第一章 其山怜香 (十三)
「あの、突然失礼なのですが、この名刺は、あなたのものでしょうか?」
怜香は、にこやかに奥のテーブル席に座る彼女もとへ近づくと、指先をなめらかに使い、ゆっくりとした仕草でバックから名刺を取り出した。
そして、いつも眺めているだけのその名刺を、白いほっそりとした指先にのせて優しく彼女の前に差し出す。
彼女は、誰かしら?と少し困惑したような顔で、怜香の差し出す名刺を手に受け取り、優しい笑顔をたたえたまま不思議そうにこう言った。
「ええ、そうですけど・・」
「不思議ですよね。お会いしたこともない私から、ご自身の名刺をみせられるのわ。実はこの名刺、去年のクリスマスイブの朝、ホテルのカフェで偶然拾ったんです。」
「去年?」
どこのホテルかしら・・、という風に彼女はとても小さな声で囁いた。
「ええ、確か、私と同じ年くらいの女性とご一緒でした。」
「あなたと、同い年くらい・・」
彼女は、また、相手は誰だろう・・と、過ぎた時間を思い出すような顔をする。
「ええ、その女性が、その時〝リエさん。いえ、リエ先生のお陰です。私、幸せになります。なれます。〟とおしゃっていました。」
「あっ、ええ、そう、確かに、そんなことがありました。・・が、でも・・、多分彼女は、あなたより年上だと思いますよ。」
「いえ、同じくらいだと思います。私、若くはみられますが、これでも三十五歳なんです。」
「え?本当に?お若くみえるんですね。確かに、それなら、あの時の彼女と同じくらいの年齢ですね。」
彼女の少し驚いたような、でも優しい笑顔を見ながら怜香は考えていた。
― もしかして、私は自分が人より少し若くみえるからと・・、いい気になって相手をバカにしていたのではないか?―
そう思えてくると怜香はなんだか急に恥ずかしくなり、彼女の笑顔を素直に受け取れなくて曖昧な笑顔をつくり、「ええ」とこたえる返事の声が小さくなっていた。
と、ここで店員が〝どうされますか?〟という顔をして銀のトレーに水と紙おしぼりを持ち、遠慮がちの笑顔で怜香の横に立った。
「あの、ご迷惑でなければ、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。」
彼女の笑顔は何処までも優しい。
怜香は、今度は心から嬉しそうに微笑み返した。
そして、コートとバッグを足元に置かれている小さな荷物入れに丁寧に入れると・・。
早速、二人がけ丸テーブルの椅子を引き彼女の向かい側に座る。
それから怜香は、彼女に自分がまだ昼食をとっていないのでパスタを頼んでも良いかと確認した。
そして怜香は、笑顔でテーブル横に立つ店員にたいしてオーガニックトマトとモッツァレラチーズのスパゲッティー、グリーンサラダのセットをメニューも見ずに素早く注文した。
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