第2話 白黒街と、やせた少年
今日の街は晴れていて風も穏やかになり、恐ろしく冷え込んでいるわけではなかったけど、薄くてぼろぼろの僕のコートでは、さすがに寒い。
家と学校の間をうろうろしていたら、小さな頃によく遊んだ空き地にたどり着いた。
空き地は元々豆畑だったが、今はただ一面、深緑と茶色の雑草に覆われている。真ん中の辺りに、車輪の取れた小さな馬車が捨ててあった。
馬車には一応屋根と壁がついているので、外をほっつき歩いているよりはましだろうと、僕は扉を空けて馬車の中に乗り込んだ。座席の布は色あせてぼろぼろで、それが僕の部屋のベッドとおなじくらいのくたびれ加減だったから、何となく居心地がよく、ぼんやり座っているうちに眠くなってしまった。
こんなところで眠ったら風邪を引く。そう分かっていても、僕の足は家に帰ろうとしてくれなかった。
夕方でもまだ明るいが、まもなく夜になる。こんなところにいてはいけない。
それでも僕は、意識がまぶたと共に閉じてしまうのを止められなかった。
目を覚ました時、僕はまだ馬車の中にいた。
しかし、その馬車の様子がすっかり変わっていて、仰天した。
座席には、新品の真っ赤なビロードが張られている。屋根も壁も床も、高貴な光沢できらびやかに輝く、真新しいつるつるとした木のそれに変わっていた。
僕はドアを開け、慌てて馬車の外に飛び出した。
そこには、霜を下ろした雑草ががさがさと茂っているはずだった。けれど空き地の地面は、馬車よりもさらに異様に変化していた。
確かに、雑草らしきものは生えている。しかしそれらはどれもこれも真っ黒だった。辺りを見回すと、周囲の建物は確かにこの空き地の周りにあった通りに建っていたが、その全てが墨を塗りたくられたように黒色だった。
そして空は、一面、雲の一片もない純白だった。あまりにも、間抜けなほどに白一色なので、まるで空ではなく白い天井のように見える。
白と黒の世界。その中で、僕と馬車だけに色がついていた。
人さらいにでも捕まって、寝ているうちにどこかおかしな場所へ来てしまったのかしら。
胸がドキドキして、汗が噴き出す。
手ににじんだ汗をズボンで拭こうとした時、僕の手のひらに固い感触があることに気づいた。
僕は手の中に、金貨を握りしめていた。見たことのないデザインで、買い物に使っているいつものコインよりも、二回りくらい大きい。
「これは、僕のもの……?」
「そうだよ。夢の世界への通行証さ」
後ろからいきなり声がして、僕は悲鳴を上げながら振り返った。
「誰だ!?」
真っ黒な豆畑の上に、僕と同い年くらいの少年が立っていた。背は僕よりも少し高いくらいだが、顔が青白く、不健康そうに見える。彼の体は白黒ではなく、肌や服にはちゃんと色が付いていた。何より、彼は手に大きなクジャクの羽を一本持っていたのだが、それは目にも鮮やかなエメラルド色をしていた。
「君は誰? ここは何ていうところで、僕はなぜここにいるの?」
「私は、誰ということもない。ここが何というところなのかは決まっていないが、白黒街と呼ばれている。君がここにいるのは、そのための条件を満たしたからだろうね」
僕の質問に答える口調は丁寧だが、まるで答になっていない。
「君、それより、ここに来たらやることはひとつだろう。飛ぼうじゃないか」
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