第10話 光明と、地獄の鈴
父さんに大分遅れて僕も家に帰り、味のない夕食を取って、穴だらけの毛布に潜り込んだ。手には、今日も金貨を握っている。
そして、考える。
父さんは、レビヤタンのことを知っている。ということは、白黒街のことも知っている。
そう言えば、白黒街で出会うのは子供ばかりで、大人は見たことがない。
考えているうちに寝入ってしまっていたらしく、いつの間にか僕は白黒街にいた。
白い空の向こうに、黒い影が見える。今日は、さっそくグリムルがお出ましのようだった。
さっさとやっつけてしまおうと思った時、僕の頭にある考えが弾けた。
ここで僕は、大人を見たことがない。単純に、大人は白黒街に来られないというだけなのだろうか。
いや。
グリムルは、誰かしら、人の心から生まれる。しかし僕は、グリムルが周りの人の体から現れるところなど見たことがない。なら、見たことのない人からグリムルは生まれているんじゃないのか。見たことのない人とは、たとえばつまり――大人だ。
考え事をしていたので、僕はすぐそばまでグリムルがやって来ていることに気づかなかった。
「イエルバレット、危ない!」
そう叫んだジョシュが僕を突き飛ばし、すんでのところでグリムルに捕まらずに済んだ。
集中力を取り戻した僕は、立て続けに二体のグリムルに突っ込んで粉々にした。
「大丈夫か、イエルバレット」
他のグリムルをあっという間に全滅させて、ジョシュが僕の顔を下から覗き込んだ。僕は呆然としたまま、小さくつぶやいた。
「……大人なのかもしれない」
「何だって?」
「グリムルは、大人の心の闇なんじゃないかな。たとえば、父さんの。なら、グリムルのおおもとを断てば、大人たちは……父さんは元気になるかもしれないんだ。母さんも、……」
ジョシュが僕の肩をつかんで、がくがくと揺さぶった。
「しっかりしろ、何を考えている。余分なことを考えるのはよしたまえ」
「きっとこの空の果てに、父さんの心の闇のグリムルがいるんだ。それを倒すんだよ。そうすれば、僕の家族は元通りになるんだ。今のあんな二人とは違う、もとの、本当の家族に!」
ジョシュは、飛び立とうとする僕をいよいよ力強く抑えた。
「そんなことがあるはずないだろう! イエルバレット、君の言っていることはまるで見当外れさ!」
「どうしてジョシュにそんなことが分かるのかい。僕は一人だって行く、離してくれ!」
わずかな希望が見えた気がした。家の中に明るさが戻れば、僕はきっとたくましい活力を手に入れることができる。
そうすれば、学校でモウアたちにひどいことをされても立ち向かうことができるだろう。もう、たった一人で戦うのは、嫌だった。せめて、家族に支えてほしかった。
結局、ジョシュにおさえつけられている間に夢が終わり、朝が来てしまった。
朝焼けの中で小鳥がさえずる声は、地獄の鈴のようだった。
また、辛く苦しい現実の一日が始まる。
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