第一章 其山怜香   (十六)

「怜香さん、そのとき何も言い返さなかったの?」

「ええ、彼を騙していたのは確かですから・・」


「でも、それは怜香さんが若くみえるからよね。彼が勝手にそう思ったのよね。」

「ええ、それでも彼に、さりげなく年を聞かれたときに、本当の年を言わなかったのは私です。笑って、相手がいう年だと、思っている年だと思わせたのは私ですから・・」


確かに、そこには怜香の狡い考えがあった。結婚してしまえばこっちのものだという狡い考えが確かにあった。


「怜香さんは何だか矛盾しているわね。彼を騙しながら、そんな自分を認めて潔いけど。一体、怜香さんは本当はどうしたかったのかな・・」と理恵が呟くように怜香に聞いた。


「多分、彼と結婚したかった。そして・・、」

「そして?」

「もっといい人がいるかも知れないと狡い考えを、一番になるのは自分だと、最高の夢を捨てられない…、彼と同じで嫌な言い方をすれば、男を収入や顔、職業と、頭の中で両天秤にかける鼻持ちならない我が儘女だったんだと思います。」


「そう、自分でも分かっているけど、やめられないのね。」

「ええ、そうです。」

「それで、それからどうしたの?翌朝、私をホテルで見たのだからそのまま泊まったのよね。」


「ええ、自分も悪かったとは思いますが、腹も立つ。それで着替えて地下にあるホテルのショップを回って上から下まで買い物をしました。それから部屋に戻って新しく買いそろえたものに全て着替えてから、最上階のレストランで一番高いディナーを食べて、バーでお酒を飲んで・・・」

怜香の勝ち誇った顔を見て理恵はたまらずに言葉をかけた。


「そんなことをしたら、変な男の人に声をかけられたりしたんじゃないの?」

「ええ、勿論。でも、無視しました。」


怜香の言葉はどこまでも強気である。

流石の理恵も、この、怜香の強気というか自我の強さには舌を巻く。


時はクリスマスイブの前夜。

にも・・関わらず。

独りの男性客もいた。だが、静かに飲みたい怜香の気持ちを分かったホテルの女性スタッフが気を利かせて、時々、怜香の友人のように装い声をかけてくれる。


どうやらそれで、彼女の仕事が終わるまで待っているのだと、上手く誤解してくれたのか、相手は紳士らしくそれ以上は何も言わずに黙って飲んでいた。


「そう。でも勇気があるわね怜香さんは、普通は、そんなことになったら相手を恨んで罵るか、その場で泣き喚くかよね。下手をすればそれこそ目も当てられない・・、大変な修羅場になるかもしれないところだわ。」


別れた彼に対してもそうだが、ホテルのバーで声をかけてきた男性にたしてもそうだ。

この場合、相手が紳士的に引き下がってくれたから良かったようなものの。酒の入っている状態で、相手がその気になれば部屋までつけられたかもしれない。

そうなれば、どうなるか・・。


下手をすれば新聞沙汰になるかもしれないことではないか、と理恵はこのとき言葉には出さないが密かに思った。

だが、怜香の答えは理恵の考えとは違っていた。



「どうして私が、たかが男一人の為にそんな惨めなことをしなければいけないんでしょうか?それに、彼はここでの支払い・・と言ったんです。ここでのは、ホテル全体のことを指すんですから全ては私への償い。ですから好きに使わせて貰いました。部屋もスイートに変更して貰いました。それに、彼は年商何億のIT企業の社長ですもの。あの、一晩で使った私の金額なんて取るに足りませんわ。そんな金額など彼にとってはたかがしれています。」


そう言い切った声のトーンと語尾の強さに加え、怜香の憤慨している顔を見て、なるほど名は体を表す。


まさしく怜香の、名前の通りの生き方だと理恵は思った。




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…名前の一字目に 『ち』 の文字がある人…


☆愛情豊かで、情熱的な人☆


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…名前の一字目に 『つ』 の文字がある人…


☆何事も諦めない、コツコツ努力の人☆



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