第19話 フリーライターのシュウケツ

「この街は、私達が支えます!」

少し大袈裟な宣伝文句が書かれたチラシが、〈廻線〉(かいせん)に貼られている。過言かもしれないが、嘘のようで、ソレは現実だった。


私はこの街の文献を漁った。それこそ図書館から倉庫の奥底まで。そこで見つけた様々な情報を元に、トラレムシティについて書き記す。





***


昔、水源が豊富で、それを中心に街がきずかれた。人々は水に感謝し、平和に暮らしていた。


だが。数年前、ここ〈トラレムシティ〉は大混乱に陥っていた。とある会社の暴動をキッカケに、各地で破壊活動が行われた。外界への移動手段がほぼ皆無なこの街では、それを境に、多くの人々がその日暮らしを余儀無くされた。


娯楽施設なども当然無いわけで。人々は、ストレスを発散するアテが無かった。そして流行り始めたのが、性交によるストレス発散方法。お互い身体を貪り、ストレスを解消していく。当初、有能に思われたこの方法だったが、これが最悪を招いた。


倫理観の崩壊。性病の蔓延。無残な子供の遺体放棄。川へゴミや遺体を放棄する為、病気の感染は瞬く間に広がった。その為に、仕方なく川を埋めたて始めた。そして遂には、子供を食糧とする人種や、子供が親を殺す団体まで現れた。街の壊滅まであと数歩。


そんな絶望的状況に現れたのが、〈アドハー社〉である。この街に活路を見出したのである。当時、子供にだけかかるウイルスが街を囲む樹木から発生していたこともあり(川の汚い水が原因か?)、アドハー社は手始めに全ての病院を買収した。

そして、専門職の人間を集め、街の中心に(主に水源付近に)大きな〈ホワイトドーム〉を建設。中には医療施設、保育施設、養護施設___要するに、子供の出産から、ウイルスに掛からない程度の成長までを支援する建物をつくった。


あまりにうまく出来すぎた話な為。当初は誰もが疑い、頼ろうとはしなかった。しかし、街の無残な状況に耐えられず、誰かが口火を切り。また一人、また一人と入会していき、遂にはほぼ全ての住人がアドハー社に縋っていた。


今や、アドハー社はこの街の権力を牛耳っている。だからこそ「この街は私達が支えます!」というのも強ち間違ってるとは言えない。


狼狽する人達も減り始めた頃。アドハー社は新たなプロジェクトを発案し、実行に移した。それこそが〈永久機関供給〉(エターナルサピリア)である。



これらのお蔭で、人々は以前のような___否、以前より数段安定、快適な暮らしを送ることが出来ている。


そして、つい一年前。トラレムシティの街長に、アドハー社の時期社長(柊殊師)が当選。今までなら街に生まれ、街で育った人だけが参加出来る選挙であったが、今回は誰もが認めざるを得ないので、特例措置だそうだ。


アドハー社がこの地に来て十数年が過ぎている。今や殆どの子供がホワイトドームで育てられた子供達だ。なんの疑いもなく。この街で起こった悲劇も知らずに生きている。


私は、この街の実態と行く末を見届けるべく、自分の街とトラレムシティをヘリコプターもどきで移動している。が、それでも取材などが夜遅くなることもあり、森の中に家を建てた。現在、木の成分も検査中だが、これといって危険な成分は無い。あの話さえも嘘だったのか? レポートは続く。






***






私は追われている。

これを見た人は、真実から目を背けないで欲しい。そして、とるべき行動をとって欲しい。健闘を祈る。

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