愛情ココア
霧星
第0話
彼は、空になったコップを私の前に置いた。その目には、大粒の涙が浮かんでいた。「泣かないで。」の一言が、喉から出てこなかった。
ここで足踏みしているわけにはいかない。この子を守るために、私は生きなければいけない。前を向かなければいけない。
素直に、「毎日笑顔でいてくれるだけでいいから。」と言えばよかったのに、喉からあふれた言葉は正反対だった。「ママだって大変なんだから。泣いてる場合じゃないわ。」なんて、今思えばただ見栄を張っていただけだ。
ごめんね。私と生きるなんてつらいよね。いつもママ、八つ当たりしてるよね。でも、もう少しだけ付き合ってください。笑顔を咲かせてくれるだけでいいから。
「今日はご褒美。」そう言って私は、もう一杯ココアを作りに行く。後ろですすり泣く声が、次第に小さくなっていった。
コトン。コップを置いたと同時に、壁にかかる時計の中の小人たちが踊りだした。
愛情ココア 霧星 @fogstar
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