第9話 井上駒瘻と大神巴の器械委員会 〜祈らずともエール〜

 社会科見学の2日前――――


 カチャカチャ。ガチャン!

 なにやら器械音が、響き渡る。

 井上は、全自動開閉式窓の整備をしていた。薇充電がかかる歯車を外し、汚れを拭き取り、油を指す。手が真っ黒になるが、それはそれで楽しいと感じていた。


「そっちは終わったかー?」

 天井から大神が顔を出す。彼女は彼女で、別の仕事をしていた。

「う、うんー。おわったよ」

「いやー、天井裏は埃っぽいなぁ。いやになるね」

「そ、そだねー」

 髪に付いた埃をバサッと払う。油で光沢を保たれているのか。と、おかしな発想で疑う程に、その髪は美しく太陽に反射していた。


 それから二人は場所を変えた。当番である全自動開閉窓のギミックの点検し終わったので、自分たちの教室に移ったのだ。それから間もなく、各々別の作業を始め出した。が、それは少年が口を開くことで、一時中断となった。

「あ、あのさー、大神さんって好きな人いるの?」

 その唐突な質問は、大神への好意を表したものではなかった。彼自身も、大神の性格を熟知しているからこその質問である。が、大神は教室の自動黒板クリーナーを点検していた為、教室には吸引音が耳を支配していた。駒瘻の声は、悲痛にも聞き届けられなかったようだ。



「なんか言ったか?」

 掃除を一旦停止させ、大神がやってきた。

「い、いや。大神さんって、小福さんと仲いいのかなぁ、って……」

「どうだろな。雪は友達だと思うが。 友達の友達ってところかな」

「そ、そっかぁ」


 聞きたい事が、ズレる。けど、こんな事で緊張しているようじゃ、小福さんへの告白なんて到底無理だろう。井上は決意した。


「大神さんって、好きな人いるの?」

彼女は作業に戻ろうとしていたが、こちらを振り返る。

「私ぃ!? いやいや、私は器械があれば他いらないからなぁ……」

「そっかぁ……」

 井上も大神も、家が修理工場を営んでいる。小さい頃から器械と育った2人は(特に大神は)器械無しでは生きられない。工具は肌身離さず持ち、ねじやナットも予備を鞄に詰めこまれている。

「なんすかーその質問。もしかして井上は、小福さんの事、好きなの?」

「い、いやぁべ、ゔぇ別にそ、そんなわけなおいじゃ、あ、いでふかぁ!?」

「いや、立て続けにその質問して。その上その動揺っぷり。否定は最早ネタでしょ」

 平静を装ったつもりだったが、駄目だったらしい。おそらく、ポーカーフェースが出来て無かったからだろう。

「成功すると……思う?」

「そればっかりは、私にもわかんねーな。あっちの状況も分からないし」

「そりゃそうだよね」

 正論を言われた。そりゃ親友でもなければ、その人の恋路なんて知る由もないだろう。ましてや大神は、そういうのに無頓着そうであったから。けど。


「けど、頑張れ! 当たって砕けろ!」

 不意に腕でガッツポーズをする大神さん。ニカッと効果音がなってるかと錯覚するほど、元気なエールをくれた。まさかこんな言葉をかけてくれるなんて思ってもみなかった井上は、素直に喜んだ。

「あ、ありがと。砕けないように頑張るよ……」


 あははと何故か笑ってしまう。不思議と元気が出る。

 多分、彼女は心から祈ってくれている訳では無い。けど、その言葉は結果的に僕を励ました。

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