第一章 其山怜香 (一)
「お名前サロン、あなたの幸せお探しします…」
目の前の広いガラスサッシいっぱいに広がる青空が、白で統一された怜香の部屋に浮かび上がるように美しく見える。ゆったりとした十二畳のリビングに降り注ぐ柔らかな日差しが心地よい。
ふっ・・と、何を思ったか手を止めた怜香は、顔をあげ、その暖かさを確かめるようにガラスの向こうに見える青空を見た。
もうすぐ街ゆく人も、下を向き固く閉ざしたコートの襟を緩め、優しい春の訪れに顔をあげて柔らかに微笑むのだろうと怜香は思った。が、今はまだこのガラスの向こうには、この部屋の暖かさとは正反対に氷の冷たさがほんの少し残っている。
―でも、―・・と、怜香は心の中で呟く。
ここは南向き2LDKの間取りで、どの部屋もゆったりとした広さを持ちいまが冷たい冬の終わりだとは感じさせない心地よさがある。
それに、なにより怜香の会社と二駅しか離れていない便利さは最高だ。おまけにセキュリティーもしっかりしている。女性の一人暮らしには欠かすことのできない完璧な条件にも満足していた。
ただしその分、家賃のお値段も右肩上がりに比例している。けれど自分の働いたお金で自分を満足させる。その為の贅沢に支払うお金は、生きたお金だと怜香は個人的に考えていたから気にもならなかった。
そしていま怜香は、太陽の光が窓いっぱいに入りこむリビングで、白いふかふかの二人がけソファの上に身体を優雅預け、足を組んで座っていた。
足元に敷かれた白のムートンの絨毯の上を、組んだ左足の先で、これもムートンのふかふかの白いスリッパが小気味よく上下に楕円を描いて楽しそうにリズムをとっている。ソファに深く座った怜香は、さっきから、その小さな名刺を手の中で、前、後ろとクルクル回しながら何度も眺める。思案する。
この名刺を手に入れたのはほんの偶然だった。
捨ててしまっても良かったのだが、なぜか捨てきれずにバックの中に入れていた。そして時折出してはどうすべきかと、自分はどうしたいのかと思案にくれながら、こうして飽きるほど眺めていた。
- さて、どうしょう。 -
こうして眺めているだけでは何もならない。今日こそ電話するのか、しないのか…と、怜香は、また答えを出せずに考えあぐねていた。
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名前の一字目に 『い』 の文字がある人。
☆自分の一番になれる信念と努力が出来るメンタルの強さがある人☆
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