第一章 其山怜香 (三十九)
「あっ!・・もぉー、どうしょぉー」
怜香は朝早くからキッチンで悪銭苦闘していた。
今日は一楽の休日だ。
怜香は孝一を誘って動物園に行くことになっていた。
だからこの日、怜香は朝早くから起きて孝一と食べるお弁当を作っていた。
が、料理はするにはするが・・、あまり得意では無い。
今も三角おにぎりが握れなくてイライラしていた。
なぜか怜香自身は三角おにぎりを握っているつもりでも、出来上がったおにぎりはどう見ても完璧なるまん丸おにぎりだった。
「ハァー・・、」と怜香は派手にため息をついた。
「いつもそうなのよねぇー。お母さんみたいに、どうして綺麗に出来ないのかしらねー、怜香さん」
子どものころから、おにぎりを握るとどうしてもまん丸になる。その都度母に教えてもらうが、怜香には難しすぎて出来なかった。
「もぉっ、いぃっかぁ!そうだ爆弾おにぎりにしてしまおう。それがいい!」
転んでもタダでは起きないのが怜香の良いところだ。
出来ないことを嘆くより出来ることで楽しめばいいと、まん丸に出来上がったおにぎりに味付け海苔はやめて、大きな一枚物の寿司海苔をとりだすと半分に切り、丸いおにぎりをぴっちりと巻きつけた。
―空豆・・、驚くかしらー
そう思うと目の前にびっくりして驚く孝一の顔が浮かび嬉しくなった。
ふっ・・・と突然に、怜香は理恵に言われたことを思い出した。
其山怜香=木、木、金、金、水。
佐伯孝一=火、火、金、金、木。
理恵がいう五行の考えから行くと、火は木を燃やし・・、言い換えれば、火は木が無くては燃えることが出来ない。
存在できないのだ。
同類の金は、相乗効果をもたらす。
そして、木は水を欲する・・、だから二人の相性は最高にいい。
加えて理恵が言うには、怜香が佐伯姓になり、一族の持つ宿命をもらうことは・・、
佐伯怜香=火、土、金、土、木・・となり。
怜香が佐伯姓になることで社会運、家庭運は吉、人格、総画が大吉となる。
社会運総格が大吉と言うことは、旦那さんよりも仕事の面で秀でていることをあらわす。それは、一楽での女将業が怜香にピッタリだと言っているようなものだ。
おまけに人格が素晴らしく良い。
これは、社会から引き立ててもらうということだから。これも客商売の女将業にピッタリと当てはまる。
加えて、三十代~四十代の中年期に勢いが生まれている。
つまりは一夜にして(本来、三年はかかることが)嫌われ者が人気者になり、皆に好かれ精神的支えを得るだけでは無く、身体まで元気になってしまう。
つまり怜香は孝一と結婚して佐伯姓になるだけで、健康までも手に入れてしまうということだ。
自分ではそうとは思わなかったが、理恵に言わせると、孝一と結婚することで怜香の傲慢ともいえるこれまでの人生が、良き人ととの交わりで180度反転してしまうと言うのだ。
「二人は、お互いを必要としている最高のパートナーよ」と、理恵は優しく微笑みながら怜香に言ってくれた。
―空豆が、私の最高のパートナー・・。あの空豆が・・―
「やだ!ちょっと、なにボーとしてるのよぉ!」
はっとして時計を見た怜香は手早く残りのおにぎりを握り、寿司海苔を巻き付けて竹で編んだ深めのお弁当箱に入れる。
卵焼きに唐揚げ、フルーツトマトはそれぞれピンクのタッパに入れた。
にんじんとキュウリの野菜スティクは透明のプラッスティクカップに入れ、マスタードマヨネーズは小さな小瓶に入れた。
そしてそれぞれを大きめの色の濃いハンカチで包んでから、赤い深めのトートバックに形を整えて詰める。
後は熱いお茶を水筒に入れて、赤いトートバッグの端に詰めるだけだ。
「なんで私、こんなにウキウキしているんだろう・・。バカみたいね」
怜香は子どもの頃、初めての遠足の日の朝、台所に立つ母をそっと柱の陰から嬉しいような、恥ずかしいような気持ちでドキドキしながら覗いていた自分の姿を思い出した。
そして・・、
―まるで、子どもと同じね・・―
と、なんだか今の自分の姿が可笑しくて、怜香は小さくクスリと笑った。
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