第17話 タイジするイジョウ

「イテテ……」


目を覚ますと、2人は椅子に縛られていた。目が慣れず、辺りは暗くて見まわせない。

「大丈夫、藤森君? いる?」

「俺なら大丈夫っす。雪さんこそ大丈夫っすか?」

「なんとかね……。それより、私達、さっき落ちてどうなったの? それからの記憶が曖昧なんだけど」

「俺もッス。しかも縛られてるし、ドコか分からないっすし」


雪は仕方なく、目の異常を用いた。直後、部屋は色を反転したかの如く明るくなった。雪は目の使用をやめた。


「うわっ、眩し……」


しかしそれは、部屋の照明ではなく、正面のモニターからの明かりであった。アドハー社のトレードマークが映しだされている。そして、画面横の扉から、一人の男と少女が現れた。


「真冬ちゃん……」


雪が口ごもりながらも、名を告げる。が、反応は無い。


「すまんが、私の娘は私の言うことしか聞かないんでね」

「ってことは、あんたが柊殊師(ひいらぎ ことじ)っすか」

「その通りだよ。ここまで来た君たちなら多少は知っているんだろ? 我が社の方針を」


そう言うと、彼はモニターを使いながら「では、君達には、全てを知って、全てを忘れてもらおう」と作業的に発言する。

椅子が奇妙な音をたてる。すると後ろから猿轡のようなものが、口に当てられた。

「一々口にだされると面倒臭いのでね。静聴してくれ」


んんんんん!と声にならない声を、雪も藤森も虚空に吐き出した。



「さて、君達がどこまで知っているか、私に知る由もない。なので一から説明しよう」


男はモニターに映し出される映像を使いながら、説明を始めた。


「そうだな……きっかけは、とある悲しい事件だったんだよ。それを発端に、ここトラレムシティは崩れていった。それが我が社がこの地にくる理由だった。そう、実験のためにね」


モニター前の少年少女は、もがき足掻くが、無意味な抵抗である。男は続けた。


「主要な土地を買収。そしてホワイトドームと永久機関供給の建設。事件をキッカケに人口が減りつつあったこの街を、V字回復させたのだ。ホワイトドームという完全無菌で完璧極秘の施設のおかげでね」


一呼吸をおき、柊真冬が用意した水を一口飲み込む。そしてまた続ける。


「永久機関供給。これもこの街の景気を回復させた。私達は確実に貢献している。なら!多少の恩恵は受けるのは当然と思わないか? 我々は以前から街の、もとい社会の効率を改良を目指している。その成果は、もう目に見えて君達に届いているだろう。 おっと、話が少しズレたな」


男は少し笑った。


「最初に必要だったのは、何においても労力だ。そこで、人口数が安定した辺りで、何人かの子供を親に〈死産〉と告げ、躰数を集めた。こいつらを調教するシステムを作り上げるのに一苦労したが、、、。今では、ほら!」


モニターには、死に物狂いで紐を口で引っ張る少女……らしき生き物が映し出される。歯や体からは血がした垂れ落ち、目は獣のそれであった。


「動物に極限に近づけたこいつらは、私達の命令に従い、死ぬまで永久機関供給の歯車を回し続ける! 食糧は無限に湧き出る水だけで十分なんだから。代わりは沢山いるんだしね?」


雪は、目に涙を浮かべていた。普段自分達が、特に感謝もせず使っていたものは、まだ年端もいかない、いたいけな子供達の犠牲に成り立っていたのかと思うと。そして画面から流れる少女の悲痛な叫び声に心を痛める。


「そして、永久機関供給の稼働に問題が見られないと踏んだ我が社は、次のステージに進んだ。それが薇充電だ。これがなければ、このサピリアシステムが成り立たないと言っても過言ではない! だが、この薇となる部分。良い材料が、当初見つからなかったのだ。研究の末、見つけたのは【人の心臓】だったんだよ!産まれてから死ぬまで動き続ける筋肉は、薇充電の基礎に持って来いだったんだ!」


高らかに、恍惚に、だが常軌を逸して。柊殊師という名の怪物は、まるで全てが正しい行いのように語り続けた。


「勿論、心臓はホワイトドームにきた子供達から頂いた。だが、その子供達は永久機関供給になる事も難しい。なにせ心臓がないから、不可に耐えられないからな。そこで、新たに別のプロジェクトを立ち上げたのだ。それが、君達【超常人種】の製作だ!」


モニターには、13年B組の皆が映る。そして切り替わり、一人一人の顔、姿、能力が表示されていく。


「君達の世代の子供達から心臓を取り除いた後、新たな人工心臓と、多少の細工を施させて貰った。そのお陰で、君達は、人類とは異なる新たな力を手に入れたはずだ。ま、それも全てモニターしていたから分かっているんだがな。 詰まる所、君達が生きてる限り、君達からはサンプルが取られ続け。君達の望む平穏な街は訪れない。と言った方が分かりやすいかね? そして、そのサンプルデータを元に作った、より強い【極常人種】。これは、まだ数体しか出来ていないが、私の娘として、大事に育てているよ。真冬もその一人でね。妹もいるんだが、あいつはいつも街に出かけていてね……。おっと、また話がズレてしまったね」


2人の表情は、絶望。その二言でしか表せない。ただ淡々と現状を説明していく現実から目を逸らしたかった。が、そんな余裕すらない。


「成功個体が出来たら、海外に売ってもいいと思っていてねぇ。ま、これは余談に過ぎない。さて、ここらで全てではないかな? もう話す必要がある事はないだろう。私は時間の無駄がキライでねぇ。では、2人とも、サンプルをありがとう。そして、さようなら」



そう、男は独壇場に仕切りをつけると、雪と藤森の再び意識は消えていった。ただ一方的に事実を述べられ、それが嘘か真か確かめる余地なく。混沌へと沈んでいった。

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