第一章 其山怜香   (四十九)

「それで、おうどん食べて帰ってきたの?怜香さん」と少々呆れ気味に理恵が怜香に聞いた。

「ええ、しっかり食べて帰ってきました。でも凄い格好をしていましたから、お店に入ったときに驚かれました〝大掃除ですか?それにしても、そんな格好で掃除するなんて・・、綺麗な服が台無し、うちに言ってくれたらまいかけ貸してあげたのに〟って、お店のおばあちゃんに呆れながら言われましたけどね」と、怜香はさもおかしそうに笑う。


「まぁ、怜香さん。近所とはいえ平気だったの?もしかして、そのまま電車に乗って帰ってきたとか?」と理恵が少し戸惑い気味に怜香にきいた。


「ええ、サマーセーターはよれよれ、白いパンツはあちこち汚れていましたからどうしようか・・と思ったんですけど。広瀬さんが、恵子さんが掃除用においていた真新しい黒のジャージの上下を貸してくれたので、それを着て帰ってきました。流石にあの格好だと、電車の中や家に帰るまでの道行く人に、誰かに襲われたのか!なんて誤解されかねませんから。それに、まだジャージの上下の方がましですからね。ちょっと違和感はあったかもしれませんけど・・」とおかしそうに怜香はまるで人ごとの様に言った。


 それで、理恵も怜香がジャージ姿で電車に乗るのを想像してしまい、思わず顔がほころんで…、「そうね、その管理センター前にあるおうどん屋さんに行くのとはちょっと訳が違うわね。でも、よく貸してくれたわね広瀬恵子さん」と理恵が怜香に聞いた。


「ええ、私も驚いたんですけど、おうどんを食べ終えたら恵子さんが、その格好では電車に乗れないでしょう。こんな人の殆ど通らないところとは違うから・・って言ってくれたんです」と怜香が嬉しそうに言った。

「そう、良かったわね」

「理恵さんのアロマオイルのお陰です」

「それはそれはお役に立てて何より。その様子だとセンターの皆さんとの、おうどんの食事会は楽しかったみたいね」


「ええ、とても楽しかったですよ。恵子さんも〝広瀬さんってとっつきにくいタイプかと思っていましたけど、案外面白い人なんですねぇー。係長のこと・・、うるさい!ハゲ、だなんて言ったりして。私たち、言いたくてもいえなかったのにぃー〟って賑やかに言われて本人も何か吹っ切れたのか、下の事務所の女性達と笑いながら打ち解けて、いい感じでした。それに、理恵さんのサロンの宣伝にもなりましたしね。女性は興味心身でしたよ。そうそう、それと小柳所長も、えらく関心を示されていました。理恵さんの姓名判断!」


「あら、嬉しい」と怜香の楽しそうな声に対して、理恵も少し大袈裟かなとは思いつつ嬉しそうに声をあげた。

「今度、奥さんとの相性を聞きに来るかもしれませんね。〝仲良くなるアロマはあるのかね?〟なんて聞かれましたから」

「あらあら喧嘩でもされたのかしら?所長さん。」

「さぁー、どうなんでしょう。きっと頑固な方だと聞いていますから、自分が悪いと思っても、素直にごめんなさいが言えないんじゃないですか?多分、ですけど・・」


「それは怜香さんの想像?」

「はい、そうです。なんとなく小柳所長は外見といい、性格といい。うちの父親に似ていますから」

「そうなの?怜香さんのお父さんも失礼な言い方だけど頑固親父・・の部類に入るのかしら?」

「ええ、十分すぎるほど入ります。先週、私が孝一さんと結婚するって電話したら。〝まだ、早い〟ですって。娘の年を幾つだと思っているのかしら、なんて母と呆れながら話していたんです。」

「まぁ、きっとお寂しいのね。おとうさん」

「ええ、でも、父の言うとおりにしていたら・・。私、おばあちゃんになってしまいます。」

「まぁー、怜香さん・・。でも、それはいえているかもしれないわ」

「ええ、本当に!」

 理恵と怜香の二人は、おかしくて、幸せで、ひとしきり笑った。


 そんな様子にチャロも仲間に入りたいのか、スルリと素早い動きを見せて怜香の真横に座る。そして、「ねぇ、私も仲間に入れてよ」と甘えるように怜香の手に鼻をすり寄せてきた。


 そんなチャロの鼻先を怜香の人差し指が軽くくすぐり。

 そして、のど元に触れる怜香の優しい手の動きと笑顔に・・。

 姿を見た理恵は、


―これでいい。―

怜香の選択は間違ってはいないと確信していた。



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 …名前の一字目に 『う』 の文字があるあなたへ、


…あなたが幸せになる為への「ひと言アドバイス」 …


☆周りの人の言葉に振り回されず、ゆっくりでいいから、自分の気持ちを大切に行動して!☆

    

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