名前がくれた幸せ

しーちゃん

序章

小さな地元のこの神社には訪れる人もそう多くはない。

毎年この時期になると必ずここを訪れる私の耳聞こえてくるのは、いつも賑やかな子ども達の声だ。だからここは神社というよりも、殆ど子ども達の遊び場になっているのではないかといつも私はそう思っていた。

見上げる青空には雲一つ無く、どこまでも続いている。

うららかな春の日差しに芽吹いた青葉たちも、柔らかな風にそよいで気持ちよさそうだ。私の手をしっかり握って離さない小さな娘は、玉砂利の音が面白いのか夢中で下を見ながら歩いている。


一年に一度、この時期にやってくる大切な時間。

大切な人との思い出を、大切な人とともに語らう時間。

これから始まる大切な儀式の為に、私と娘が訪れたこの小さな神社では、その日、偶然にも結婚式が行われていた。


娘が生まれてから6年、こんな偶然に立ち会うのは初めてだった。


「お父さん。花嫁さん!」

娘が、嬉しそうに私の手を強く前に引いた。

「ああ、綺麗だね。」

「うん」


娘は、何か必死に思い出そうとしているようだった。だが、思い出せない何かを諦めたのか、顔をあげ寂しそうな目を私に向けた。

するとまた柔らかな風がその時を待っていたかのように、終わり桜の花びら一枚、ヒラリと小さく運んで私に語りかけてくれる。


・・今年も、来てくれたのね・・

と、小さくて優しい…。

そして、懐かしい声が私の耳に聞こえた。


その声に、

― あぁ、今年も来たよ ー

と・・心の中で答えて・・、私は、またゆっくりと顔をあげる。

目の前に広がる高い、高くて私の手の届かない澄んだ青空を見上げる。


― 雲ひとつない、綺麗な空だね ー

私は思わず心の中で語りかける。

幸せな思いを胸に抱いて、そっと彼女に話しかける。



「綺麗だね。お空は綺麗で、広くて、大きくて、何もかも大きな心で包み込んでくれているね」と私は静かに娘に言った。

娘は、目を細め嬉しそうに私を見上げた。

私も笑顔で答える。


すると娘は、早く行こうと私の手を強く引いて真っ直ぐ前を見て走りだした。振り返りはしない。

「おい、おい、こけちゃうよ!」

そう言いながら私の心もまた、嬉しさに駆けだしていた。




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名前の一字目に 『あ』 の文字がある人。


☆…新しい〝トビラ〟を開けて行くことが出来る人…☆

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