第一章 其山怜香 (二十二)
「それで、相手は納得したの?」
ここまで怜香から広瀬恵子という人物について話を聞いていた理恵が、ゆっくりと尋ねた。
「いいえ、しつこくまた私に向かってひどい人だ。こんな人を牛窓さんが好きなるはずがないと、私にくってかかるので、もう一度彼女にはなぜ邪魔なのか、はっきりとその場で広瀬恵子には言いました。それから、私は牛窓さんになど興味がない。だから、あなたと彼がどういう関係か?などということも、何度も言うようだが興味も無い、し・・。私には関係の無いことだ。ただ、私が今あなたたちに言いたいのは、聞きたいのは、今ここでまじめに仕事をする気があるのか、ないのかだけだと伝えました。」
「そう」
―それはまた、お相手の男性は気の毒ね。一斉一代の告白が本人の意図しない形で始まって、無残に折られる。ー
理恵は、その牛窓という男性にいたく同情した。
「それで、その広瀬恵子さんという人は、そのことが原因で怜香さんを逆恨みしたのね。」
確かに逆恨みされても仕方ないくらいに、多分、怜香に侮辱されたと感じたことが広瀬恵子の心の奥に根強く残っているのだろうと理恵は考えた。
「ええ、まったく迷惑な人です。その後しばらくの間、私が彼女の恋人を奪ったと言いふらしていたようですね。」
「まるで人ごとみたいね、怜香さん。」
「ええ、人ごとです。私のことを知っている人なら、そんなことはあり得ないことだとすぐに分かりますから」
「どうしてそう思うの?」
「私、二流品は相手にしませんから」
「二流品?その牛窓さんという人が、ですか?」
これはまた、人を物のように平気でいう怜香に理恵は驚いた。
「ええ、そうです。確かに、うちの会社に入社出来るくらいですから優秀だとは思いますが、外見も大切です。」
「そう、そうなの・・。じゃ中身も外見も一流品の男性以外、怜香さんは相手にしないということね。」
「ええ、そうです。当然です。私は今まで出来る努力は全てしてきました。でなければこの年まで一人ではいません。」
ここでも怜香の言葉に理恵は思った。
名は体を表す・・、その通りだわ。
あまりにも怜香の名前とその行動が、考え方が、名前の持つ特性にピタリと当てはまり過ぎて理恵は感心していた。
「ところで、その男性は今も怜香さんの会社にいるの?」
「いいえ、それから暫くして実家の家業を継ぐといって退社しました。」
やはりそうかと理恵は思った。
人前で不本意な告白をさせられ、そのうえその相手から興味がない、関係ない・・。と面と向かって冷たくいわれれば、その牛窓という男性は身の置き所がなかっただろう。そのうえ会社を辞めたということは、それだけ怜香に対する気持ちは本気だったに違いない。
だが、怜香にはその心の一片すらも届いてはいない。
そう考えると確かに自分勝手な勘違いから、怜香に対して逆恨みせずにはいられない広瀬恵子の気持ちも分からないこともないと理恵は思うのだった。
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…名前の一字目に 『は』 の文字がある人…
☆明るい、ムードメーカーな人☆
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