ショートショート17 「咲き乱れる火花とネジ」
なぜ、僕たちは戦っているのだろうか。
銃声は戦場に響き、銃弾は仲間の体を貫く。次々と仲間たちが倒れていく。それでも僕は足を止めない。立ち止まってはいけなかった。仲間の仇を取るため。我が軍に勝利をもたらすため。いや、それは後付けだ。それ以上に、死ぬのが嫌だった。死にたくなければ、一体でも多くの敵を殺すこと。それこそが、この戦場における鉄則だった。
機銃を構える。そして引き金を引く。咲き乱れる火花はとても鮮やかで、とても刹那的に消える。無心で引き金を引き続けた。弾が切れた頃には、敵は皆一様に倒れ伏せていた。
元々、僕は争いごとが不得手だった。うまれてから今に至るまで、他者を傷つけることに強い抵抗を覚える。それなのに、こうして戦場に立っているのは何の間違いか。
僕はこの世にうまれてきたことを呪った。どうして罪のない者たちが殺し合わないといけないのか。軍のため、国のためと言えば聞こえがいいのかもしれない。けれども、所詮は己の保身のためではないか。そんな下らないもののために、僕たちに殺し合いをさせているのか。そう考えると、怒りが込み上がってくる。
それでも、僕には抵抗するだけの力も勇気もなかった。軍に逆らうことは、死に直結する。言いなりにならない人形は、廃棄されて然るべき。
僕は死にたくなかった。だから、自分の思いは押し殺して、上層部の言うことを聞くようにした。それこそが本来の使命なのだから、と。
「大丈夫か、N-27。まるで燃料が切れたみたいな顔してるぞ」
突然の声かけで、我に返った。こちらを覗き込むように、隣に座っていたのは同僚のP-31だった。
「いや、大丈夫だよ。特に故障してるところはないし、十分に動けるよ」
そう返答したが、なおも彼はこちらを見つめる。
「平気だって。ちゃんとメンテナンスは受けてるからさ。ほら、この通り」
右腕を掲げて見せると、
「そうか」
とようやく彼は折れてくれた。これだから面倒見の良い奴は扱いに困る。
「それにしても、革命軍がどんどん侵攻してきてるらしいな。斥候部隊が立て続けに追いやられているようだ。いよいよ俺たちの所へ来るかもしれないな」
「……なるべく穏便に済ませたいものだな」
「そうは言ってられないだろう。奴らは本気で政府軍を壊滅させようとしているんだ。生半可に立ち向かえばあっという間にやられてしまうだろうさ」
「それは分かってるけど……」
返答にまごついていると、突如として甲高いアラーム音が鳴る。緊急事態を報せる警告音だ。
『警告、警告。北西方角より、敵襲部隊がこちら本部へ接近中。各自持ち場へ着き、迎撃されたし。繰り返す────』
アナウンスが流れるのを聴きながら、急いで準備に取り掛かる。これからまた、殺し合いが始まる。そう考えると、足が自然と遅くなっていく。
「おい、ボーッとするなよ。急げ!」
P-31の急かす声を聞いて、再び走り出す。何度目になるかも知れない、硝煙臭いあの戦地へ。
状況は芳しくなかった。端的に言えば、僕たちの劣勢だった。革命軍ははじめに政府軍の補給部隊を攻撃して、僕たち迎撃部隊を孤立させた。それから僕たちの前後を挟み撃ちにした。
そして現在。僕とP-31は二人で戦場を駆けていた。
「ちくしょう、このままじゃ全滅しちまうぞ! どうすりゃあいいっていうんだ!」
そう吐き捨てるP-31は、怒りに身を任せるように一層加速する。僕もその後を必死に追いかける。
それからしばらく走るうちに、林を見つけた。そこへ隠れて、休息を取ることにした。なるべく木陰に寄り添って、銃弾の装填などを済ませる。
「装備はご覧の通り貧相なモンだ。これで無事に本部まで帰還できるかは正直怪しいところだ。それでもいけると思うか?」
P-31は僕に視線を向ける。彼の言う通り、現状はかなり厳しい。これで無傷のまま逃げ帰れるとは到底思えない。だが、
「いけるかどうかじゃない。何としても本部へ帰るよ」
自分に言い聞かせるように、強く主張した。対するP-31は、
「そうだよな」
と笑い返す。
それから身支度を整えて、本部へ向けて再び移動することにした。
その時だった。
一発の銃声が鳴った。そこで僕は目の当たりにした。
銃弾が立ち上がったP-31の側頭部を貫いた。撃たれた跡から鉄くずやネジが弾け飛んだ。それはまるで火花のように。
「────────────ッ!」
声にならない悲鳴が僕の口から漏れ出る。それから居ても立っても居られず、その場から駆け出す。銃弾が飛んできたのは向かって左側。茂みが多い場所だから、移動すれば物音が聞こえるはず。だったら、追跡するのは簡単なことだ。
そして、発見した。狙いを定めて、銃を撃つ。ヘッドショット。そいつは倒れた。
すでに戦闘不能となった遺骸の元へ近づく。生気を失った表情をただ見つめる。
「ちくしょうが……」
僕はその場で立ちすくんでいた。
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