空歴1905年【5月27日~8月28日】

第1話 日本界界戦


 


 

 頭の痛みで、目を覚まし、冷たい雨が、背中を流れる。

 スポーン地点が、悪く、落ちたのか?

 運営は、五感の機能を実装したのか?

 っと思いながら、私は、起き上がった。

 足元の水たまりには、黒髪ストレート、みどり色の瞳、美少女のアバターが映る。

 

 『司令!もはや距離八千、どちら側で戦をなさるんですか?』

 

 頭の中に、少女の明るい声が響く。

 アレ、このクエストって、単騎でやるんじゃ無かったの?

 流石の運営も、無理ゲーだと思って、MOB艦隊くれたの?

 そんなの考慮しとらんよ!

 私の作戦通り行くしかねーと思い、返答をする。


 『取り舵じー、一杯、速度一六ノットで十分間掛け、回頭せよ!』


 『東郷司令!取り舵に為さるんですか!?』


 『さよう、とぉぉりかぁじー、一杯』


 『全艦!とぉぉりかぁじー』


 露出艦橋フライングデッキが、右に傾く。

 見えるのは、黒煙を煙突から吐き、二列で、雲海を走る艦隊。

 世界最強のルーシア帝国空軍、ガチロック艦隊。

  

 今、まさに 【日本界界戦】が始まろうとしている。


 戦闘前に、自分の【ステータス】で、最後の確認をする。


***


 【ステータス】

 

○名前:東郷八子とうごうはちこ 十三歳 

 

○能力:黄金の十分アドミラル・テン、艦に愛される少女、嵐を呼ぶ少女ストーム・ガール


○操舵艦:戦艦三笠LV九十九


 主砲: 40口径30.5センチ連装魔導2基4門

 副砲 :40口径15.2センチ単装魔導14門

 対水雷艇砲: 40口径7.6センチ単装魔導20門

 47ミリ単装魔導16基

 空魚雷発射管 45センチ発射管4門

 最大速力 : 秘匿

 両舷:魔導刃マジカルセーバー


全長:131.7m

全幅:23.2m

吃雲:8.3m


装甲:アダマン鋼

    舷側:10インチ

    甲板:5インチ


***

 

 「三笠、黄金の十分アドミラル・テン発動」


 足元の露出艦橋フライングデッキの床が、ピカっと光る。

 やがて、百五十度の回頭を終えた時には、距離七千。


 ガチロック艦隊の砲から光りが生じ、法撃が始まる。

 普通なら、乙女エンジンを使い、シールドを展開する。

 しかし、【戦闘評価S】獲得の為、展開はしない。


 っというか、禁酒状態のドワーフ共が、正確な射撃が、出来るわけが無い。

 だが、此れに要する十分という時間は、生と死を分ける魔の時間アドミラル・テンとして、無限に長く感じる……


 【十分間の戦闘状況:ダメージ無し、黄金の十分アドミラル・テン発動】


 表示されたのが、距離六千。

 同時に、後ろのMOB全艦が、回頭を終えたのを確認した。


 『各艦、自由法撃、武運を祈る』


 指示を終えると、私の右には、凡そ二列、三十の艦船が見える。

 狙うは、旗艦クニャージ・スヴォーロフ。

 通称、スワロフ。


 「狙うは、スワロフの司令部の巫女キーのみ!右舷、アンカー射出!狙いは、スワロフ煙突」


 前部のアンカーが、飛び出す。

 アンカーの射程は最大一三キロ、スワロフの前部の煙突に絡みつく。


 「アンカー巻き上げ開始!」


 私の艦は、スワロフに引かれ、宙を舞う。


 『司令!大丈夫ですか!?』


 『問題など無い!』


 丁度、スワロフから見れば、跳ね上がった我が艦が、直上に見えただろう。

 スワロフ砲塔も限界まで上げ、私を狙い始める。


 「右舷、魔導刃マジカルセーバー展開!抜刀!」


 ジュッと水を蒸発させるような音がし、私の艦の右舷に、巨大な赤い魔導刃マジカルセーバーが展開される。

 

 「秘匿速度五十ノット!ダッシュ」


 艦に指示を出し、ジェットコースターの頂点から落ちる感覚が生まれる。

 艦橋デッキに捕まりながら、私は刻々と近づくスワロフを見つめる。


 ジュジュと金属をレザーが焼き切る様な音がし、我が艦とスワロフは交差した。

 スワロフの艦橋部の一部が抉れ、上半身が無い小柄な人物が見えた。


 次の瞬間、スワロフ全面に青白い光が走り、艦がボロボロと分解していく。

 中に居た将兵が、人がゴミの様だのアニメの様に、下に落ちていく。


 『敵、スワロフ!巫女キー討ち取ったり!』


 『本当ですか?司令!』


 『ああ、本当だ!』


 『司令、司令の艦、このままだと敵艦隊のど真ん中です!回避行動を!』


 『問題は無い!狙っていた』


 私の艦は、スワロフが居た所。つまり、敵艦隊の目の鼻の先に居る。


 「距離凡そ2メートル!このまま、敵艦隊の艦橋を全て切り落とす、右舷左舷、魔導刃マジカルセーバー展開!秘匿速度五十!」


 私の艦は、両舷に巨大な赤い魔導刃マジカルセーバーを展開し、高速で走り出す。

 三笠は、ひと振りの名刀が豆腐を切る様に、ルーシア艦隊の艦橋を切り抜ける。

 三笠が通った後方では、巫女キーを失った、敵艦がバラバラと分解していく。


 終わった頃には、ルーシアのガチロック艦隊は、雲海に姿を消していた。


 『凄いです!ルーシア艦隊が全部堕ちました。日本界界戦は、我がヤマト国の勝利です!』


 『うむ!』


 私は、MOBの報告を受けながら、戦闘終了の表示と評価が出るのを待った。

 だが、待てども、戦闘終了の表示が出て来ない。

 え、出ない、どうして出ないの?っと困惑した。

 暫くして、私の艦の上に二艦が泊まり、二人の人物が、私の前に降りた。


 「やりましたね、東郷さん」


 「おめでとうございます、東郷さん」


 言いながら抱きつく二人から、温もりを感じた。

 黒のショートヘアに琥珀の瞳、黒のセミロングに赤い瞳の美少女達。

 二人は、大人気VRMMO【空艦少女大戦】の選択キャラ。


 【山本磯子やまもといそこ】【南雲忠子なぐもちゅうこ


 私は、現実リアル虚実ゲームの違いが、分から無くなる無限の時間を感じた。やがて、周りから少女達のバンザーイという声が聞こえ、此れが現実リアルなのだと実感した。


 そして、三人目のキャラが私、【東郷八子とうごうはちこ】。


 どうやら私は、異世界に、紛れ混んでしまった様だ。

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