第一章 其山怜香 (十一)
さてさて年明けから今日までの出来事を思い出しながら、怜香はもう一時間以上も手元にある例の名刺を眺めていた。
あのあと
とはいってもこの部門、一応名前はついてはいるが仕事など殆どないらしい。
噂に聞くところによれば沢山の棚に段ボールが並べられた倉庫のような部屋に、人が何処にいるのか分からないくらい隅の方に机がポッン、ポッンと並んでいるとか、いないとか。
要は窓際の窓際だ。
だけどその窓も、本当の窓もあるのかどうかは疑問が残る。
それに、これは怜香も詳しくは聞いていないのではっきりとは言えないが、どうやら直美の一件があった時期と重なって、規模は小さかったらしいのだが総務で情報漏洩事件になりかける出来事があったらしいのだ。
そんなピリピリしていたところに、牧原直美が勝手に社員のものとはいえ書類を盗み見たこと。
そしてその知り得た情報を広瀬恵子に教えたこと。
それにどうやら広瀬恵子が、その情報を使い何かしたらしいことが大いに問題になった。勿論、そのことに関して怜香は他人の名誉を傷つけたくないと口を閉ざしていた。
怜香が、その名前を言わずに黙っていると聞いた直美と同期の二人も、自分たちに飛び火することを恐れたのだろう。
怜香の名前はひと言も出さずに、そんなことを聞いたことがあるような気はするがよくは覚えていないと言ったらしい。
それに直美が言っていたその人は、自分たちが聞いたことのない人の名前だったような気がする。だから知らない人のことだから余計に思い出せないとも言ったらしいのだ。
ただし直美が知り得た情報を、広瀬恵子に教えたと直美本人が言っていたのは微かに覚えていると・・。
だけど二人は、直美が広瀬恵子に何を教えたのかまでは聞いていないと答えたらしいのだ。
― で、ね~、二人には厳重な口頭注意だけ、賢いわね二人ともー
唯一、広瀬恵子だけは、「これは其山怜香の罠だ、自分は
逆に、それが余計に怪しまれた。
おまけにぱんぱんに張った身体と顔、浅黒い顔にある沢山の吹き出ものと、はれぼったい目が、本人にその気がなくとも恵子の態度をふてぶてしく見せてしまう。
それに瞳が何処にあるか分からない細い糸のような目で下唇をかみ、ギッと睨むものだから、どこをどう見ても指名手配中の極悪犯人顔そのものだったらしいのだ。
特に広瀬恵子が勝手に片思いしていた相手を怜香に盗られたと思い込み、逆恨みをした恵子が怜香に言いがかりをつけたが、逆に怜香に大恥をかかされた過去がある。
どうやら広瀬恵子は自分勝手な思い込みが激しい性格なのではないか。或いは、自分は可哀想な被害者だという偏った妄想が人一倍あるのではないか。
だから先の情報漏洩の件も、日頃から職場の中で一人浮いていた広瀬恵子が担当者を困らせようとしたのではないか。
いや、いや、違う。
広瀬恵子に冷たい上司を陥れようとしたのではないかと、いろいろ噂になり、結局のところ情報漏洩の犯人も広瀬恵子ではないのか?と密かに人の心の中に固められていったのだ。
―言えないわよね、広瀬恵子、自分がしでかしたこと。私も言いたくないもの、そんな自分の恥になること・・ー
以上のことをもって危険分子と見なされた直美と恵子の二人は、会社組織から切り離された部署に隔離しておけ・・となったらしい。
因みに直美は、あの日以来、会社には来ず病気欠勤を続けていた。
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名前の一字目に 『さ』 の文字がある人。
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