第一章 其山怜香   (三十五)

「呆れるわね。」

「私ですか?」と直美が怜香を見て言った。


「いいえ、その男達よ。その酔っ払いの男と、事なかれ主義の店長のことよ。」

「ううーん。世の中の男なんて、大体そんなもんですよ。うちの親だってそうですし・・。勝手に浮気して、勝手に家族捨てて出て行きましたから。私、だから、おばあちゃんに育てられたんです。」


「どういうこと?」

「父親が女つくって家を出ていって、離婚。それから母親と母親のおばあちゃんの家に行って。そしたら母親が好きな人が出来たからって、帰ってこなくなって・・。で、私と弟は、おばあちゃんに育ててもらったんです。」と、まるで人ごとのように淡々と直美は自分の身の上話をした。


 確かにそんな話はよく聞く・・が、実際に経験した人物に会うのは今日が初めてだ。だから他人の怜香のほうが目を丸くして驚いた。

 それに直美に対してどう言っていいのか、ここで慰めるべきなのか・・、どうなのかの言葉が怜香には見つからない。


「あっ、心配しないでください。人が思うほど私と弟は不幸じゃぁ無かったから。うちのおばあちゃん、母親に似ず、まめで愛情深い人ですから。ただ、ちょっと口は悪いけど」

 直美はいつもの癖で、舌を小さくペロリとだしてそう言った。


「牧原さん、あなた、今、すこしヘンよ。言葉遣いが、」

「何処がですか?」


「母親に似ずって、お母さんが、牧原さんのお祖母さんに似ていないの間違いよね。」

「あっ、そうか!でも、そんなのどっちでもいいじゃないですか。怜香さんヘンに細かいこと気にしすぎですよ。」


 確かにそうかもしれないが、直美のほうが気にしなさすぎのような気もする。

 が、この際、主の話とはあまり関係のないことだから、これ以上深く追求するのは止めようと怜香は思った。


―私の悪い癖だー


「そう、そうね。で、それから牧原さんはどうしたの、お店を辞めて」

「怜香さんも知ってのとおり秘書課に配属されましたよ。」

「ちょっと待って、それじゃ間がないじゃない。」


 怜香の問いかけに、直美は、ふふふっ・・とおかしそうに笑った。




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…名前の一字目に 『ら』 の文字がある人…


☆明るく、楽しい人☆




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