第27話 甲種行為

「私とじゃ、いや?」

「そ、そういうわけじゃないけど」

 すでに等の頭のなかは混乱していた。

 心臓の鼓動がとんでもなくうるさく聞こえるほどだ。

「けど、まだ未成年だし、そ、そういうことをするのは反人権的で……」

 違う、と思った。

 反人権的だと勝手に絶対人権委員会が決めているだけだ。

 絶対人権委員会に対する怒りと光の肉体への欲望が心の中で奇妙に混ざり合った。

「そう。いい顔してるじゃない。なにが反人権的よ。そんなのは絶対人権委員会が言っているだけ。好きあった男女がお互いにこういうことをしたいっていうのは、とっても自然なことなんだから。そりゃ、初級学校とかじゃさすがにどうかと思うけど、私たちはもう高級学校の生徒よ。体だって、ちゃんとそういうことができるようになっている」

 再び接吻された。

 今度は光は舌まで口のなかに入れてきた。

 はじめは驚いたが、受け入れて舌をからめると未知の快感がやってきた。

 しばしの後、唇が離された。

「大丈夫。私は経験、結構あるから。平くんは私に言われた通りにすればいい」

 正直にいえば衝撃をうけた。

 すっかり光は処女だと思い込んでいたのだ。

 しかし彼女は経験豊富だという。

 ひょっとすると複数の男とも、性行為をしたかもしれない。

 反人権的という言葉がまた脳裏をよぎり、つい等は頭を振った。

 反人権的であろうとなんであろうと、もう知ったことではない。

 それから光に導かれるようにして、等は少年から「男」になった。

 無我夢中で途中のことはよく覚えていないほどだ。

 結局、三度もしてしまった。

 自分がけだものになったような、罪悪感が事後になってやってきた。

「俺……」

「良かったわよ、平くん。いえ、等って呼んでもいい?」

 等はうなずいた。

「じゃあ、私のことも神城さんじゃなくて、光って呼んでよ」

 甘ったるい声で光は言った。

「わかったよ……光」

 まさかこんなことになるとは思わなかったが、むろん後悔などしていない。

 光はさまざまなことを教えてくれた。

 この世界がいかに歪んでいるか、絶対人権委員会が人権を騙ってどんなに悪逆非道なことをしているかを、等は理解した。

 まだ正直にいって、怖いとは思う。

 だが、ここで逃げ出したら男がすたる、という気がしてならない。

 もし失敗すれば、魍魎堕ちして酷い目にあう。

 しかし自分は充分に、いい思いをしているではないか。

 あれだけ美味しいものを食べ、こんなに魅力的な少女とも肉体関係をもった。

 死んでも悔いがない、といえば嘘になるが、今にして思えばこの十数年の自分の人生は、灰色のぼんやりとしたものだった。

 抑うつ的になる薬が混ぜられた餓死しないていどの食事を取り、「反人権的」な行動をとらないように洗脳された自律機のような生だ。

 自律機は基本的に与えられた命令構築物の指示どおりに動くという。

 みずからの意志などない。

 やはりいままでの自分の人生は、否、この大亜細亜人権連邦の市民のほとんどは、自律機と変わらない生を送っている。

 絶対人権委員会のために働かされている家畜だ。

 もうそんな人生はごめんだった。

「光……俺、決めたよ」

「なにを?」

「絶対人権委員会と、戦う。俺は家畜でも自律機でもない。一人の人間だ。だから、俺なりのやり方でどこまで出来るかはわからないけど、絶対人権委員会に刃向かってみせる」

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