第二章 佐伯怜香   (五十三)

「バタバタしてすみません。理恵さん」

 怜香が嬉しそうな顔をして部屋に帰ってきた。その後ろにいた孝一が、部屋に入るなり直美の手を急いで取た。

 どうやら大女将との話し合いは上手くいったようだと理恵は感じていた。

 なによりさっきまで何も動かず張り詰めていた部屋の空間を、怜香と孝一が運んできた動く気の流れが柔らかに漂い、理恵に対してそう教えてくれている。

・・大丈夫よ・・と、


「ヤヤちゃん・・、じゃなかった。牧原さん、僕と来てください」と孝一は真剣な顔を直美に向けた

「やだ、孝ちゃん?改まって・・ヘン」

 直美は、孝一が自分のことを「牧原さん」と言い直したり、いきなり引っ張るようにして立ち上がらせたりするのを怪訝そうに見た。


「ここで働く約束だよ。僕は、ヤヤちゃんのことを牧原さんって呼ぶ。ヤヤちゃんは、僕のことを孝ちゃんじゃなくて、ちゃんと若旦那って呼ぶ。そうしないと世間という人達が誤解するからなんだ。そうなると、ヤヤちゃんはここで働けない。だから僕は、ヤヤちゃんのこと今日からは牧原さんって呼ぶから。ヤヤちゃんも、僕のこと、若旦那って呼んでください。言葉と行動には気をつけないといけないんだよ。分かった?ヤヤちゃん?」

「分かった。分かったけど・・」と直美が口を尖らせる。

「けど?なに?」と孝一が不思議そうな顔で直美に聞き返す。

 すると…、

「孝一さん、言った尻から、いま牧原さんのことヤヤちゃんって連発しているからよ。ねえ、牧原さん」と怜香が孝一と直美に優しくいう。

 直美は口を尖らせたまま、正しい呼び方が全然出来ていない孝一から、自分だけがなぜ叱られりようないわれ方をしないといけないのよ・・という不満げな顔をして、怜香の言葉に恨めしそうな目を向けて頷いた。


「あっ!本当だ、怜香さん、どうしょう」

「大丈夫よ。気にかけて話していれば、きっと上手くいくわ。それより、牧原さんを早く大女将のもとに連れて行かないと、ね、孝一さん」

「そ、そうだね。ヤャ・・、じゃない。牧原さんを連れて行かないとね」

「ええ」

 怜香の返事に慌てた孝一が、大女将に会うと聞かされて「えっ?」といって思わず後ずさりする直美の手を摑んだまま、引きずるように部屋を出て行くと…。


 理恵と怜香は、二人の後ろ姿に顔を見合わせ吹き出した。

「孝一さんは子どもみたいね。自分の感情に素直に行動して・・」

「ええ、そこが彼のいいところです」と怜香が嬉しそうにいう。

「純真ね」

「ええ、私には無かったものです」

「あら?そうかしら?」と理恵がいうと…、

 怜香が驚いたように瞳を大きく見開き、ちょっと上体を反らすようにして理恵を見た。そして・・、柔らかな笑顔になると声を上げて笑い出した。

 つられて理恵も笑い出していた。



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…名前の一字目に 『く』 の文字があるあなたへ、


…あなたが幸せになる為への「ひと言アドバイス」 …


☆独自の感性を持ち、尚且つ現実的に物事を考えられるあなたは、その感性を活かすことで、相手の気持ちを汲み取ることが出来、物事が良い方向に流れて行きます。恥ずかしがらずに、あなたが持つきめ細やかな感性を大切に☆ 


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