煙草を吸う描写④

 釈然としない様子のまま頭を横に振った敬子が、おもむろにスカートのポケットから何かを取り出す。メタリックシルバーが眩しいコンパクトなケースだった。薄型で長方形なそれを、和斗は手鏡か化粧道具だろうと推測する。今時の女子高生なら持っていても珍しくないアイテムだ。実際、本のように開いた先に見えるのは何の変哲もない鏡である。しかし、少女が鏡の縁に爪を引っ掻け、パチンと音が一つ。男は、ぎょっと目を見開いた。

 鏡が帳番を軸にして上から下へと移動。現れたのは、横一列に並ぶ紙製の棒。見間違うわけがない。あれは、煙草だ。和斗が動揺していると、敬子が残念そうに語るのだ。

「教師に見付かるわけにはいかないじゃん? だから、シガレットケースの半分を鏡で偽装するの。その分、半分しか煙草を入れられなくて十本になっちゃうけどさ。銘柄っていうか、私の場合は手巻きでシャグをブレンドしているんだけどね。匂い薄めの味濃い目。二、三本吸っても『あ、アイツ、どっかでカフェラテ飲んだな』程度にしか思われないわけ。本当なら、もっとガツンと強めのやつを吸いたいんだけど、これは課題だね」

 語る間にも慣れた手付きで煙草を一本、口に咥え、これまた高そうなライターで火を着ける敬子。プハーと美味そうに煙を吐き、ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべるのだ。

 コイツ、本当に十六歳か? 和斗はこれまで培った常識が瓦解する音を確かに聞いた。

「で、これからどこにエスコートしてくれるのかしら?」

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