犯罪するとオタクにされる
深夜太陽男【シンヤラーメン】
第1話
インターネットに某有名人の殺害予告を投稿した。個人のアカウントからなので自分の職業や住所、生活習慣も調べればかなり特定されるだろう。
一時間もしないうちにとある男が自室にやってきた。警察でもイタズラでもなく報道者と名乗る男だ。
「あんた質素な部屋に暮らしてんだね。アニメとかゲームとかないの? 派手に人殺したりするような内容のさあ」
「無趣味なもんで」
「あ、写真撮らせてね。普通の顔だねえ。まあ逆にそれが不気味っぽくていいかも」
「肖像権とか個人情報ガン無視なんですね」
「犯罪者にそんなものあるわけないでしょ! こっちは正義の味方なんだから」
「悪人を裁くためなら何をしてもいい?」
「そう、民衆の同意さえあれば。ちょっとそのパソコンで危険そうなサイト開いといてよ。他に面白い材料ないかな」
「なんで報道する人って犯人を変に脚色したがるんですか?」
「盛り上がりに欠けるからだよ。あと何気ない一般人が犯罪なんかしてるって世間が受け付けないの。悪いことは悪人だけがしてるって風潮じゃないと」
「だからとある特定の趣味の人を槍玉にあげると。普段は文化的だと持ち上げておいて」
「悪いことしてみるみたいな言い方するね。我々は真実を報道してるだけ、判断してるのは視聴者だよ」
「容疑者が冤罪だったときちゃんと謝罪してますか?」
「謝る必要ないでしょ。容疑者って事実を広めただけで犯人呼ばわりはしてないんだから」
「……あなたにとって面白い話をしましょうか。五年前、漫画に影響されて殺害予告をした少年Aのこと覚えてます?」
「あー、確かそんな事件の取材もしてたかもねえ」
「報道の内容は少年Aよりも影響を与えたと言われる漫画の方に注目がいきました。年齢制限がかかっていないものですが残虐な行為が目立つ内容のものです。教育関係者なら間違いなく眉をひそめるでしょう。その漫画家は普段から表現規制について反対の発言をしており、現実とフィクションは別物であることを強く説いておりそのことを自分の作品にも反映させていました。人々の高まる妄想的欲求を解消するためにアニメ漫画ゲーム映画はあり、その中身は誰にも縛られてはいけないと。多感で影響されやすい時期の子供達に『ごっこ遊び』で終わらせられるようにするのが大人の教育の役目であると。しかしこの事件が起こり漫画家は責任を負われました。マスコミは過剰演出を頻繁に行い偏見的な報道ばかり。漫画のファンたちは自分たちは関係ないの一点張り。誰もこの犯罪の真意について目を向けませんでした。結果、漫画家は自殺しました」
「それだけ?」
「この漫画家は僕の兄です。彼自身とその家族がどんな生活に耐えてきたか話しましょうか?」
「いいよいいよ。それに好き勝手漫画描いてそんなことになったのなら自業自得でしょ」
「冤罪だったんですよ。少年Aの携帯電話に友人がイタズラで勝手に書き込みをしただけで。そのことは事件発生の報道に比べればほんの僅かしか広まらなかった。漫画なんてAが好きだったのを報道が意図的にピックアップしただけで何にも関係ない。それなのに兄の汚名は未だに強く残っています」
「もう本人もいないし、全部終わったことなんだしいいじゃない。それよりも面白い記事が書けそうだ。『兄の復讐のために犯罪をしでかす弟』……、ちょっとインパクト足りないなあ」
「そうです、これは復讐です。僕はあれからパソコンに詳しくなりまして、さっきの僕の書き込みを無責任に拡散した人たちの端末を乗っ取り同様の書き込みをするウイルスをばら撒きました。みんな犯罪予告者です」
「派手にやるねえ!」
「もちろんあなたの端末も乗っ取りました。あなたも犯罪予告者です。あなたもアニオタになりましょう」
「は?」
「『今から犯罪者の家に凸する』なんて書き込みからすぐにあなたのアカウントを特定できましたよ」
「こんなことして許されると思うなよ! 全員冤罪ですぐ片付くだけだからな」
「ちゃんと真実が報道されればいいですね。でもまず全員容疑者として広まるんじゃないですか? だってそのほうが面白そうだし」
「人生メチャクチャにされてたまるかよ。謝れ!」
「『謝る必要ないでしょ。容疑者って事実を広めただけで犯人呼ばわりはしてないんだから』あなたがさっき言ったじゃないですか。インターネットって便利ですね。今の時代、誰でも表現者になれて誰でも報道者になれる。さあ、一緒に責任を取りに行きましょう」
犯罪するとオタクにされる 深夜太陽男【シンヤラーメン】 @anroku
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