第8話「『伊勢物語』とプルースト」

大和の最期を思いながら、



「私も、腎臓弱かったっけな。大和みたいになるのかな? まだ若いんだからって、ちっとも慰めになってないよ、先生?」



 大和のお骨を納めたのだから、部屋を快適にせねばと思う。大和がいたときのように。それで天上でゴロゴロいっててほしいのだ。


 今日も時間がある。なにか読もうかな。

『日経経済用語辞典』を開いて、目まいがしそうになる。


Am10:30、コスチュームを調べていて、羊飼いと隠者とまじない師は当時、うさんくさい目で見られていたと知識として知った。


Am10:40、キッチンにいる祖母の足を初めて間近で見る。ざっくりと肌が破れて、木に裂け目が入ったようになっていた。痛い傷痕……。青い打ち身。



「おばあちゃん、それ何て言われた?」


「病院で?」


 そう、わたくしはしゃべるとき言葉を記号のように略す。



「ああ、風呂に入って大丈夫って……」



 なるほど。痛々しいが、骨には異常がないので、ということらしい。


Am10:45、『境界のRINNE』の録画を観る。



「っこれが! 朝飯かーい!!」



と、死神ショウマが。ハト餌の豆をいただくりんねと六文。


 妹が息子にはつけたくない名前は、ショウマだそうだ。どうでもいいが。

 もうひとつ、成仏ポイントってなんぞや?

 入れ歯がいちいち飛んでくるってシチュエーションもあんまりない(笑)。


Am11:10、『山賊の娘ローニャ』の録画を観る。

 ビルクのいいやつっぷりにやられる。霧の中で錯乱するローニャを、傷めつけられながらも離さない。頬をひっかかれ、かみつかれてなお、彼女を抱きしめる。


プロデューサー:川上量生

ローニャCV:白石晴香


Am11:37、昼食。母が用意していってくれたサンドイッチ。どうやら、白い皿とチェックの皿は、春のパン祭りでためたポイントでゲットしたものらしく、彼女はそれをアピールしたいようなのだ。必ず、サンドイッチは春のパン祭りでゲットした皿、と。


Am11:45、ななんと、ローズジャムのサンド! 甘くてほろほろと香りが口の中でほどけていく。至福!

 祖母のサンドイッチをレンチンしようとしたら、レンジの中にオクラ二本が入っていた。

 今度こそ、祖母のサンドイッチをレンジでチンしようと、セットして席に着くと、今度は祖母がキッチンに立つ。自分で取りに行ったらしい。そして冷蔵庫から夕べの食べ残しの焼き鮭を取り出し、醤油さしと一緒にもって席に着いた。



「塩気がなかったい」


「生鮭をただ焼いただけじゃ味しないよね」


「塩ふってやらにゃ」


「ある意味、食事に執着ないよね、お母さん」



Am11:50、ローズジャムのサンドイッチを一切れ残しておいたが、祖母が食べきるので、わたくしも食べる。鼻腔をくすぐる芳醇な香り。ほろほろと、ほろほろと、口どけ甘やかで、食べて特別感がある。まるで花の蜜を吸ったミツバチ、いいや蝶のような気分だ。


12:00、『ちはやふる』20話「くもひにまがふ おきつしらなみ」をアニマックス・プラスで観る。



「オレは逃げない奴になりたい」



 のヒーローのセリフに、じんわり。白波会の先生の表情で、それがどれだけ真摯で、けなげで、勇壮な決意であるか、希であるかがうかがえてよかった。


Pm12:25、祖母をお茶の先生のところへ送りにでる。先生は祖母の手にある地図を見て、



「地図だなんて、ご近所だったでしょ?」


「いえいえ。私、地元で二時間、迷いますから」


「じゃあだめだわ」



 きれいに言い切られた。



「ちょっと寄ってく? 飲んでいく? お作法できないでしょ?」


「はい、ではよろしくおねがいいたします」


 別に悪気は感じない風体だけど、文書にするとすごくひっかかる言い方をする人だ。祖母はこの人に……いじめられていたのだ、きっと。


Pm12:50、帰宅。二時までに迎えに行くので、次は一時半に家を出るから、アニマックス・プラスで『ひぐらしのなく頃に』の「鬼隠し編」を一話だけ観る。


Pm1:30、「鬼隠し編」の二話目の途中でストップ。先生んちへ行ってきます!


Pm1:55、帰宅。やっぱり。祖母は足を傷めているというのに、じっくり正座させておかれたらしい。困る。早めに迎えにいって、よかった!

『ひぐらしのなく頃に』「鬼隠し編」二話目の続きを観る。


Pm2:03、次いで同上。三話目「疑心」を観る。


Pm2:30、ガンダムユニコーンの録画を観る。


Pm:55、GUのエンドロールを回すことなく削除。少し休みたい。


Pm3:00、在原業平の高子との恋が本当だったなら、彼女の父親である清和天皇の時代に、順調に出世したのはおかしいことであるから、フィクションで、せいぜい高子のサロンで作られた物語であろう、という説を読んだ。


 しかし『伊勢物語』は、



「最もたる愛の真実は、その喪失によってしかとらえられない」



 という、プルーストに通ずるらしい。

(中野方子:著『在原業平』)


     ☆☆☆


 ちなみに、昔の女の人の名前は秘匿事項である。なので、皇族のお姫様やら高貴な身分の方しか、記録されてはいない。

 そのお姫様の名前も「訓読み」で表記され、読めないようになっている。

 現在はそれを「音読み」するのが正しい読み方とされている。


 したがって高子は「コウコ」と表記され、「たかいこ」と読むのが正しい。

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