第4話-①

キーンコーンカーンコーン

昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

僕はしばらく憑島の机のそばに立ち尽くしていると、憑島は僕の机におもむろに腰掛けた。


「はい、それじゃあ授業を始めます。

前回の宿題はやってきて、ますよね?

それでは憑島さん、1番の答えは?」


「x=251/9πr です。」


おかしい。憑島は他人には見えないはずなんじゃないのか?


「はい、正解です。はい、それでは…この問題は、積分でも解けるのですが、実はベクトルを用いて、めちゃめちゃ簡単に解くことができます。…」


まるで僕だけがいないかの様に世界が進んでいる。いや、僕と憑島が入れ代わった、とでも言った方が正しいな。


自分の行動によって何も変わらない、誰も害されない、という気楽さがある意味心地いい一方で、誰も自分のことがわからない、知らない、言わば自分の存在の価値がないというのは、こんなにも虚しくて物寂しいものなのか。

今まで、憑島が味わってきたのはこんな感覚だったわけだ。

僕は憑島の言葉の意味が少しずつわかってきたような気がした。

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