第一章 其山怜香   (九)

「失礼ですが会長。今のお話をまとめますと、一楽の一人息子さんが、悪友・・、いえ、失礼致しました。ご友人に連れられて初めて行かれたキャ・・、(キャバクラは、なんて言えばいい?冷静に考えるのよ、怜香)違いますね、飲食店で好きな女性に出会った。だが、どうも現時点では一楽の将来の女将にするには不安がある。そこで、一楽の女将の出した条件が、私の元で3年間しっかりと秘書の仕事を覚えれば、その相手との結婚を許してもいい・・ということですか?」


既に今年の新入社員を迎え、新たな年の始まりとする心地よい小春日和の今日、怜香は有り余る空間と、高そうな調度品が並ぶ会長室に呼ばれ、とんでもない申し入れに言葉を選びながらも心の底では・・、


―バカじゃないの?この爺!これからの3年間、私は嫁にも行かずに、このまま、この会社で仕事をしていると決めつけないでよね!―


「そうだ、そういうことだから、お願いするよ、其山君」

会長はいともあっさりと言い切った。だが、怜香はなおも食い下がる。


「ですが会長、私がいくら頑張っても、その人物が箸にも棒にも引っかからない、言葉は悪いのですが・・。たわけ者の場合はどうなさるおつもりですか?というより、私がそう判断した場合、教える価値なしと判断した場合です」


「それは、困るね~。なるべくそうならないようにしてくれたまえ。だが、もし、どうしようもない人物なら仕方がない。其山君の判断を受け入れるしかないね、女将には私から話そう」


これはもう業務命令の近いことのようだ、怜香個人がどうのこうのと言ってみても仕方がないことらしい。それに、だいたい3年などと条件をつけられる相手だ。

どう考えても、最高か最低の人物だろうということだけは怜香にもはっきりと理解出来た。


・・が、多分、9対1の割合で答えは後者、最悪の人物の方だろう。

となれば、こちらも相当の覚悟を持って望むしかない。怜香は深く息を吸い込み会長に向けての返事と最後の質問をした。


「かしこまりました。では、最後に一つ、お伺いしていいですか。一楽の、その、(バカ息子・・とは聞けないから)、跡取り息子さんという方は、どのような方なのですか?」

「知っているだろう?」


会長の言葉に驚きながらも、だれ?そんな人?いたかしらと心の中で素早く怜香は一楽で見た顔を思いだす。

・・が、いない。

見当もつかない。


「いえ、存じあげません。まだ、お会いしたこともございません。」

「そうかね?おかしいね。一楽で、いつも私の靴や君の靴を出してくれている若者だよ。」

「えっ!」


―あの?バカ?が、一楽の跡取り息子、うそ・・・。―


「そういえば、孝一君は、君の・・、其山君の靴だけは素早く出すね。いつも私の靴より早くでるね」

と会長は、驚く怜香の顔を見ながら、心底おかしそうに笑っていた。




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