第一章 其山怜香 (十七)
強気の怜香の話はさらに続いた。
「それから年が明けた。一月の・・」と怜香は語尾を濁して言いよどんだ。
「ええ、一月の?」と理恵が怜香にその先の話をして、というように怜香の言葉を繰り返した。
「理恵さん、さっき言われましたよね。ここでのことは誰にも話さないと・・、それは本当ですか、嘘はありませんよね。」と真剣な顔で怜香が聞いてきた。
「ええ、勿論誰にも話しません。本当です。嘘はつきません。」
そう答えながら理恵は、おやっと疑問に思った。今までの話を聞いていると怜香は自由奔放のように思える。
だが、ひどく礼儀正しいところもある。
加えて気位も高いし、男に媚びを売るというより他人に媚びを売ることなどしない。そんなことをするくらいなら、そんなものは惜しげもなく他人にくれてやる。
事実その気位の高さが、〝たかが男一人〟と言う言葉にも表れているし。
結婚を考えていた相手から、いくら自分も年を誤魔化していたからと言って他の女と結婚すると目の前で言われながら乱れない。
逆にお金で片をつけたようなところがある。
だから、なんだか理恵には、怜香の中に女性というより男性的な気位が顔を覗かせているように思えた。
そして今、理恵を、理恵自信を疑うように、怜香は念を押すように、「ここでのことは誰にも話さないというのは本当か?」と、もう一度確認してきた。
勿論、それだけ今から話すことは人に聞かれたくない話なのかも知れないが、どうもその向こうに・・・。
もう誰にも裏切られたくないという怜香の本心を、言葉に出来ない悲痛な心の叫びを理恵は聞いたような気がした。
― もしかして怜香さんは、彼にされた仕打ちを自分も悪かったのだからという言葉で誤魔化し、平気そうな顔をしているが、本当はひどく傷付いているのだろう。多分、本人も気づかないくらいに・・ー
理恵は、咄嗟に怜香の心の奥にある、本当は恋人の心変わりにひどく傷付きながらも、自分も同じだ、狡かったのだと思うことで、怜香は相手より下に置かれることへの必死の抵抗を試みたのではないか。
そしてそれは、どうかすると崩れ落ちてしまいそうな怜香本人の心を奮い立たせ、同時に自分をきつく抱きしめている、弱くて、優しい怜香がひっそりと後ろに隠れているような気がした。
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