第15話 ハッケンするイジョウ

〔真実を知った人間の行末は2つある。一つはその真実から逃げるという道。もう一つは……〕






 雑草が地面を覆い尽くす。腰までの高さの木や、雪の身長の3倍はある木。大きさはまちまちであったが、木の種類は似て見えた。

功罪相半ばしているであろう、雪の頭の中は溷濁している。


 藤森駆が指差す方向に、普段見慣れない家屋がある。アドハー社がこの街で、サピリアシステムを導入して以降、その恩恵を受ける為に、人々は[家の形を変えていった]。それは繋転塔から送られてくる回線は、従来の家の形では対応出来ないからだった。

 それ故、一昔前の家の作り……と思われるその家屋は、不気味ながらも、どこか風情があった。鬱蒼とした森のせいかもしれないが。


「ここじゃ、ちょっと危ないし、あの家に行っちゃいません?」

 急激に森の色がくすみ始める。来た道でさえ判別するには、そうとうな苦労を要しそうであった。

「そうしよっか……」


 藤森が、私の先に道を切り開く。と言っても、その建物周りは剪定されているのか、草木が見えない。目に明瞭と映った。

「こんなこと聞くのは、野暮かもしれないっすけど……なんで急に泣き叫んでこんなトコまで?」


 拾った気の棒で、蜘蛛の巣を払いながら問う。雪はうまく答えれそうに無かった。自分の中のわだかまりが、全身に流れて、脳さえも正常に機能しないようだった。

「あ、無理に答えなくてイイっすよ?」

「うん……ごめんね」

 何か話した方が良いと、気をかけてくれたのだろう。雪は感謝を胸に受け止めた。



「着いた……っすね」

「そうみたいだね」



遠くからの外観___屋根の上層部しか見えていなかったその家が露わになった。荒れ果てているものの、家の周りは芝生。林檎の木も植えられている。木造建築で、人が住んでた頃は、蔦や苔も無く綺麗だったろうと想像が出来る。



「誰かいるっすかね?」


そんなわけ絶対無いが、雪は口を噤んだ。


「すいませーん!誰か居ませんか!?お邪魔させて欲しいのですがー!」


玄関の戸を叩く。同時に家主に呼びかけるが、やはり反応は無い。勿論、こんな廃れた家に誰かが住んでる事はなさそうである。

そして藤森がドアノブを捻ると、案の定ガチャと音が鳴った。



「わ。鍵かけてないっすね。不用心だな」

「多分……もうここ空家だよ。誰もいないんじゃないかな」

「あー、そうかもっすね」



「___しつれーしまーす……」

続いて雪も侵入する。古風な外見とは裏腹に、中は磊落されたコンクリートブロックを思わせる質素な壁。小物や壁画を飾る空間がありながらも、活用している様子は全く無かった。簡素な電球と、二階へと伸びるであろう階段が備えてある。


「ちょっと、不気味っすね」

「まぁ、家の場所が、場所だからね……」

「食糧は無いっぽいすね。一晩過ごせるかな……っ!」

「そうだね。布団位あればいいけど……。? どうしたの藤森くん?」

「い、いや何でもないっす」


異性と2人きり屋根の下。年頃の男子が反応しない方が不健全だろう。


「色々、見て周ってみようか?」

「そっすね!!」


藤森は、自分の淫らな感情を抑制し、家の調査を始めた。





***





「ここ、書斎かな……?」


雪が二階で見つけたのは、本とファイルが山積みになった部屋であった。窓からは既に月明かりが覗いている。ドアを開けた拍子に舞った埃が、月光に照らされる。少しカビ臭かった。


「うわぁ。これは、凄い量っすね」

「そうだね……。ん、机の上に」


雪が手にとったのは、手帳のようなものだ。それは大分すたれて、年季があった。おもむろに開くと、そこには殴り書きに、こう書いてあった。



『これに気付いた者。真実を受け止めるべし』



「どーゆーことっすかね?」


肩から顔を乗り出して、藤森が手帳を見る。


「うーん。誰かの日記か何かだと思うんだけど……」


雪はそのまま、ページをめくっていった。藤森はその場を離れ、書斎の他の場所を漁り始めた。






数分後、雪は、再び腰を抜かすことになった。その時の衝撃で床が軋んだ。藤森は音と床の揺れに気付き、雪に近寄った。


「ど、どうしたんすか雪さん!」


藤森は空を眺め、震えている雪に駆け寄る。手元には手帳。藤森は、翻ったソレを手にとった。

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