第一章 其山怜香 (二十三)
これまでの話を聞いて、理恵が考え深げに黙っていることなど気にせずに、怜香はきつい口調で広瀬恵子に対するもう一つの思いを切り出した。
「でも、そんな昔のことはどうでもいいんです。もう終わったことですから、私が許せないのは広瀬恵子が私の幸せを邪魔したということです。」
「彼に告げ口したのが、その広瀬恵子さんだったということ?」
確かに怪しいが断定するほどの証拠はないはずだけど・・。と理恵は少し不思議に思いながらも目の前の怜香を見つめる。
だが怜香は自信たっぷりに答えた。
「ええ、そうです」
「でも、どうしてそうだと言い切れるの?」
「偶然です。偶然が広瀬恵子だと教えてくれました。」
怜香が理恵に話して聞かせたのは、年が明けた1月のある寒い日。
会社のお手洗いで怜香の後輩が、怜香の生年月日が書かれた書類をコピーし広瀬恵子に渡したこと。
そしてなぜ渡したのか、それについて怜香の後輩である牧原直美なる人物が「ただ面白いから」と言ったらしい。
そしてそれを使い、広瀬恵子が、そのコピーを持って「あなたは騙されている。」と近藤裕樹に直接会って迫った。彼はその時点で怜香の年齢を知り、結果、近藤裕樹は自分の結婚相手に怜香ではない年下の違う女性を選んだのだ。
「でも、どうして広瀬恵子さんは怜香さんの彼を知っていたり、その後の怜香さんと彼のことを知っているの?」
「あの女、私と彼の後を日夜つけていたみたいなんです。それで私の後輩、牧原直美にことの結果を得意そうに話して聞かせたそうです。」
「それを偶然、怜香さんは会社のお手洗いで聞いてしまった。」
「ええ、そのとおりです。」
怜香の目の奥がキラリと小さく光ったように見えた。
そのとき、その目の冷たい輝きに怜香が、余程広瀬恵子と牧原直美という後輩の二人に対して頭にきているのだろうということは、安易に理恵にも想像出来た。
だが、その牧原直美という女性は、どうしてそこまでして怜香に対して意地悪をしたのか・・。
怜香が、理恵に話した直美の動機が本当に「ただ面白いから」だけなのだろうか・・と、理恵はなんだかすっきりしないものを感じていた。
それに、そんな話を誰が聞いているか分からない会社のお手洗いで、本当に話すものだろうか?もし何の考えもなく話したのなら、確かに怜香のいうようにバカな子なのかもしれない。
けれど、もし怜香がいることを知っていて話したのなら、いわゆる確信犯だ。
そこにはなにか違う意味がありそうな気もしたが・・。
それは理恵が勝手に思ったことなので、今は黙って怜香の話を聞くだけにしておこうと思った。
「あの日のことは忘れません。彼の、裕樹の心変わりにも腹が立ちますが、それは原因が自分でまいた種とも言えなくもないし…。はっきり言ってあのクリスマスの日、私は誰に怒りをぶつけていいのか分かりませんでした。」
怜香の言葉に〝そうね、そうかもしれないわね〟と理恵は頷いた。その理恵の優しい頷きに安心したのか、怜香はちょっと苦しげに笑うと小さなため息を一つはいて話を続ける。
「そんな時でした。お二人に会ったのは、そして彼女が幸せになります・・、と言ったのを聞いて羨ましくて、妬ましかった。でも、それと同じくらいに私も幸せになりたいとも思いました。どうしたらなれるのかとも思いました。」
「そこにまた偶然のように私の名刺が落ちてきた」
「ええ、でも、ごめんなさい。直ぐには理恵さんのことが信用出来なくて連絡できなかったんです。」
「そうね、その時の怜香さんの気持ちを思えば当然のことだと思うわ。」
だが怜香は理恵の言葉には答えずこう言った。
「ところで理恵さん、五行お名前アロマってどういう意味なんですか?そして彼女は、どう幸せになるんですか?なれるんですか?」
怜香は、この何ヶ月か自分の心の中にずっと居座り続け、そして聞き続けていたことを言葉にして確かめるべく目の前に座る理恵の、その正直な目に問いかけていた。
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…名前の一字目に 『ひ』 の文字がある人…
☆頭の切れる人☆
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