてから持っていたメモ帳を手に取り。まるでテストの答え合わせをするかのように質問する。

「さて…私は初めてだけど、一応聞いておく。あなたは今何週目?」

 すると少年はボケーっとしたあと懐中時計をポケットから取り出す。淡い希望を託しながらその懐中時計を観るが・・・。

 時刻は、[DL.00.01.0005]と[B.100.04.10.00:00]っと真実のみを刻々と刻んでいる。

 強ばった顔で少年は低い声で言う。

「5週目・・・だ・・・。」

 記憶がフラッシュバックする。

「この世界線01は簡単に言うとクレープ死亡ルートってことよ、死ぬのが確定している世界。それが運命」

「私の二つ名、『果ての答えを出す者(オメガアンサー)』を超えること」

 世界線01から02までの道のりが果てしなく遠く感じる。

 航は懐中時計の01の部分のみを受け入れられない真実かのようにまじまじと見つめることしかできなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る