第3話 レビヤタンと、白い空

「飛ぶ?」

「そうさ」

 彼が、空を指差した。すると、いつのまにかどこからともなく現れた無数の人影が、白い空に浮いていた。

「何だ、あれ!?」

「その馬車が、君のレビヤタンさ」

「レビ、何?」

 僕がたずねると、少年はクジャクの羽を地面に敷いて、その上に乗った。すると羽が少年を乗せたまま少しずつ浮いて行き、みるみるうちに、彼のつま先は僕の目の高さに来た。

 思い切り驚きつつも、僕はとっさに空の上の人々を見上げる。よく見ると、みんなそれぞれに何かの上に乗って浮遊しているのが分かった。たとえば、シルクハット。公園にあるようなベンチ。レンガ塀の破片。ホウキ。

 人々が乗っているものはてんでバラバラだったが、誰もが当たり前のようにその上に立ち、上空を舞っている。

「何をレビヤタンにしているかは、人それぞれさ。君も、あの馬車に乗ってみるといい」

 僕は一も二もなく、馬車のドアを開けた。

「違う違う。乗るというのは、上に乗るのさ。馬車の屋根の上に」

「上って、こう?」

 僕はドアを足掛かりにして、馬車の上によじ登った。

「ようし、いいね。それじゃ、思い、求めてごらん。飛ぶ! と」

「飛ぶ!」

 馬車が浮いた。

 転がり落ちないようにバランスを取りながら、心の中で唱え続ける。飛ぶ! 飛ぶ!

 声にしていない叫びに応えるように、馬車はどんどん上昇した。青白い少年も、僕と同じ高さに合わせて浮き上がって行った。

 真っ黒い街が、はるか下に小さくなって行く。

「飛んでいる時は、塔や木に気をつけてくれ。地面と同じに真っ黒だから、よく見えないでぶつかることがあるからね」

「こ、これ、落ちたら死ぬよね?」

「金貨を握っている限り、転げ落ちたりしないよ。自分から飛び降りれば別だけども」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る