幼馴染みと再会2『シルフィ』




 森の前で待機すること三時間ちょっと。


 俺は暇すぎたのでジンジャーと指をタッチしあって5になったらアウトになる、名前はわからないけど里に昔から伝わっている遊びをしながら時間を潰していた。


 レグル嬢や騎士二人も読書をしたり、目を閉じて休息を取っていたり、周囲を警戒していたり、それぞれの方法で過ごしている。


 ここまではシルフィを狙った薄汚い輩は姿を見せていない。


 俺のときは割と早くから待ち構えていたようだったが……。


 あいつらを全滅させた後、代わりの人員は用意されなかったということか?


 だとしたら安心できるのだが。


「それにしても結構待つもんだな……」


「まあ、里から森を抜けるまで半日かかるからね」


 そうだったな。


 普通のエルフの足だとそれくらいかかるんだった。


 絶対先に待っていないといけなかったから早めに到着したけど、暇なのは否めない。


 急ぐ必要のある旅じゃないからシルフィは俺と違ってまったりペースで歩いてるだろうし。


 どうやら、まだまだ待つことになりそうだ――



 なんて思っていたら。



「えっ……ウソ……グレン? どうして? 幻覚じゃないわよね……!?」



 一時間もしないうちに、森の小道を掻き分けて銀髪の美少女エルフがひょっこり顔を出したのだった。




◇◇◇◇◇




「まさか本当にグレンも……」



 シルフィは感極まった様子で口元を押さえ、なぜか両方の瞳にじんわりと涙を浮かべながら駆け寄ってくる。

艶やかな質感が靡くたびに伝わってくる白銀の髪。


 太陽の光が射し込むことでその白さがより一層際立つ透き通るような肌。


 絶妙なバランスの小顔と細く締まった長い脚。


 人間の顔の基準に慣れてから久しぶりに見るとアレだな……。


 容姿が抜群すぎてとんでもない存在感あるなコイツ。



「す、すごい……なんと美しいのでしょう……」


「彼女の周りにだけ輝く光の粒が漂っているようだ……」


「神々しい……まさに妖精……」



 すたたたっと走ってくるシルフィの姿を目にしたレグル嬢たち人間組は呆気に取られた様子で彼女に見惚れていた。


 エルフのなかでも際立った美少女の部類に属されるシルフィの容姿は人間族からすると異次元の美貌なのかもしれない。


 レグル嬢、エヴァンジェリン、デリック君たちもエルフに引けを取らない御尊顔ではあるんだけどね……。


 シルフィと比べると霞んでしまうからやべぇわ。


「シルフィ、しばらく会わないうちにまた美人になったねぇ」


 ジンジャーも感心したように頷いている。


 ふむ……。


 思ったのだが、シルフィのヤツ、ひょっとして人間の街に出たら相当目立つのでは……? 


 これは奴隷商のことがなくても迎えに来て正解だったかもしれない。


 変に注目されてルドルフみたいなやつに因縁つけられたら大変だもんな。


「どうして? どうして先に旅立ったグレンがいるの? ずっと遠くまで行ってみたいって言ってたのに……。もしかして、近くの街で待っててくれたの? わたしの出発に合わせて戻って来てくれてたの?」


 どこか熱っぽく、浮かれた雰囲気で俺に話しかけてくるシルフィさん。


 すんごい笑顔で頬も心なしか紅潮してる気がする。


 森を抜けてきたのも予想より早かったし、もしかして外の世界がそんなに楽しみだったの?


 シルフィってこんな外の世界に興味津々だったっけ?


「まあ、お前を待っていたのは違いないんだが……実はな――」


 俺が事情を説明するために口を開きかけると、


「むっ! あなたたち、もしかしてジョウオウサマ!?」


 レグル嬢やエヴァンジェリンに気付いたシルフィが二人に警戒したように身構えた。


「へ? いえ、わたくしは王族ではなく伯爵家の人間ですが……」


「わ、私も別に王族などではないぞ!? だ、断じて違うぞ! 無関係だぞっ!」


 突然の言いがかりに困惑しながら否定する二人。


 特にエヴァンジェリンはメッチャ必死だった。


「シルフィ、お前は何を言いだすんだ。大体、ジョウオウサマってなんだよ? あんまり二人を困らせるな。人間に会うのは初めてだから警戒するのは理解できるけどさ」


 とりあえず俺はレグル嬢たちとシルフィの間に入って仲介役を務める。


 レグル嬢たちの救いを求める視線もすごかったし。


「ああ、違うならいいのよ。てっきりグレンを熟練の技でたぶらかしてるのかなと思って」

あっさり矛を収めるシルフィ。


 熟練の技? というか、素早く鞭を取り出してるけど、それどう使うつもりだったの?


 ホント、お前は何を言ってるの?


「今は必要じゃなかったみたいだから、これは後の楽しみにね? ふふっ、まさかこんな展開になるなんて――」


 シルフィは笑顔で鞭をビインッと張って答えた後、ゴキゲンな調子でよくわからん独り言を呟きだした。


 シルフィって鞭なんか使えたっけ……?


 何を準備してくれたのか知らんが、それは少々方向性を間違った努力なのではないか?


 彼女の自信満々な表情に嫌な予感しかしない。


 俺が里を出た後の二か月で何があったというのだ。


 気になるけど聞きたくないぞ……。



「エヴィ……もしかしてお二人はそういう睦まじい間柄なのでしょうか? 異性のわたくしたちがグレン様の近くにいたからシルフィさんは勘違いして怒って……」


「その可能性は十分ありますが、鞭で楽しむと言ってますからね……。お嬢様の仰る『そういう』に別の意味の『そういう』を重ねがけした特殊な関係の場合も……」



 二人とも、こそこそ話してるけどそれなりに聞こえてるからね……。



「うへへ……」



 何かを妄想しながら緩み切った表情を浮かべているシルフィの耳には届いてないようだが。



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