第13話小福に訪れた、小さな幸福

 私は、保健委員をやめてから、点検委員に入りました。

 別校舎では、用務員さんがあんまりいません。その為に、私達が校舎周りを綺麗にしないといけません。


 けど、この委員に入った動機は不純なものです。とても申し訳ないです。正直な事を言っちゃうと、保健委員の時もそうです。


 保健委員は、もし拓人君が怪我をしたら保健室に連れていってあげられる。点検委員なら、野球をしている拓人君を真近で観れる。こんなに嬉しい事はありません。




***




 とある夏の日___


「おーい! そっちいったぞ!」

「ファースト!」


 グラウンドには野球部が、汗を涌き水の如く垂らして、練習している。かんかん照りの太陽が、容赦無く体力を奪う。蝉の声が聞き飽きた最中、私は花壇の整備をしてました。薇充電をスプリンクラーにセットし、水を撒きました。其の間、サードをしている拓人君を見れる。至福の一時。



「おーい! そっちいったぞ!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、近くの茂みにボスッと音がした。

 確認しようとして、私がそちらに向かうと。

 反対側から拓人君が現れました。


「お、小福。点検委員か、お疲れ」

 拓人君で頭がいっぱいだった私。動揺をどうにかして隠す。

「拓人君も。お疲れさま」

「この辺にボール落ちたとおもうんだけどなぁ」

「わ、私も探すよ」

 急いでいたらしく、ありがとな!と言うと、茂みに潜っていった。かく言う私も、茂みに身を沈めた。


「あった!」

 結局、拓人がボールを見つけた。

「良かったあ」

 何も手助け出来なかったのが、少し悲しかった。グラウンドの方から「拓人ぉ! まだ見つからないかぁ!」。と声が届いた。


 それに反応した拓人君は、急いでその場を離れようとした。その時、何故か咄嗟に水筒を差し出していた。

「あ、あの。喉乾いたら倒れちゃうし、これ……」

「……。さんくす。貰うな」


 ゴキュゴキュと喉を流れる音がする。熱中症対策に、カバンに小ぶりながらも、水筒が入っていて良かった。


「わり、結構飲んじまった。ありがとな」

 私に、満面の笑みを見せた。そして向きを変え、元の場所に戻って行く。


 私は、手の中にある水筒が、あまりにも煌々とし過すぎて見えた。再度口をつけるのは、暑さで倒れる寸前のことです。

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