幼馴染みと再会1『トラックの本領』
「そんじゃ、行くとしますか!」
太陽も登り切っていないような早朝。
俺は幼馴染みのシルフィを迎えに行くためエルフ里に出立しようとしていた。
エルフ里から森の外まで、普通のエルフなら歩いて半日以上はかかる。
今から出ればシルフィが森を出る前には余裕で待ち構えていることができるはず。
そう、トラックの力を持つ俺ならね!
「あのう、グレン様。本当にわたくしどもを乗せていくのですか?」
レグル嬢が遠慮がちに、というか半信半疑な感じで訊ねてきた。
今日、俺は一人で行くわけではない。
レグル嬢、エヴァンジェリン、デリック君、ジンジャーも一緒に連れて行く。
俺がシルフィを迎えに行くため一時的に学園を離れたいとディオス氏に相談したら、この機会にエルフ側とも話し合って対策を練りたいと言ってきたのだ。
ジンジャーは俺より早く旅に出ているため、一年は里に帰れない魔法の効果がすでになくなっているから里までの連絡係。
レグル嬢はエルフの大人たちに事情を説明する人間側の使者として。
エヴァンジェリンとデリック君はレグル嬢の護衛役である。
「俺がしっかりと目的地まで配送してやりますよ!」
俺の背後には華美な装飾こそないが、質のいいしっかりした造りの馬車があった。
だが、ここに馬はいない。馬の位置には俺がいる。
エルフ里のある森までは俺が馬車を引っ張って彼女たちを連れていくのだ。
本当なら背中(シート)に乗せていきたいところだが……。
今の俺は運転手のみが座れる定員一名の人型ボディ。
頑張れば二人くらいはいけるかもしれないけど、四人はさすがに難しいものがある。
そもそも四人とか前世の姿でも座席数の関係で不可能だし。
なので、今回は馬車を借りてコンテナの積み荷感覚で全員を運ぼうというわけ。
ふむ……。
皆、自分たちを乗せた馬車を俺が引っ張れるのか心配してるな。
見てろよ、元の世界で物流を支えていたトラックの本領を発揮してやるぜ!
◇◇◇◇◇
途中ですれ違った行商人などを驚かせ、程よく愉快な気分になりながら、俺はノンストップで故郷の森まで走り続けた。
数時間後。
俺はこの世界の基準なら到底ありえない時間で里のある森に辿り着いていた。
「いやぁ、走った走った!」
久しぶりに長距離の荷物輸送をやり遂げた充足感。
ただドライブするだけでなく、こういう運搬目的で走るのもたまにはいいね。
懐かしさもあるし。
トラックの力を久々に普通の用途で使えた気もするし。
知ってるか? トラックは人や魔物を轢いたりするためのもんじゃないんだぜ?
もちろん、民族競技で無双するためのものでもない。
「本当にもう着いてしまったんですね……あとすごい揺れました……」
「グレンの足が速いのは知ってたけど、馬車を引っ張っていく力もあったんだね……」
「うぅ……酔った……気持ち悪い……うえええええ」
「デリック! しっかりするんだ! デリックゥゥうぅぅウゥウゥゥゥゥ!」
荷物たちは各々、驚いたり吐いたりしていた。
車酔いって、弱い人は本当に弱いよね。
つか、揺れたのはアレか、馬車で高速道路並みのスピードを出したからか?
「ところでシルフィさんはどのような方なんですか? グレン様の幼馴染みだとは聞いていますけど」
馬車から降りて一息ついて。
気力と体力が回復したレグル嬢が世間話風に訊ねてきた。
シルフィが森を抜けて来るまではしばらくかかるだろうからな。
こういう雑談でもして時間を潰すのも悪くない。
「そうですね、シルフィは俺の隣の家に住んでて……まあ、美少女ですね。里で一番の美人になるって子供の頃から言われてたほどに」
「美形揃いのエルフでも一番の美少女とは! それは会うのが楽しみになってきたな!」
エヴァンジェリンがパアッと表情を輝かせる。
レグル嬢とデリック君もそわそわしてるので、エルフ基準の美人というのは人間からするとどれほどのものか気になるのかもしれない。
「あと、俺には当たりが強かったですね。他のみんなには優しいのに……」
「グレン様とは仲がよろしくなったのですか?」
「いや、そんなことはないはずなんですが」
俺とレグル嬢の会話を聞きながら、ジンジャーが生暖かい表情でこちらを見ていた。
おい、なんだその『わかってないなぁ』みたいな態度は?
何が言いたいのだ。
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