第7話 夢を飛ぶ仲間と、夢の中の日々

 空の上で人々が乗っているレビヤタンはやっぱりてんでバラバラで、ワインの瓶や二輪車の車輪、蒸気機関車の模型、赤ん坊用の木馬、ステッキ、こうもり傘、ホッケースティック、デッキブラシに大きな裁ちバサミ、カーテン布なんてのもあった。一人、レビヤタンに乗らずに空を飛んでいる人がいたので驚いたが、近づいて見てみるとその人は小さなマチ針をレビヤタンにしていたのだった。

 彼らのほとんどは、現実での自分の名前を名乗ろうとせず、白黒街で呼び合う時にはたいてい偽名を使っていた。ジョシュいわく、

「夢と現実は、つながりながらも別物だから、別の名前を持つのは不思議でもなんでもないさ」

ということだった。

 僕は特別偽名を名乗る必要を感じなかったので、イエルバレットと本名を名乗った。ジョシュも、僕がそれでよければ構わないだろうと言った。

 やがて白黒街での顔見知りも増えて来ると、そのうちの何人かでレースをすることもあった。最初のうちは僕はビリばかりだったが、何日もジョシュの特訓を受けるうちに、もう誰にも負けないくらい速く飛べるようになった。

 そうした日々の中でも、グリムルはしょっちゅうやって来た。そして今や僕のグリムル撃墜数は、ジョシュに次ぐものになっていた。

 知り合いの何人かは、グリムルにやられてしまった。奴らにつかまると、レビヤタンが真っ黒になって、飛べなくなる。乗っていた人が落下して地面に激突する前に、たいてい別の誰かが何とか空中でその体をキャッチしていた。しかしやはりトッパーと同じように体が透けて消えてしまい、もう白黒街には戻って来なかった。

 空中キャッチが間に合わずに、地面や建物に落ちてしまった人もいる。僕は初めてそれを見た時、近くにいた人に

「ああして墜落したら、どうなるの?」

と聞いた。

「黒く染まったレビヤタンは下に落ちると、そのまま黒い地面の一部になる。白黒街の黒い風景は、もう気が遠くなるほどはるかはるか昔から、そういう風にして黒くなったレビヤタンが積み重なってできたんだ」

「人は? 地面まで落ちてしまった人は?」

「人も地面に叩きつけられた後、吸い込まれてしまう。夢が死んでしまうわけだから、現実の世界では何というかな、ひどいふぬけになる。夢の力なくして、人は生きていけないからな」

 僕は一人でもそんな目に遭う人を減らしたくて、必死で腕を磨いた。上達が早かったのは、そのお陰もあったと思う。

 レース仲間が、

「君って天才だぜ」

などと言って来ると、褒められることに慣れていない僕は、もじもじとしてたくさん汗をかいてしまう。

「ジョシュは、最近イエルバレットにつきっきりだよな。どうしてそんなに仲がいいんだ?」

 そんなことも言われる。僕にだって理由は分からない。思い当たるのは、単に、僕が新入りだからだろうというだけだ。

 ジョシュはレビヤタンを誰よりもうまく操れる。グリムルだって、一番多くやっつけている。名うてのレビヤタン乗りのほとんどが、最初にジョシュの手ほどきを受けて上達したらしかった。彼は、みんなのヒーローだった。

 そんなジョシュは、僕が他の人と一緒にいる時は、僕から離れているのが常だった。だから僕がジョシュと速さ比べをする時は、僕らが二人きりの時に限られた。

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