第10話 拓人 is tact

 いつからだろう。あの馬鹿の事を好きになったのは。

 馬鹿は馬鹿でも、馬鹿正直で馬鹿真面目なあいつのことを。


「おーい! こっちこっち!」

「わーかったって」

 雪と小福は既に食堂の中央付近に座っていた。しかし拓人は、部活の呼び出しがあり、到着が遅れてしまっていた。週に1回の三人の食事会である。


「いやー、みんなのお陰で今週も大分溜まったからね!今日は豪勢にいこう!」

「まぁ、所詮食堂だけどな」

「はいそこー。文句言わなーい」

「ま、まぁ食堂でも美味しいのはあるから、ね?」

 小福がなんとかフォローする。


 三人が〈なんでも解決屋〉を始めてから、およそ2年が過ぎた。別校舎は勿論のこと、本校舎の生徒も救っている。この名は自分達が名付けた訳では無いのだが、それはまた別の話。


 お掛けで毎週金曜日に、各自が集めた食券を大量に使ったささやかなパーティーが開かれる。この催しを提案したのは、他でもない雪である。

 本校舎の人間からすれば、良い気分では無いが。


「あ! 珍しく 長嶋君がいるよ!」

「やったね。雪ちゃん。チャンスかもよ!」

「こりゃめでてーなー。頭が」

「拓人の言い方、なんか嫌なんですけどー」

 雪は顔を林檎の様に膨らます。

「そりゃ悪ぅ、ござんしたー」

 正直、嬉しくない。というより嫌だ。雪が長嶋のやつの事を好きなのは、噂になる前から知っていた。けど、気分が悪い。


「じゃあ私、ハンバーグ定食買ってくるー」

「じゃ、じゃあ私は、天ぷらそばにしようかな」

 各々が、必要枚数の食券を持ち、食堂のおばちゃんに持っていく。ちなみに、食券一枚50円だ。


「あ! 2枚足りない!850円だから15枚位持ってくれば大丈夫だと思ったのにぃ!」

「ほいよ」

 すかさず後ろから、食券二枚を手渡す。

「おお! ありがと拓人! 優男だね!」

 笑いながら、雪は受け取り、ハンバーグ定食を頼んだ。

 こんな台詞でも嬉しいと思ってしまう。雪にとってその微笑みは、幼馴染に向けるものであって、好きな人に向けるそれではない。分かっていても、袖でニヤけた口を覆う。


 プレートを受け取った雪は、長嶋君の近くのテーブルを経由して、自分達のテーブルに戻った。

 拓人は、それを予測して、通るであろう道に落ちてたゴミを取り除く。

 本人は気付いてないであろうが、こうやって貢献出来るのが、地味に嬉しかったりする。

 その後、三人で仲良く食事をした。

 仕方が無いが、今はその楽しさを共有していたい。それはそれで楽しいからだ。昔からの自分の居場所。ここなら、どこにいても帰ってこれると思える場所。だから、

2人っきりでの思い出は、もう少し先でもいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る