第7話「戦場の酒」
☆☆☆
同日。
am7:09、また職場の新人さんから電話を受けてる母。
am7:12、キッチンにて。変な顔をしてしまう。まだ奥歯がじゃりじゃりする。
そういえば祖母は一日に味噌汁を一杯しか飲まないそうで、我が家でもそうしているが、なぜかわたくしたちも味噌汁は一杯。
am7:20、洗濯物を干して、洗い場に籠を戻して来たら、母が例の新人さんの言うことについて祖母に話していた。
「今日休みたいけど社長さんが、って。そんなに休みたいなら休んだらいいのよって言うのよ……」
少し、呆れているようだ。
am7:25、初七日はどうするのか目上の二人に聞いてみた。祖母が
「ご供養すれば……」
というが供養の仕方がわからない。一応、
「骨を食べた」
と言うと、母が
「じゃーそれでいいんじゃない?」
(それにしても)
「お腹がへったよう~♪」
と父の持ちネタで言ってしまう。ぴーひゃらぴー♪ すると母が、
「ああ、ごめんごめん。じゃあ、ごはん運んで」
am7:33、食事開始。
am7:43、食事終了。
am7:51、食器洗い中に母が珈琲を淹れてくれと言う。どうやら、昨夜バレーボールの延長戦で、いつも見ている「不思議発見!」が遅くまで流れてて、夜更かししてしまったらしい。しかし日本女子バレーはオリンピック出場権を獲得! めでたい!!
祝いに母の差し出すカップに、通常量のインスタントコーヒーの粉を入れ、水で溶いてから、少量のお湯を注ぐ。ふふふ。
「テーブルの上に置くね」
そこにはわたくしのハーブティー専用耐熱グラスに青汁の残りがあり、祖母の白い湯呑に緑茶の飲み残しが置いてあった。
am8:00、母がローズジャムを片手に、白いプラスチックの匙を差し出してきた。
(あ! 昨日の!!)
と直感的に判断し、口を開け、受け入れた。
甘い、香る。ほんのりと、口どけやさしく、ほどけてゆく。心が潤う。
母がこんどこそ抜かりなく、白い皿を出してきて、
「こっちが**ちゃんのね」
と言うから、なんだろうと思う。祖母のはスコットランドのチェック柄の皿。どういう区別をつけてるんだ? ※なんのための区別か……知るのは後になる。
am8:13、母が、昨日駐車場で発見されたメガネの話をしている。わたくしは夕べ、彼女が寝る前にバレーボールの放送を流しながら「女の昭和史」を読んでる横で聞いたが……やはり、部屋の中に置いておいたメガネが外で見つかるのは不審だと思うらしい。
そんなこと言ったって、母、薔薇の樹が植えてあるからって、フェンスもあるからと言って、窓開け放して出かけるものなア。窓辺に置いてあったんなら、今後用心いるね?
am8:20、母に言われて、今日の12時頃(後に1時に改められる)に祖母を茶道の先生の家まで送ることになる。
「いいけど、私、KDさんち知らないよ?」
と言うと、すかさず母が、
「おばあちゃんが教えてくれる」
祖母は祖母で、このあたりに詳しくない。
母が、まあた、
「前にUMさんが住んでいた家があって、今はAHさんが住んでいるんだけれど……」
とやり始めたので、
「そんな情報、いらない!」
わたくしが切り捨てる。
am8:25、母、化粧。左頬にべっとりとファンデーションが撫でつけられてる。どうも、日焼け止めの上から塗ったので少々浮いてる状態らしかった。
だが言わない。
BBクリームがなかなかなくならない、とぼやく。ケチケチ使っているからでは?
「おばあちゃんの前では綺麗にしておかなくちゃ!」
とでもいうような、張りつめた気配。
わたくしは、大和のお骨の居場所を作るために、塩を投入した水をひたしたバケツと雑巾二枚を持って一回、部屋に戻った。
余計なものを排除して、プラスチックケースを祖母にあげた。入れ物、欲しいだろうと思って。
部屋の北側に位置するクローゼットの頭上のスペースにお骨を置いた。
「二礼二拍一礼でいいよね」
とある女神さまへの挨拶だが、他に知らない。
「別にかまわん」
と生前聞かれなかった大和の声を聞く。
満足してキッチンへ戻る。
am8:40、母がガラケーの使い方を祖母に教えていた。
「1番、TOさん、2番、MIちゃん、3番……4番、自宅」
と……4番、自宅、以外いらない情報のような気がする。
「なんなら、私が時間になったら迎えにいくよ」
「そうね、そうしてくれたら安心」
そんな感じで引き受けたが、母、一回出ていき、また戻ってき、
「メニュー、メニュー! これで今日のメニュー考えるの。なんにしようかなあって」
と言って、おしゃべりしながら出ていく。
am8:45、母が出勤したので、マッコリをごく小さい湯呑に半分注ぎ、オランジーナで割って飲んだ。これが戦場の酒だねえ。
☆☆☆
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