第二章 佐伯怜香 (六十一)
「でも、分からないわ。いま現在出入り禁止状態の妹さんに何ができるのか?」と理恵が納得出来ないという顔で直美に聞いた。
「そこですよ。そこ、そこが問題なんです」
「そこ?」
「はい、前の番頭さんがいる間は、その妹さんも大人しくしていたらしいです。それと、葬儀のときに止めに入ってくれた叔父さんが生きている間は・・。でも、その叔父さんも二年前に亡くなって、前の番頭さんも、若旦那が結婚したのを機に自分の役目はこれで終わった。と、息子さんに仕事を引きついで田舎に帰っちゃったんです。余生は釣り三昧で暮らしたいからって・・」
「そうなの・・。でも待って、今の番頭さんは前の番頭さんの息子さんなのよね。それならバカなことはしないでしょう?」
「ええ、普通に考えればそうなんですけどね。咲江さんが言うには、どうやら、お金でつられているんじゃ無いかって言うんです」
「お金で・・」
何だかきな臭い話になってきたと・・、理恵は思った。
「咲江さんが言うには、バツイチ子持ちのルリさんと付き合うのにはお金が要る。それで、亡くなった旦那の妹さんに上手く言いくるめられているんじゃないかっ・・て、」
「言いくるめられて・・。お金が要る・・・。もしかして、その二人は不倫?」
「ご名答!です理恵さん。番頭さんには妻子がいるのにルリさんとも付き合っているんです。だから、その為にお金が要るんです」
「呆れた。それが本当なら許せない人達ね。もしかして、その妹さんが一楽を継いだら。その番頭さんには、なにがしかのお礼のお金が動くのかしら?」
「そうだと思います。咲江さんが言うには、あの妹さんには悪いけど、先代の血が入っているとはとても思えない。むしろ外国にいる下の妹さんの方が、大女将とよく似ているから、もし、後を継ぐならその妹さんの方がいい。でないと一楽は潰れる。多分、女将業なんてあの妹さんには出来ないから。自分は一楽のオーナー。実務は、女将はルリさんにさせて、番頭さんは格上げで一楽の旦那・・の立ち位置をやるとかなんとか言われて、バカな三人は絵空事の世界で、その気になってんじゃないか・・て、言うんです」
「なるほど、それはあるかもしれないわね」
理恵は考え込んだ。
―どうやら、朱鳥(あすか)ちゃんの名前が影の部分をあぶり出しているようね。怜香さんのことだから大丈夫だとは思うけど…、―
と思いながら、直美の話をもう少し詳しく聞いた方が良いと思いだしていた。
「そうなんです。だから三人から見てぼんくらだと思っていた。あの人のいい若旦那が、しっかり者の怜香さんと結婚したことは、あの三人に取っては大誤算。その上、跡取りの子どもまで出来た・・となると・・」
「怜香さんと、朱鳥ちゃんの身が危ないんじゃ無いか・・と思った。」
理恵の答えに直美は大きく頷いた。
確かに、その状況で理恵の話を聞いていたなら直美からすれば心配なのだろう。なにせ朱鳥の名前が、自ら自分に降りかかる影の部分をあぶり出しだしたのだから無理もない。だ が、直美の心配は少し大げさすぎないか?とも思った。
―でも、待って・・。もしかして・・―
理恵は、自分の考えが当たりませんようにと祈りながら直美の目を見て聞いてみた。
「もしかして直美さん。なにか?直接、見たか・・。聞いたかしたの?」
理恵の問いに、瞳の奥を輝かせて・・、直美は大きく頷いている。
思わず口には出さないが、直美の真剣な頷き顔に理恵は思った。これは、まるでミステリードラマの展開だわ・・と、
そして、次に出てくる言葉を、どう受け取ろうか迷いながら理恵は直美の目をジッとのぞき込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます