第一章 其山怜香 (三十七)
「それでどうしたの?その、作戦会議は?」と怜香が聞いた。
「ええ、盛り上がりましたよ。目標も直ぐに決まったし」
「目標?」
「はい、一番大事な目標。それは怜香さんと、あの成金の
「なるほどね、それであの時、あなたとの結婚はダメだと課長にきつく言われた次の日、一楽にいっても彼はしょげてはいなかったという訳ね。初めっから、あなたとは結婚する意思はなかったから」
「はい、そうです。怒らないんですか?」
「ええ、怒らないわ。もう終わってしまったことを今更目くじら立てて怒ってみても仕方ないじゃい。じゃあ、あの…、お手洗いの件も計算づくのことだったのね。」
「ええそうです。今度は孝ちゃんの気持ちに気がついて欲しかったから」と直美がさっきの元気な声とは違い消え入りそうな声で言った。
「そう、お見事ね。見事に私は、あなたの作戦に嵌められて・・。ということはカレンダーの件も承知していたのね」
「はい」
「そう。でもあれは私の過ちよ、ごめんなさい・・。私のほうこそあなたの何をみていたのかしら・・。本当に、自分に呆れるわ」
「もういいじゃないですか。終わったことです。さっき怜香さんもそう言ったじゃないですか。これでおあいこですよぉ」
「そう、ありがとう。でも分からないわ。どうしてそこまでして彼に協力しようと思ったの?それに私があなたのいう成金の悪と別れても、彼と結婚するかなんてわからないことでしょ?」
「ううーん、どうしてかな。お店クビになって仕事が欲しかったし。それに孝ちゃんはなんだか頼りなくて、見ているとどうにかしてあげようと思うからかな・・」と直美が天井を見上げながら言う。
「そう」と怜香もひと言こたえただけだった。
―確かにそういうところはあるわね。彼には・・―
と怜香は愛想のいい空豆の笑顔を思い出した。
「それに、この作戦が上手くいったらお金も入るからかな・・」
「あっ!そう、そのお金を渡しに来たのよ。私」
「貰えるんですか?」
「ええ、あなたへの慰謝料ですもの当然の権利よ」
「でも、今の話をしたら…」
「誰に?誰が、誰に、なんの話をするの?」
「怜香さん・・・」
直美はそういうと下唇と噛んで暫くじっとしていた。そしてポロポロと涙を流し出した。怜香はただ黙ってその姿を見ていた。
そして理恵がしてくれたように何も言わず待ち続けた。直美が何を話してくれるのかをただ待ち続けた。
「私、こんな話をしたら、怜香さんなら、きっと一楽の女将に今の話を全部話して、あんな子にお金なんて渡さなくていい・・というんじゃないかって思ってました。」
「そう、そうね。確かに私ならそうするだろうと思われても仕方が無いわね。それは私自身も認めるわ」
―以前の私なら、きっとそうしていたわー
直美は下を向いたまま、頬の涙を手で拭きながら小さく頷いた。
「私、このお金。どうしても欲しかったんです。もしダメなら。諦めるつもりではいましたけど・・。どうしても欲しかったんです」
「何か?事情があるの?」
「はい、おばあちゃんが、もう年なんです。私と弟を育ててくれたおばあちゃんの身体が弱っていて・・。でも、お金がないから、お医者さんに行くのも我慢してるんです。本当は入院した方がいいのに・・。だから、このお金があれば、おばあちゃんは安心して入院できるでしょう。それに私。このことが終わったら、おばあちゃんの側にいるつもりだったんです。田舎に帰るつもりだったんです。だから、どうしても欲しかった・・」
「牧原さん・・。私、本当に、あなたのことを誤解していたわ。自分は完璧だと思い上がっていた。本当に、ごめんなさい」
「いえ、いいんです。だってぇ、そう思われるようにしてたんだもん。怜香さんはなにも悪くないよ」
「牧原さん、あなたって人は・・。どうやら私たち、お互いをすごく悪い方に誤解していたみたいね。ごめんなさい。私、いま愚かな自分におおいに反省しているわ」
「私もです。それから・・。怜香さん、孝ちゃんのこと考えてあげてください。孝ちゃんのいいところ、もっと見てあげてください」
―そうね、彼のいいところを見る。それは、いえているかもしれないわね。それにしても私、本当にこんな優しい子の何をみていたんだろう。全くもって情けないとしかいいようがない状況だわー
―本当に、理恵さんがいうように私は、自分の足元を見ていなかったんだわ―
―いえ、見ようとしていなかった。何一つ。馬よりバカは私の方ね―
今更ながら怜香は理恵の言葉が身にしみていた。
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